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「おつかれさま」

 震える手で何とかジーの瞼を閉じ、ハンカチを顔にかける。

「ユンさん」

「連絡ですね。デューイさんが出勤したら…」

「いや…うん、そうだね」

「葬儀は…」

 前々から話していた通り、かつ、今しがた聞いた通りに答えた。

「ジーからやるなって言われてるんだ。

 墓ができたら墓参りくらいは構わないけどって。

 死んだら僕がって…」

「でも…」

「いいから! じ、持病は、伝染する可能性がゼロじゃないから…」

 今日はうまく嘘が出ない。

「ジーの体も、僕が1人で埋葬する。そうしろって、言われている。連絡だけ入れて」

「かしこまりました」

 召使い然と頭を垂れて部屋を出るユンは、ジョットとは大違いだ。

 立ち上がってジーの亡骸の横を離れても、全く頭が働かない。

 やらないといけないことがある。

 ジョットは心を絞って部屋の窓の鍵を開けた。

 自室に戻るとベータが作ってくれた呪符を手に取る。

 そのままこっそりと、前に持ってきて置いた道具類も取り出して玄関から外に出る。

 墓地までゆっくりと歩いて向かい、誰もいないのを確かめる。

 その横に穴を掘る。多分今まで見てきたものから、このぐらいで足りるようになるはずだと目算を付けた。

 墓石の位置を考える。

 『何も彫ったりとかするなよ。ばれるから』。

 『お互いな』。

 昔呟かれた言葉が浮かぶ。

 その時はお互いそんな気もなかった。

 過去に処分されてきた『同じ釜の飯を食った仲間』のことを思い出す。

—————多分このぐらいで済む…

 その通りに穴を掘った。

 墓石には森の奥で適当に大きめの石を見つけてきた。

 持ってきた道具でいい塩梅に砕いて使えそうだ。

 そんなことを淡々と作業していたつもりだったのに、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。

 玄関から戻ると、

「夕食の支度、できてます」

「ありがとう」

 ユンから、デューイには話したと言われ、であればもうやることはないと安堵した。

 リアと、村長には話すだろうから。

 夕食は虚ろだった。

 夜のために気力を取っておかないといけないからだった。

 皆が寝静まった後。

—————僕がジーにできる最後の仕事が残ってる。

 夜はジョットの時間だった。

 だから、誰も見ていない。だから、『力』を使う。

 ジーの部屋にそっと向かい、入る。

 亡骸はジョットが部屋を後にしてから寸分違わない位置にあった。当たり前だが。

 傍らにあった水差しとともにジーの体を抱え、昼間に鍵を開けた窓から飛び降りた。

 ジーにはついぞ得ることができなかった『力』。

 そのおかげで易々と音も建てずに着地できてしまうことに痛ましさを感じたいジョットだったが、全くなかった。

 そのままトトッと駆けていくと、小屋まではほんのつかの間。

 ジーの体を横たわらせると、その胸に魔法陣が描かれた一枚の呪符を張った。

 先日ベータに貰ったもの。それに一本、線を書き足す。

 闇夜の中、呪符からふわりとジーの体を包み込むように結界が巻きあがり、その中で赤々と炎が燃え広がった。

 ジーの姿は見えない。ベータの呪符は優秀で、ジョットにはその熱すら伝わってこなかった。

 魔力も漏れることがないようにしているとのこと。有難い限りだ。

 次第に赤からオレンジ、白、澄み切った青に変色していく炎は、どこかジョットとベータの瞳にも似ていた。

 全てが燃え切ったのか、ほんの数刻後に炎は消え去り、また辺りは真っ暗になった。

 装置も、何もかもが燃えつくされて灰になっているのがこんな中でも分かった。

 小屋にあったジーが使っていた食器にその灰を素手で拾い集めると、ジョットの手に灰がまとわりついた。

 そのままその食器に蓋を付け、紐で縛る。

 地面に残った灰を適当に足でごまかすように拭い去って、墓地にその食器を持っていくと、穴の中に灰をパラりと撒いて、食器も穴に放り込む。

 そこに土をかぶせて踏みしめ、墓石を置くと、もうやるべきことは残っていなかった。

 これでジーの生きてきた痕跡は年月を経て墓標だけになる。

 向こうの地面に残ったものは雨で洗い流され、この土の中の灰は土に変わる。

—————これでいい。

 言い聞かせると、ジョットは再び小屋に戻り、置いてきた水差しで手を洗った。

 帰りの道すがらで手は綺麗に乾き、トトっと再び窓からジーのいた部屋に水差しを置いた。

 ジーの部屋の窓に鍵を掛けようと近づいた時、庭園の花が目に入った。

 ジョットは再び窓から降り、花を摘んだ。

 ジーが育てていた花で、最近はできる範囲でデューイが手入れしてくれていた。

 おかげでとても綺麗に咲いていた。

 花束を適当な草の茎で縛ると、墓地に向かい、さっき自分が作った小さい墓標があるところへ。

 その前に花束を置いた。

 何も起こらない。

 当たり前だった。

 ジョットは深呼吸した。

 そして今度こそ、ジーの部屋に戻り、窓に鍵をかけ。

 そっと自室に戻り、ベッドに横たわった。

 領主館の何もない天井を見る。

 また深呼吸した。

—————一つ終わった。これでいい。

 最後に残るジョットが消えたら、『ジー』も、『先生』も、『ジョット』も、『庭』も、『同じ釜の飯を食った仲間たち』も、全ての残された『カガク』への手がかりが消え去る。

—————いつか全部終わる。それでいい。

 だからいつの間にか翌日になった。

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