第四話 始まりの朝1
「くーくん起きてー! 朝だよー? 目覚まし鳴ってるよー」
体が揺さぶられているのに気が付いて黒一は目を覚ました。
耳元では昨日寝る前にセットしたアラームが一定間隔の振動と共に鳴り響いている。
寝ぼけ眼の視界には百合が困り顔でこちらを覗き込んでいる姿が写った。
「おう、おはよう百合」
「もー、やっと起きたー。くーくんってばずっと目覚まし鳴ってるのに全然起きないんだから」
「すまんすまん。聴こえなかったわ」
「まったくもー、いつもこうなんだからくーくんは」
百合がぷくっとほっぺたを膨らませる。
怒っている様だがその姿はとても愛らしい。
「ほら、すぐ朝ごはんにするから顔洗って歯磨きしてきてね」
そう言い残して百合はキッチンへと歩いて行った。
「......起きるか」
残された黒一は蹴伸びをして縮こまった身体をほぐすと洗面所へと足を進めるのだった。
◇◇◇
数分後、黒一が戻ると布団は片付けられており、その空いたスペースに丸テーブルが用意されていた。
その上には朝食が並べられている。
メニューはトーストとコーヒーだ。
綺麗に焦げ目のついたトーストのいい匂いと深いコクのある豆の香りが黒一の鼻腔をくすぐる。
そして、百合は先に座ってニュース番組を見ていた。
「くーくん占い始まっちゃうよ」
「お、もうそんな時間か」
言われて黒一は慌てて百合の対面に座った。
ちなみに占いとは毎朝見ているニュース番組の中で行われる星座占いの事だ。
ちまたではよく当たると話題のコーナーらしい。
あまり占いに興味はない黒一だが毎日百合が欠かさず観ているのでいつしか朝のルーティーンとなっていた。
「じゃあ、食べよっか」
「だな」
揃った所で百合が丁寧に手を合わせて挨拶をすると黒一もそれに続く。
そして、黒一はバターを、百合はいちごジャムを各々トーストに塗る。
その最中、ニュース番組のコーナーが切り替わった。
『今日の星座占いのコーナー!!』
コーナー担当である女性アナウンサーの明るい声が響き渡る。
「あ、始まったよ。獅子座一位だと良いなぁ」
百合はそんな期待を込めて占いコーナーに視線を向けた。
結果はスムーズに発表されていき、あっという間に残すは1位と12位だけとなった。
未だ獅子座と乙女座は発表されていない。
「どうしよう、なんだか緊張してきちゃったよ…」
「確か昨日、獅子座最下位だっただろ? 二日続けてドベって事はさすがに無いんじゃないか?」
「でも前に連続で最下位の時あったし…」
「まぁ確かに…」
確率は二分の一だ。
しかし、前例があるが故にその枠には収まらない。
黒一も何故だか心臓の鼓動が速くなった。
『今日、スーパーラッキーな1日を過ごせるのは〜?」
女性アナウンサーの軽快な言葉と共にテンポの良いドラムロールが鳴り響く。
そして、ドン! と最後に強く打たれるとアナウンサーの口が開かれた。
『――――乙女座のアナタ! 今日は最高の1日になりそうです! 悩んでた事が解決するかも!? 水玉模様のハンカチを持ち歩くと更に運気アップです!!」
「えー! うそー! そんなぁ...」
獅子座が最下位という事が確定し、百合はがっくりと肩を落として深いため息をついた。
「あー……。まぁ、所詮占いだからな。気にすることないって」
黒一は落ち込む百合を励ましてコーヒーを啜る。
「そ、そうだよね…! 所詮占いだもんね。それにまだラッキーアイテムがあるんだから!」
「そうそう」
気を持ち直した百合はテレビに顔を向けて最下位の発表――――否、ラッキーアイテムの発表を待った。
『そして、残念...獅子座のアナタ......突然の不運が訪れそうです…頭上には注意してください...そんなアナタの運気を上げるラッキーアイテムは作業着です!! 以上、今日の星座占いでしたー!』
結果は万が一にも変わらず獅子座が最下位。
そして、占いコーナーは流れるようにアナウンサーが一礼して幕を閉じると次のコーナーに切り替わった。
「......作業着とはまた珍しいラッキーアイテムだったな」
「だねー…。うーん...作業着かぁ...くーくんは仕事着だよね。私はエプロンになるのかなぁ?」
「じゃないか?」
黒一が言葉を返すと何やら百合が悩み始めた。
「うーん」と唸って腕を組み首を傾げて目を瞑っている。
「よし決めた! 今日は一日中エプロンで過ごす事にする!」
「ホントにか? 動き辛くてしょうがないだろ?」
「んーん、大丈夫! 1日くらいへっちゃらだよ! これもいい1日を送るためだもん!」
百合はそう言い切って、
「じゃあ早速エプロン着てくるー!」
と言い残し、そそくさとエプロンを身につけに行ってしまった。
そして、すぐに一番のお気に入りである花柄のエプロンを纏って戻って来た。
「これで大丈夫だね!」
「おう、バッチリだ。やっぱり百合はエプロンが似合うな」
「えー? そうかな〜? えへへ〜」
褒めると百合は恥ずかしそうに縮こまった。
その姿は目に入れても痛くない可愛さである。
「よし、じゃあ俺も着替えてこようかな」
「私も片付けしよーっと」
黒一は最後の一口となったトーストを口の中へ放り込むと自身も作業着に着替える為に席をたった。
それと同時に百合も食べ終えた様で空いたお皿を片付けると朝食はお開きとなった。




