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—————『俺のことなんかな、お前、なんもわかっちゃいねえよ』

 ジョットはいきなりのことに呆然とした。

—————『他人だからな。俺もお前のことわかっちゃいない。そういうもんだ。永遠にわからない。だからわかりたくなる。このまえ一つ、そうなるように仕掛けをしたんだ』

 ジーはそのまま続けた。

—————『ユンさんに首の入れ墨を見せた』

—————『うそだろ? 何してくれたんだよ』

—————『だろ? でもほんと。あれ、ちょっとキこえたゥまだもうちょいいけるのか?』

 たまにノイズのように文字化けが混ざるジーの呟きに、ジョットは眉をよせて集中した。

—————『ユンさんはお前に聞くはずだ』

—————『ユンさんはそういうことする人じゃない。絶対に従業員としてわきまえた行動をとる。雇い主の秘密に触れたりなんかしない』

—————『いいや。お前のことを分かりたいと思う気持ちがあるから、絶対に踏み込んでくるだろう』

—————『お前より僕のほうが彼女のことわかってるよ。そんなことしない』

 呟きがつながっていたのかわからない。

—————『ORえが分かってンのは彼女のッとじゃ名い。人は分かりたIと思う、そのこTOだけだ。ユンさんはお前のこと気になってルiなおのこと領分だのなんだのってねぇよ。絶タイにNA、聞いてくる』

「だから! 今さっき言ったろ!

 ユンさんはそーゆーことするひとじゃないって!!!」

—————『そのuえDE仲良くなレるかは、お前次第ですって★ ははなんKA呟kiが楽C感じに』

 文字化けがひどい。

 だからユンがどうするか気にはなったが、それはすぐに今頭の片隅にいってしまい、

—————『僕の鼻もぎとってくんじゃなかったのかよッ』

—————『いらねェ』

—————『あれだけ毎日付きまとったくせに』

—————『だってサイズあWAないもんv俺の鼻の代わRは無いいから。最しょから、分かってたヌだけD…』

 ジーの呟きが断続的に弱くなる。

「ふざけんなよお前!!!!

 おい、なあ! いいから。僕の鼻とかもうやるから!

 僕の鼻にくっついてなくたっていいから!

 返事しろよ!!」

—————『てかお前、「僕は一リだ」TOかうヌぼレてんだろ? NA? んなわけあるか』

「一人に決まってんだろ! お前がいなくなったらほんとに誰もいなくなるじゃないかこのクソ野郎!!」

—————『お前が拘ってruだけだ。みんna一人なノは同じ』

「化け物だってことか? うそつけみんな人間だろ!? アァ! 何が可笑しいんだっ」

—————『俺ヒトリいなくなっテも大丈夫△世はコトも無SIだ』

「大丈夫じゃないよ。全然…全っ然ダイジョブじゃない」

 声が震える。

—————『お前の周りのひTOのこと、お前過少ひょうKaしてる。みんな分かってRU』

「僕が自分のことばっか考えてるなんて重々承知だ、だから言ってるんだ、」

 なぜかわからないが、こんなに荒れた呟きのなかで、ジーのこの呟きははっきり伝わってきた。

 元気だったときみたいだった。

—————『大丈夫。ユンさんだけじゃない。お前の周りの、お前となんもあるようなないような人たちが、俺がいなくなってもお前のこときっと一人にしないから』

 ジーはユンに目線を移した。

「ジー!」

—————『ユンさん、絶対、こいつのこと分かってやってくれな』

 ジーは一回、二回と瞬きをした後、またジッとユンを見て、ジョットを見て、

—————『おれ、kouiu勘外したコトないかRA。今の電波、通ったハズ』

「そんなんなる訳ないだろ!」

 またユンをジッと見た後。

 パチリと左目を閉じてウインクをし、ニヒルな笑いをうかべ、

—————『絶対だから、約束な!』

 ジーはふたたびジョットの目を覗き込んだ。

 実験の末、普段はこの色に固定されるようになったジョットの青い目を。

 ジョットもジーのその目を見た。

 『力』の放出に失敗してオレンジに至る変色途中で止まってしまった茶色の目と、『力』の放出をしていない常態にあるままの青い目を。

—————『あとは…』

 波打っていた呟きの通信の強弱が、弱くなる一方になり始める。

「待ってって! おい!」

—————『ペン、リアに、返して』

「だから自分でやれよそれ!! 起き上がって! 自分で!

 やれるだろ、なぁ…?」

—————『あとは…maえも言ったとおり葬式はやrうなよ。ばれるから。それニめんどくさE…しけッぽいし…他…ないか。こんなもんか…』

 かろうじて拾える。だから、

「……ぃ…逝かないでくれ…僕のことおいてかないでくれよ…!」

—————『意外TO…なんモねぇな…』

「…起きろっ…」

—————『saいgoもっかI』

 半分ほど、ゆっくりとジーの左目の瞼が下りはじめた。

 どこを見ているのか、こんなに近いジョットではなく視線はどこか明後日にある。

「一人になるのはもっとずっとあとにさせてよ…」

 そして、少ししてから、にやりとした。

「ひどいよ」

 小さく、言葉にしたが、ジーに聞こえていたかはわからない。

 すぅっと深く、ジーが息を吸い込むのを頬に感じる。

「待っ…あ…ァ…」

 吐き出し切ったそのあと、ジーの瞳孔がさぁっと開いていき。

「ゥ…」

 ジーはもう、息をしなかった。

 部屋にユンがいるはずなのに、誰もいないみたいだ。

 梢響く静けさだったのかもしれないが、ジョットには何も聞こえてはいなかった。

 ジーの横たわる空になった器はベッドに横たわり微動だにしない。

 その目も、その口も、もう何もない。

 ジョットは今でも呟ける。

 だから呟いた。

—————『これを一人って言わないで、何を一人っていうんだ』

 空虚だった。 

 もう二度と返事が返ってこないことを噛み締める。

 ようやく動き出せるようになったのはそれなりに時間が経ってからだった。

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