第一話 始まりの前夜1
残業丸です。
よろしくお願いします。
「ったくよぉ今日もこんな時間まで仕事させやがって。マジで終わっとる」
と。ひとり呟いて黒上黒一は会社での残業を終え夜道を車で走っていた。
ふと車内の時計を見ると23時を回っている。
さすがにこの時間ともなるといつもは混んでいる片側二車線の道路も貸し切り状態でスムーズに車は進んでいく。
そして、そんな閑散とした道路をひた走ること30分。
黒一の視界に一つの建物が写った。
築数十年と言った面持ちのそれは黒一が住まうアパートである。
「ふぅ...到着っと」
黒一はアパートの駐車場に乗り入れ、慣れた手つきで指定された場所に車を停めると降車し、借りている部屋に向かって歩き始めた。
途中、玄関に繋がる廊下の電灯に天敵である虫が群を成して飛び交っており、冷や汗をかいたが素早く通り抜け事なきを得た。
やがて家の玄関付近まで足を進めた黒一は部屋の小窓から明かりが漏れているのに気が付いた。
「ん? まだ起きてるのか...?」
呟きながら玄関の前へ立つと黒一は鍵を解錠し扉を開いて家の中へと入る。
すると、一人の女性が満面の笑みで黒一の帰宅を出迎えた。
「あ、くーくんおかえりー!」
彼女は白華百合。
黒一の幼馴染であり婚約者である。
腰ほどまでに伸びた綺麗な黒髪を三つ編みにした少し子供っぽい見た目と体躯が特徴的な女の子だ。
そんな彼女を見ると花柄のエプロンを身に纏いお玉片手に鍋の中をかき混ぜていた。
どうやら黒一の夜食を作っているようで部屋の中にはそれが原因と思わしきスパイシーな香りが広がっている。
「これは...カレーか?」
鼻に伝わって来たその匂いからそう推測した黒一は百合に尋ねた。
「ピンポーン! あったりー! でね、明日はカレーうどんだよー!」
予想は見事的中。
同時に明日の夕飯のメニューを聞かされた黒一は感慨深そうにうんうんと頷いた。
「やっぱりカレーの次の日はカレーうどんって言うのは鉄板だよな」
「だよねー。節約にもなるしね」
「だな。ちなみに福神漬けはあるか?」
「もちろんあるよー! これがないとカレーじゃないって言うもんねくーくんは」
言いながら百合はパックに入った福神漬けを自慢げに掲げた。
「さすが百合だ。分かってる」
「でしょ~、くーくんの事はなんでも知ってるんだから」
自慢げに「ふっふーん」と鼻を鳴らして百合は鍋の中のカレーをかき混ぜる。
それを愛らしく思いながら黒一は仕事で使っているリュックサックをおろした。
「ところで風呂って沸いてるか?」
「うん、準備出来てるよー。いつでもオッケー!」
「そうか、じゃあ先に入ってくるかな」
「はーい。あ、棚の中に入浴剤あるから良かったら使ってね」
「おう分かった」
黒一は百合の気遣いに感謝しつつ風呂場へと向かうのだった。




