8.洗礼の準備
兎に角毎日投稿を目指して頑張ります
レイナールとアニーは、健やかに育ち、いや健やか過ぎる育ち方をし、7歳になろうとしていた。ダインとアニーから、剣術や魔法の手解きを受け、マリナからは礼儀作法や一般教養を教えられていた、レイナールは、ものすごい速さで力を付けていた。
マリナの教育を、レイナールと一緒に受けていたアニーも、同じ様に完ぺきで、7歳を前にして立派な淑女として振舞うことが出来た。しかし、流石に6歳では、淑女と言うよりは、お転婆娘、いやじゃじゃ馬娘といった方がいい、活発なお嬢さんであった。まだ、洗礼前なので当然と言えば当然である。しかし、タニー譲りの美貌は、少女の可愛らしさだけでなく、時折"はっ"とする美しさも見られる様になっていた。
"レイナール"が成長することによって、私"零"の知識も格段に広がった。そして、私が"レイナール"に慣れて来たのか、"レイナール"が"零"に気付いて来たのか、時々、"レイナール"は"零"を使う様になり、私も"零"として僅かな間だが、"レイナール"の身体を使うことが出来る様になっていた。
そして、もう一つ大きな変化は、"レイナール"が寝たり、意識を失うと"零"は身体から離れることが出来る様になった、ただし、"レイナール"を感じられるくらいの距離ぐらいまでではあるが。
もしかしたら、私は、"レイナール"に吸収されたのではなく、背後霊とか守護霊と言った類に転生したのかもしれない。そして、私は"レイナール"の中に、私以外の力をはっきりと感じる様になっていたがその力が何なのかは、"零"の知識にも"レイナール”の知識にもなかった。
ここで、少し私"零"の手に入れた、知識を整理する。この世界の1年は、375日で閏年はない。平面世界の様だが時間は存在し、1日は24時間であるが、時計はあまり普及していない。大きな街には、教会や時を知らせる時計台などがあり、帝都の公園には、時を知らせる噴水まである。平面世界であるのに、太陽は東から登り、西へ沈み、月も星もある。但し、月は年中三日月の形であり、欠けることも満ちることもなかった。
村外れの森の中にひっそりと建つこの家では、とくに時間の感覚は緩く、日の出とともに起きて、日没と共に仕事を終える様な生活であった。ちなみに1年中、日の出は6時で日の入りは18時であった。四季もあるようなのだが、この辺りは1年中、気候の変わらない過ごしやすい地域であった。
1週間は7日で、1ケ月はきっかり5週の35日であるのだが、月の始めと終わりに1日づつ【光】の日と【影】の日が入るので実質は37日と言える。
1年は10ケ月で、春の二月、夏の三月、秋の二月、冬の三月と呼ばれる。そして季節の変わり目にも1日づつ挟まれるが、冬と春の間だけ2日挟まれる。1年は春の1月から始まり、冬の3月で終わる。年の初めを"聖の日"と言い終わりを"闇の日"と言い、季節の変わり目の日を"天の日"と言った。
1週間は、"海の日"から始まり"火""風""地""水""土""山"の7日で、"火の日"の様な4属性の日が活発に動く活動の日で、"海の日"など自然を連想させる日は、どちらかと言うと静養の日とされ仕事を休むことが多いが、職種によってまちまちで、決まり事ではなく慣習と言った感じである。
月の初めは、"光の日"と言い、最終日を"影の日"と言う。"光の日"は礼拝の日とされ、"影の日"は懺悔の日とされているが、これも不文律で、どの教会でも日を選ばずに、礼拝も懺悔も受けることは出来る。
季節の変わり目の"天の日"は元々神々に感謝を捧げる日で、この日に祭りを催す国や地域、神殿が多くある。そして同じような日として、"聖の日"と"闇の日"があるのだが、"闇の日"は邪悪な魂が滅びる日とされていて、未だに色々と痛ましい事件や物騒な騒動が起きる日である。
逆に、"聖の日"は滅んだ魂が良い魂として再生される日とされ、唯一『洗礼』が行われる日である。『洗礼』を享けることは神の『恩恵』を享けることで【適正】【称号】【技能】そして【加護】はこの洗礼によって発現されるとされている。ただ、全ての『恩恵』が洗礼によって覚醒する訳でもなく、人生の方向付けの目安と言った程度の【適正】と【称号】【技能】が現れるのが普通である。特に特殊な血を引かない庶民などは基本の【適正】以外何も授からない者も多い。
洗礼の儀式の詳細は省くが、洗礼を享けると全ての人に【識別票】が与えられる。この不思議な【識別票】が今後の人生の身分証明書となり、この【識別票】を取得する為に人々は洗礼を享けるのである。
【識別票】の裏面には、【名前】【種族】【年齢】【性別】【適正】【能力】【称号】【技能】【加護】の9つの項目が記されているが本人が魔力を流さない限り見ることは出来ず、自動では更新されないためあまり利用されていない。洗礼時には、【識別票】とその裏面を皮紙に複写した【個人能力表】も同時に受け取るが、こちらも自動更新はされないので、一種の記念品程度のものである。
肝心の表には、【名前】【適正】【称号】が常に表示されて、本人の成長と共に自動的に更新される。洗礼時は必ず石で出来た【識別票】となるが、決して、傷付くことも割れることも無く、偽装することも出来ない。そしてこの【識別票】は身分証明に使われるのだが、王国貴族や奴隷までいるこの世界では、ある程度隠してもいいことになっている。【名前】はファーストネームが見えていれば良く、家名は隠しても問題ない。【適正】も【称号】も一つ見えていれば言い。
【称号】に関しては、表示される順番が決まっていて、最初に犯罪に関する【称号】続いて身分、血筋、天啓、実績、通名となる為に1つ見えていればいいことになっている。また、犯罪の【称号】が現れると全ての文字が赤色に変わるので、一目瞭然である。また、無理に犯罪に加担させられても【称号】は出るが必ず【強要犯罪者】と表示される。しかし、本人が少しでも犯罪を楽しむと普通の犯罪者として表示されてしまう。
また、他人の【識別票】を所持するとそれだけで【識別票】は黄色くなるが、それだけでは犯罪とはならず、他人の【識別票】を拾ったり、預かることは出来る。また、本人が死亡すると【識別票】自体が真っ赤に変色するが犯罪者の場合は文字が白字で浮き上がってくる。なかなか、身分証明書としては優秀な物である。
《閑話休題》
洗礼の日を2か月程後に控えたある夜、食卓で秘かに話をする者達がいた、レイナールの母マリナと、その従者であるダインとタニーであった。
「ついに、洗礼の日が来てしまうのですが、どうすればいいでしょうか?」思い詰めた表情で話すマリナ。
「【適正】や【称号】もかなり問題があると思いますが、まずは家名の問題ですが、享けるしか無いのではありませんか?」ダインは戸惑いながらも答えた。
「そうでしたね。家名の問題もあったのでしたね。いずれは、享けなくてはなりませんし、・・・やはりどうせなら早い方が、いいでしょうね。ここは覚悟を決めますか」呟く様にいったが、思いは固まった様であった。
「奥様、洗礼はどちらの街で、お享けになられますか?」タニーが申し訳なさそうに尋ねた。
「そうだったわね。レイナールの【適正】はあまり気にしても仕方ないと思うけど、アニーには、何か希望はありますか?」優しく応えた。
「それこそ、アニーについては気にして頂かなくても構いませんが・・・」何やら口籠るタニー。
「そうだよな、あのじゃじゃ馬には出来れば、【光】の【適正】が欲しいよな」 ダインがタニーを気遣う様に話した。
「そうなると、ヘイム様の祀られる教会ですか?・・・カトバーン伯爵領の領都ヘイムルですか?」とマリナ。
「ヘイムルですか、少々遠いですが、よろしいのでしょうか?」躊躇うダイン。
「遠いのは問題ありませんが、準備等間に合いますか?」と首を傾げるマリナ。
「決して、余裕と言う訳にはまいりませんが、明日からでも準備し始めれば問題無いかと思われます」
こうして、洗礼をヘイムルで享けることとした大人たちは早速、準備に取り掛かった。この辺鄙な森に建つこの家から、ヘイムルまでは、馬車で12~13日程度の距離で馬車の手配、旅の支度に、洗礼時の衣装、宿の手配など考えると中々大変である。ダインは早速宿を確保する為に、独りでヘイムルに向かった。行きに、馬車も注文し帰りには受け取るつもりの予定で出発した。
レイナールたちも支度を進めるのだが、ここで問題が発生した。野営に使う道具などは、隣り村では買えないので、歩いて3日くらいのところにある町まで行かなくてはならなくなった。
箱入り娘のマリナには、とても行ける様な行程ではない。せっかくならば衣装も作りたいので、子供二人は連れて行きたいのだが、それではマリナ独り留守番になってしまい。あれこれ考えるが、いい案は浮かばなかった。旅の準備は進まないが、日々時間だけは間違いなく過ぎて行き、あまり日程的に余裕がなくなって来たある日。
「はぁ、はぁ、 すぅ~~~~っ、ねぇレイ、ロバよ、ロバ、ロバがいた」 家畜の世話をしていたはずの、アニーが慌てて、居間に飛び込んで来た。
「--; そりゃぁ、飼っているんだから、ロバはいるよぉ、毎日、世話してるでしょ」呆れた様に返すレイナール。
「ったく!違うわよ!!マリナ様にロバに乗ってもらうのよ!!!」真っ赤な顔をして、怒る様にアニーが言った。
「あっ、成程それで行けそうだねぇ、やったね、アニー」騒ぐ二人に気付いて、マリナとタニーが顔を出した。
アニーの案を聞いたタニーは、主人をロバに乗せるなんてことは出来ないと、猛烈に反対したが、他に手立ても無く、当の本人が面白がって乗ると言い出したから、日も無いことから、タニーはアニーの案を受け入れたのであった。
ロバを連れた旅?買物は順調でと言うか予想外で、結局マリナは、1度もロバに乗ることなく、目的の町シャルマン辺境伯領、第2の町メリルに到着してしまった。特に訓練などしていないマリナも、ルーメたちの加護を享けて、【能力】が成長していたらしい。全員が成長していた為に、誰も気付かずにいた様だ。
メリルの町の周りには、石積みの外周壁があり町に入る為には、守備門を通らなければならない。ある程度の町には、外壁と守備門はあり、ここで手続きをして、町に入る。マリナとタニーは識別票を出した。質素な服装をし子供連れでロバを引いているが、絶世の美女である二人は、嫌でも目立ってしまっていた。その二人が、銀の識別票を出したから大騒ぎになった。この門では、隊長は銀だがそれ以外に銀の識別票を持つ兵士など一人もいなかったのである。しかし、手続きは問題なく終わり、町に入ることが出来た。洗礼前の、レイナールとアニーは【未識別票】と言う木で出来た票を首に掛けさせられた。この未識別票票は、掛けた時点で犯罪経験があると赤くなり、当然装着後に犯罪を起こしても赤くなる。この未識別票は町に滞在中は必ず見える様にしておく必要があり、町を出る時は当然返すことになる。これは、洗礼前の子供が、犯罪に加担させられない様にする為で、外壁のある町ではどこでも行われていることであった。
レイナールに銀の【識別票】のことを聞かれた、マリナは自分が【巫女】であることを、それらしく説明して誤魔化したが、子供たちの尊敬の視線を感じて頬を赤くして、俯いてしまった。
隣り村までしか出たことの無かった。レイナールとアニーは色々と珍しい物や景色に興味津々で、アニーは、はしゃぎ捲くっていた。ただでさえ絶世の美女二人と美少女二人?で目立つところにきて、はしゃぐものだから、町行く人々がみんな振り返り、ちょっとした騒ぎになってしまった。
人々の中には、獣人やエルフなどの亜人と思われる人も多くいて、馬車もそれなりに走っていた。町並みも綺麗で、アニーでなくてもはしゃぎたくなるのも理解出来る。そんなアニーを他所にレイナールは、時折怒りの籠った様な冷たい視線を送ることがあった。その視線の先には、奴隷と思われる生気のない眼をした、みすぼらしい恰好をした人が必ずいた。
この"レイナール"の行動は、私"零"の感情によるものと思われる。この世界は、普通に奴隷が存在し、奴隷に関する忌諱感はあまりない。私"零"の忌諱感に"レイナール"の感情が牽かれているのだと思う。理由はどうあれ、自分の意志の無い、隷属されたその姿に、"零"は怒りを感じ、その感情を"レイナール"は自分の感情として受け止めてしまった様であった。
平日はノーチェックで投稿します。
誤字脱字報告お願いします。特に表現については教えて頂くとありがたいです。