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エピローグ1

 その日墓地に立ち寄ったベータは、そのまま領主館に戻ってきたようだった。

 ジョットと二人でそのまま離れの小屋に向かっている。

 明日は新しく人が来ることになっている。

 だから、ユンはその準備をしていた。

 今の段階はそんなに問題ないけれど、もうしばらくすると難しくなるだろう。

 アンヌばあさんの娘さんがその道の第一人者で、その人によるとユンは楽なほうらしい。

 その後は体形が変わってしまい、恰幅が良くなることが多いと聞き、リアに話をちらっとしたところ、

『大丈夫なんじゃない? ヤローどもはウエストとかの凹んでるとこより、元から出っ張ってるとこのほうが好き』。

 確かに以前に聞いていた『男ってのはほぼほぼおっぱい星人・お尻星人・太もも星人に大別できるんだから』は実地で納得したのだが。

 そしてこのへんの意見には、アンヌばあさんの娘さんも太鼓判を押していたのだが。

「ちわー」

「はーい」

 ジョットに文字を教えてもらって、今では読み書きがだいぶできるようになっている。

 注文書などは何の問題もなかった。

「これ、間違ってない? 物はちゃんときてるけど」

「おっと、すんません。

 ところで、今度新しくこういうのが」

「今いいんで」

「え~、でも」

「いいんで」

「そっすかぁ~」

 帰っていく行商の背中を見送る。

 もうそろそろお茶の時間。戻ってくるころだ。

 ユンは調理場に向かった。

 ジョット自身についての説明を聞いても、前は難しくてわからなかった話が問題なく理解できるようになった。

 ジョットがたまに『僕は永遠に謎でいいんだ』なんて言う、その気持ちも分かるようになった。

 彼のことが明るみに出ないようにする必要があることはとてもよく理解できたから。

 しかし、手慣れた手つきで準備をしながら、ユンはこうも思っていた。

—————でもそれ、絶対やだ。

 あの人の姿形がなくなっても、残るようにはできないか。

—————あの人の本質をどこかに…いや、それは私が知っていればいいこと。

 ジョット・コーウィッヂという人がいたことをどこかに残せないだろうか。

 ジーの墓標はジーの意思にのっとっていた。

 でもジョットは領主。流石に墓石に名前ぐらい刻まないと。

 ユンはその時どうするべきだろう。

 ジョットの話が本当なら、多分、想像したくないけれど…ユンとジョットのうち先に逝くのは。

 それもずっと早くいなくなってしまうのは。

—————墓標の石に、名前だけじゃなくて『永遠の謎』とかって二つ名でも書いておいちゃうとか?

 想えば想うほど、ユンはいじわるな気持ちになった。

—————絶対、あの人を消せないようにしたい。全部消えていいって言ってるけど。

 『永遠の謎』。

—————そうだ! 『永遠の謎』はそのままでいいじゃない。ちょっとだけ、付け足ししたら?

 ユンは沸かした湯をポットに注ぎ終わり、蓋をし、ティーコゼをかぶせる。

 付け足すのは例えば、もっともっと仰々しくって、あの小さな体とは似ても似つかないような壮大な拡がりがある言葉をほんの一言。

 言葉からは、ジョットがやってきたこと——酷いこともされたし、逆にしたりもしたけど、国中を旅したり、村を作ったり、領地を栄させたり、魔物を倒したり、家族を持ったり——、そんなことのイメージだけが湧き上がってくるような。

 ジョットから文字を習うことに対して、ユンのモチベーションがますます高まった。

 そうやって大きく大きくなった、この村の後に残った人や他の人が想像するジョットの姿を思い浮かべてみる。

 それはユンが愛してやまないジョット・コーウィッヂとは全く別物だった。

—————だって本当のあの人は永遠に私だけの謎でいいもの。

 玄関の方から足音が聞こえる。

 ダイニングのドアが開いて、コビとシロヒゲとみどりちゃんもついでながら隙間から流れ込んできた。

「ただいま」

「おかえり、ジョット」

 ユンは自分がいかに強欲か思い知りながら、満面の笑みでティーセットをダイニングに運び込んだ。

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