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放蕩者まかり通る  作者: 淳
9/23

9.洗礼の準備(2)

少し暴力的な表現がありますご注意下さい。

 衣装の仮縫いも終わらせた、レイナールたちは宿の中で寛いでいた。ベッドの2つある部屋で、それぞれのベッドに親子で座って、色々と話をしていた。

 主には、アニーが、今日初めて見た物や人、町の様子を夢中になって話していて、その様子を、大人2人も微笑みながら、楽しんでいた。ただ独りレイナールは暗い顔をしていた。


「レイ、いつまでもしょげてるの?女の子に間違われるのは、いつものことでしょ」レイナールの顔を覗き込みながら、揶揄う様に言うアニー。


 服屋さんで、洗礼の衣装と言ったら、レイナールにまるでウェディングドレスの様な真っ白で光沢のある衣装を店員さんが持って来たことを言っているのであろう。


「そんなことは、あんまり気にしていないよ!」とイラつきを隠さずにレイナールは答えた。『あんまり』と言っている時点でレイナールの本心が見えるのだが、

「じゃあ、なに、おこてるのぉ?」レイナールのイラつきに気づき、心配そうに聞き返すアニー。


 レイナールは、町で見かけた奴隷たちのことを話し出した。アニーと大人2人は、思わぬレイナールの言葉に、驚きながらも真剣な表情になり話を聞いた。時折マリナとタニーが説明や意見を挟みながら、3人は話し込んでしまい、いつの間にか、アニーは、タニーの膝の上に頭を乗せて眠ってしまっていた。


 この世界には2種類の奴隷が存在する。犯罪奴隷と一般奴隷である。犯罪奴隷は言葉の通り犯罪を犯した者がその罰として奴隷に落とされたもので、まず解放されることはない。

 一般奴隷は、自分から奴隷になる場合と、戦争に負けて捕虜から、身請金が払えずなる場合などがあるがここでも識別票(カード)が登場する。奴隷になると【称号】の欄に【誰それの奴隷】と真っ先に表示される。犯罪奴隷であれば【00国の犯罪奴隷】などと表示される。

 奴隷は、一般奴隷でも犯罪奴隷でも【隷属】魔法により管理され、【隷属】魔法を使える者は基本的には国に管理される。国専属の隷属師になるか、国の管理の元に奴隷商人になるか、教会専属の隷属師くらいにしか、人生の選択肢はない。当然隷属師にならない選択肢はあるのだが、無許可の者が【隷属】魔法を使うと死刑若しくは犯罪奴隷落ちである。無許可の者が【隷属】魔法を使用すると、識別票(カード)は黒くなり、文字は白く浮かび上がりこちらも一目瞭然となる。

 ただ、識別票(カード)は、身分を証明する時以外は自発的に出すことはない。衛兵などに尋問される以外に、日常生活のなかで強制的に提示させられることはほぼ無い。このため、無許可で【隷属】魔法を使う違法隷属師も少なくない人数が存在する。その為に、第3の奴隷、違法奴隷が存在してしまう。


 違法隷属師により罪の無い人が勝手に【隷属】魔法で奴隷にされてしまうのだ。これによって本来は如何なる理由があっても洗礼前の子供には使われないはずの【隷属】魔法が使われ、小さな子供の奴隷も存在してしまっている。違法奴隷に関する知識は"レイナール"の知識としても存在していた。実際のところ、犯罪組織や盗賊の摘発によって洗礼前の子供の奴隷は過去にもかなりの数が発見されている。

 親たちに、奴隷の話を聞いていたレイナールは、胸の中に新たに怒りを感じ、今にも暴走しそうであったが、途中からマリナが抱きしめて話していたので大事には至らなかった。しかし、子供の違法奴隷の話になった時には、レイナールは我慢しきれずに悔し涙を流し、マリナに頭を撫でられていた。そして、頭を撫でるマリナも涙を流していた。知識として奴隷を理解していたレイナールであったが、実際に自分の目でその姿を確認すると、色々な思いが"零"の感情とも合わさり湧き出した様であった。旅の疲れからか、いつしかレイナールは、涙を流したまま、マリナの胸の中で、寝息を立て始めた。


 翌朝、目を覚ましたレイナールは、いつも通りの明るさを取り戻し、陰りのある表情は見せなかった。アニーはそんなレイナールに気付き、いつもに増して、引っ付いていた。そんな二人を親たちも安心した表情で見守っていた。

 今日は1日掛けて、野営道具や日持ちのする携帯食品などや旅行用の衣類や靴などを買い揃えてから、もう1泊して帰る予定でいた。旅の必需品はなんだかんだで大量になってしまい、ロバで牽ける荷車を買いそれに積んでいった。元冒険者のタニーは慣れたもので、直ぐに目ぼしい物を見つけては、適量を買うのだが、マリナがあれこれ心配し、時間は掛かるは、荷物は増えるはという状況になってしまた。もう、3,4人増えても大丈夫に思えるほどの荷物になり、結局ロバは、大活躍をすることになった。


 夕食を済ませ宿に向かう頃には、辺りはかなり暗く、表通りは大丈夫だが、脇に入ると真っ暗な感じになってきた。ただ、宿までは表通りだけを、歩いて行けるので安心ではあった。アニーは、途中から買い物に飽きてしまい、ボールを買ってもらっていてそのボールで遊びながら歩いていた。


「もうぉ、アニー、危ないから、いい加減にしなさい」呆れた様に起こるタニー。


"どてっ"言っている傍から、躓いてアニーが転んだ。

「あっ、いっ、いったぁ~いっ  ><。」涙ぐむアニー。

「だから、言ったでしょ、本当にあなたは!! --*」怒りながらも駆け寄るタニー。


 アニーが転んだ拍子に、ボールは路地の中に転がって行ってしまった。レイナールが、ボールを追いかけて、路地に入って行った。後ろから心配するタニーの声が聞こえたが、振り返らずに手だけを振って大丈夫とサインだけして、レイナールは路地を更に進んでいった。

 ボールは、積み上げられたゴミの山に、当たって止まっていた。そのボールを拾って戻ろうとした時に、ゴミが少し崩れた。暗闇の中だが、どうにか廻りくらいは確認できた。ゴミの崩れた部分には大きな人形の足が出ていたが、酷く汚れていてとてもアニーへのプレゼントにはならないと思い振り返り戻ろうとした時今度は大きくゴミが崩れた。レイナールが目を凝らすと、人形は小刻みに震えている様だった。近づいて確認するとその人形は紛れもない人間であった。


「レイ様、どうかされましたか」戻らないレイナールを心配した、タニーがやって来て後ろから声を掛けた

「おっおおぅ!タニーか脅かさないでよ」本気で驚いた、レイナールの反応にタニーも驚いてしまい

「えっ、えっ、申し訳ございません!!!」と少しおかしな反応を示した。


 今の、レイナールは、訓練の成果で、多少の不意打ちにも対応してしまうので、タニーにとっては驚かれたことに驚いてしまっていた。そのレイナールの、視線の先には今にも死にそうな、獣人の少女が横たわりその首には"隷従の紋"と言われる【隷属】魔法による奴隷の証である紋が浮かんでいた。


「タニー、これを見て」悲しそうにタニーに声を掛けるレイナール。

「んっ!これは!!!」覗き込み、その死体の様な人を見て、タニーは息を飲んだ。


 今すぐ、息を引き取ってもおかしくない状態の少女を見て、戸惑ってしまった。闇の中では、何が起こるか解らないし、少女の状態も確認できない。そもそも、なぜこんな状況になっているかも解らない為に、この場は離れるべきであった。怪我の状況が解らない中では、下手に治癒魔法も掛けられない。取敢えずタニーが回復魔法を掛けた。少女の呼吸は少し落ち着いたので、どうにか運ぶことは出来る様になった。

 荷車に少女を乗せて布を掛けて隠して、宿まで運びアニーの上着を羽織らせて、タニーが少女を背負って先に部屋に入り、何食わぬ顔をして、マリナがレイナールとアニーを連れて、少し遅れて部屋に戻った。

 少女の服を脱がして状態を確認したところ、両手両足は骨折していて、右足は膝から下が無く、全身擦り傷や切り傷、痣や火傷まであり、尻尾と右の獣耳も切れてなくなっていた。左目は大きく腫れ上がり、頬にも切られた跡があった。レイナールは、拳を握り締め、強く唇を噛んだ為に、血が流れ出していた。アニーは我慢できずに泣き出してしまったが、声は出さずに涙だけを流し、そんなアニーをタニーは後ろから優しく抱き締めていた。


「これでは、いくら治癒魔法でも・・・」マリナが力なく呟いた。

「ルーメ!お願い!!!」レイナールが顔を上げてルーメを呼んだ。

「これは酷いのぉ、妾の力がいるのじゃな」レイナールの目の前に妖精姫のルーメが現れた。


 ルーメの力を借りて、レイナールは力の限り治癒魔法を掛けた。少女の全身を白い光が包み、1時間ほど光り続け、光が消えた時には、傷一つ無い身体の可愛らしい狐の獣人の女の子が現れた。しかし、身体は完全に治癒されているのに、少女の苦しそうな息遣いは変わらず、額には汗が滲んでいた。消耗の激しいレイナールに変わって、マリナが回復魔法を掛けるが、少女は苦しそうなままであった。


「これはもしかすると"反逆の罰"なのでは、ないでしょうか?」タニーが呟いた。

「"反逆の罰"ですか?ではこの娘は逃亡奴隷と言うことですか?」問い返すマリナ。

「でも、この娘はどう見てもレイナールより幼いと思うのですが・・・」戸惑いながらも言葉を続ける。

「違法奴隷!?」タニーの言葉にマリナも悲しそうに頷いた。


 少女の状況から違法奴隷の少女が主人に逆らって【隷属】魔法の呪いとも言われる"反逆の罰"の力で苦しんでいると、二人は判断しレイナールに説明した。


 二人の説明はこうである。"反逆の罰"とは奴隷が主人に逆らうと、発動する呪いの様なもので、発動すると全身を激しい痛みが襲い、動けなくなりいずれは命を落とすというもので、通常は痛みに耐えきれずに、服従するのでその場で痛みは消えてしまい死ぬことはない。これにより主人は奴隷に襲われること無く安心して奴隷を持つことが出来る。そして、この効果を利用して奴隷の生活出来る範囲を制限し逃亡を防ぐことも出来、この方法は広く使われている。

 ただし、【隷属】魔法には、奴隷を護る効果もある。主人及びその命令を受けた者は奴隷を殺すことは出来ない。しかし、首を落としたり、心臓を貫く様なことをすれば当然奴隷は死ぬのだが、同時に主人と実行者も命を落とす。この効果を"悪主の罰"と言う。ただ致命傷で無ければ、奴隷は死なないので、折檻はし放題となってしまい、死ぬより辛い眼に会うこともある。また、主人が意図的に極度の栄養失調や飢餓状態に奴隷を追い込み殺した時も主人は命を落とす。

 更には、第3者が奴隷を拉致や誘拐した場合はと言うと、"反逆の罰"で奴隷は死んでしまう、これも逆説的に奴隷を護っている、苦労して攫っても結果死んでしまうので誰もそんな無駄はしないのであった。

 この少女も多分主人から折檻を受けていた為に、通常なら死んでいる状態であっても生き永らえ、死ねずに苦しいでいるともいえる。そして自力で逃げ出したのか、"反逆の罰"で苦しんでいる様であった。《閑話休題》


 苦しみながらも、少女は意識を取戻し、途切れ途切れに言葉を絞り出し"反逆の罰"でこのまま死にたいと言ってまた意識を失った。その顔は、相変わらず苦しそうに歪んで、額には汗が滲んでいた。

 その少女を見つめる、レイナールの目は、酷く冷たくまるで、獲物を狙う獣の様であった。

またまたノーチェックです。

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