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「おはよう。

 いいよ、僕が勝手に早く目が覚めただけだから。

 メイちゃんの様子見に行くとこ。

 いつもの時間でいいからね」

「ありがとうございます」

 勝手に早く目が覚めるのは、勝手に夜眠れないのと同じ。

 違うのは今までは部屋にいたけど、降りてくるようにしたところだけ。

 ジーに代わってメイちゃんの様子を見に出る。

 メイちゃんに頭突きされる頻度がジーより少ないことを喜んでいいのかどうか。

 草のなくなった一角を見て、問題なく仕事中であることを確認し、屋敷に戻る。

 朝食はなるべく落ち着いた様子で過ごした。

 ジーは多分もう、何日持つのかという状態。

 この後2階に行く。毎日これで最後かもしれないと思う。

 体を拭くのはジョットがやっていた。

 首の入れ墨をユンに見せるわけにはいかないからだ。

 『おねーちゃんがいい』と最初文句を垂れたが、昨日はその気力もなかった。

 そんなに悪いのに、そんなような…別に何とはない話だけが二人の間で交わされていた。

 だって『最後に何か』なんて、何もないのだ。それもお互いに。

 休んでいるわけでもないのに話すことがなくなってしまう時間すらある。

 ドアを開ける。

 多少首は動くからジーが視線を向けるのが、いつもの流れ。

 でも、今日は違った。

 首が動いていない。

 ジョットが軽く駆け寄ると、目だけが動いていた。

—————『セーフ』

 ジーのかろうじて捕らえられたか細い呟きがそのことを直接教えてくれた。

 ジョットはどうやって踵を返したのか記憶にもない速度で部屋のドアを開け放ち、階下に向かって叫んだ。

「ユンさん!!」

 ユンはダイニングから駆け出してきた。

 ジョットと目を合わせ、頷く。

 ユンなら一通りこれで分かる。

—————『今は?』

 ジーからの返事がない。

 胸のあたりが軽く上下しているから、息はあるように見えた。

 脇に腰かけ、体を軽くジーに寄せる。

 本当はジョットの胸——装置があるあたり——をジーの頭の装置のほうに寄せるのがいい。

 でも、それをするわけにはいかない。

 こんなときでさえ、ばれてはいけないから。

 ジーの額、というか頭の辺りから、汗をかいているのが分かった。

 全体的に熱いような気がする。

—————『おい』

—————『おお、聞こえた』

—————『しっかりしろ』

—————『馬鹿言うな。俺は死にぞこない中の死にぞこないだぞ』

—————『だからだ。装置のあたり、後で拭くから』

—————『熱持ってるからなぁ。やさしくしてネ』

—————『クソが』

—————『はははは。お前もほんとは俺よりユンさんのほうがいいだろ?』

「コーウィッヂ様」

 ユンが入ってきたことに初めて気づいたコーウィッヂは、その手に差し出された濡れタオルを受け取った。

 ジーは歯を見せて笑うと、

—————『実はかがんだときの胸辺りもなかなかナイスビューなんだよなこの制服』

—————『お前、デザインしたリアさんに失礼』

—————『お前だって思ってたろ』

—————『うん…まあ』

—————『嫌に素直じゃんか。気持ちわりぃ』

—————『時間には限りがあるから言わないと伝わらないんだろ?』

—————『アははははは!!! お前ずいぶんだなぁ!!!』

—————『お前もな』

—————『ああ、これで最後かぁ』

—————『嘘だ。まだ全然大丈夫』

—————『無riだロ、コレだぜ??』

—————『化けてる』

—————『しってる』

—————『頼むよもう少し』

—————『どうしよっかな~(悪い女風)』

—————『括弧書きまで呟けるなら、全然、何年でも』

—————『リアはさ、』

 止まった。

 つぶやきが続いていない。

—————『いい女なんだよ。俺とかに引っかかってちゃいけない』

—————『浮気の虫だもんな』

—————『俺みたいな浮気症男はいけない。多分デューイはリアに気があるから』

—————『ジー?』

—————『俺みたいな、ほんとの名前を他のやつに喋ってないような胡散臭いのじゃなくて、後ろ暗くても自分で名乗れる奴のほうがいい』

—————『おい、ジー!?』

—————『肝っ玉母ちゃんとか向いてるだろうなー』

—————『おい、応答! 応答は?』

「おい!」

 ジーの頬を叩く。

—————『おお、なんか言ったか?』

—————『呟いてた』

—————『何も聞こえない。もしかして』

「もうっ…つながらない…っ」

—————『耳は聞こえてるけど…じゃあ、もうそろそろか。俺のパーツ、ばらしてお前の寿命の足しにしろよ』

「お前のパーツは僕には使えないって前に言ったろうが!!」

—————『研究材料ってのが必要なんだろ? ベータさんに渡してさ』

「いいんだって僕は!」

—————『あと、そうだ大事なことだ。リアが前に俺にくれたペンさ、お前からリアに返しといて』

「はぁ!? 自分で返せよそんなもん!!」

 ジョットはジーを睨みつけ、ベッドに手をたたきつけた。

—————『絶対受け取らねぇからあいつ。あれ、高けぇやつなんだ』

 ふぅっとジーが息をつくのを、ジョットは見逃さなかった。

「僕より年下のくせして、僕より先にあっさり逝っちゃうなんてダメだろ!

 僕を一人にするなよ!!!」

 ジーが、ジョットを強く睨みつけた。

—————『お前こそ、ざけんなよ』

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