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—————『今どこ?』

 ジーからの返信がない。

—————『ジー?』

 視界にユンが入ったので、足早にその背中に近寄っていく。

「ジー、どこにいる?」

「さっき戻ってきて、あっちのほうに」

「わかった!」

 駆けて行った先はジーの作業部屋だった。

 座り込んでいるが、表面的には辛そうでも何でもない。

—————『ジー、』

—————『ん…おお』

—————『良かった、さっき呟いてたんだけど』

—————『どの辺で?』

—————『ユンさんと業者が話してったあたり』

—————『まじ?』

—————『受け取れてなかったね』

 どうやら壊れて呟き可能エリアが狭くなったようだ。

 室内通信が限度かもしれない。

—————『体は?』

—————『ちょっと頭痛い』

 軽口を叩かないジーを残して部屋を飛び出し、ユンに、

「わるいんだけど、ちょっと出かけるから」

「えっ!?」

「ジーが調子悪そうだから。馬車の運転手、手配しないと」

「村まで出るってことですよね?

 どうやって行くんですか?」

「僕、馬乗れるから。一人だと目立つし何かあったら困るからやめてただけだよ」

「…風邪ですか?」

「…だったらよかったんだけどね。

 リアさんには…まぁ、とにかく留守番よろしく。

 っと、奥の部屋にジーいるから、お水お願い」

 本当に、風邪だったらよかった。

 ミーは素直で、普段は乗らないジョットを素直に乗り手にしてくれた。

 大急ぎで普段は馬車で座って通る道を馬に乗って駆る。

 とんでもなく久しぶりの乗馬でも案外やれるものだ。

 高い視線から眺める自分たちが作った轍に新たな蹄を連ね付けていく。

 畑を抜け、村に出て、デューイに話をし。

 村を出る前にリアの姿が見当たらなくて本当によかったと思った。

 そのまま再び家路に着くが、家路と言っていいほど落ち着くことはなく。

 玄関を開けてユンに話が付いた旨を伝え、そのまま階段を上り、そしてユンに確認するのを忘れていたと思った。

「ユンさん! ジー、どうだった?」

「普段と別に変りなさそうでしたけどー」

「ん!」

 書斎に戻りつつ、

—————『受け取れるようになったりしてない?』

—————『多少は★??でsu』

 こちらの内容は伝わっているようだが向こうからの送信が受け取れていない。

—————『ベータに手紙書くから』

—————『りょ△かイ』

 ジョットは一心不乱に手紙をしたためた。

 村人に不信感を持たれないようにするために、速達で普通に手紙を出すしかない。

 本当は今また村まで駆けて出してきたいぐらいなのに。

 装置が壊れて中の術式やらなにやらが漏れ出したとき、何が起こるかわからない。

 そこから秘密が明るみになるかもしれないけれど。

 『庭』でジョットが殺したわけではなかったけれど失敗とされたあの子らの様子を思い出すに、ただ死んでいくだけだろう。

—————死んでいく。

 じわじわと。

 ベッドに横たわり、どんどん動かなくなっていった。

 呟かなくなっていき、そのままふっと消えていくように止まった。

 まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃがすごくゆっくり止まっていくような。

 だから、夕食は普通に全員で取ることにした。

 ジーももちろんいる。

 ジョットは勢いよく両手をパン、と打ち、

「ジーの調子があんまりよくないです」

 注目する一同に今後の作業割り振りを伝えたら、

—————『頭ふわふわする』

 ジーが目線を下にむけたまま動かなくなった。

—————『そのまま部屋戻れ』

—————『そうする』

 そう呟いたジーはしかし、夕食が終わると調理場に向かった。

 もう引継ぎはユンに対して、全て済んでいるはずなのに。

 立ち去りながらジョットは、

—————『早く戻れよ』

—————『エプロン』

 ジョットの足が部屋に向かって早くなった。

 唇をかみしめる。

 もう、ジーは自分で分かっているのだ。

 何故ならジーも『同じ釜の飯を食った仲間』。

 仲間が死んでいく姿をさんざん見てきているからだった。

 ジョットは部屋に戻り、ドアを閉め、ずるずるとそのまましゃがみこんだ。

 カーテンが開きっぱなしの窓からはわずかに星明り。

—————寝込みを襲われそうになったこともあったっけ。

 ジーと再会したのは逃亡生活が終わり、ここに居を移してごく最初のころ。

 まだ先代が生きていて、その伝手で隣町に行ったとき、たまたま昼食を取った店にいたのだ。

 ジョットは気が付かなかった——というか覚えていなかった——が、ジーは一発で気づいたと言っていた。

 ジョットを睨みつけ、

—————『てめぇ、俺の鼻返せよ』

 受け取り慣れた通信にジョットは目を見開いたけれど。

 能力の差が目に見えていたから、そこで殺し合いになることはなかった。

 ジョットはジーが自分の後をつけてきていたのも知っていて、なんだか懐かしくて、我ながらバカみたいだけどそのまま放置して、そしたらそのまま屋敷までついてきた。

 ベータがいて、ベータに事情を説明して。

 そのまま部屋にも上がり込んできた。

—————『余裕かよ』

 あった食べ物は勝手に食われたのに、なぜか金は盗られなかった。

 殺そうと何度もされたのに、いつの間にか馴染んで、しなくなって。

—————『いい加減出てけよ』

—————『やなこった』

 何度かこの応酬をした後、そういう話も出なくなって、『便宜上ジーと呼んでくれ』とか言い出して。

 昔の何幕も何幕も続く苦い場面が、今のジョットにはとても懐かしかった。

 だからそれは、明日から続く悲しみを予兆しているように思えた。

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