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「先生は動力や仕組みの一部として魔力を用いて、その力の理を思うままに動かす装置のようなものを作り、魔力を媒体にして力の理をうまく発揮できるようにできないか…そんな施術を生き物に施すことができれば、誰もが魔法を使うのと同じようなことができるようになるのではないかと考えて、そのための実験をしていた。

 兵器への転用が可能とみた王宮の当時の軍部、そこに口出しできるお偉方を筆頭とした人たちが彼女に研究資金を出資してできたのが僕がいた実験施設だ。

 身よりのない孤児や家出少年に加え、政府の暗部を担っている一族から試験的に供出された子供…もちろん動物もたくさんいた。

 先生は対象の体に様々な装置を埋め込んで、王宮魔法士とともに『力』の媒体となる魔法の術式を研究し、生き物が生きている状態でキチンと動作するのか改良を重ねながら試行錯誤を繰り返した。

 魔力は力の理を動かす動力と媒体にしか使わないから、他の人から見たら装置が入った生き物は魔法使いでも何でもない一般人に見える。

 魔法を使わないと普通はできないような能力を駆使しても、その能力は魔法とは別の力の理に基づいているから、その現場には魔力波動が残らない」

 ジョットは少しだけ息をついた。

 沈黙が続く。

 それでも誰も口を挟もうとする者はいなかった。

「何種類かの『力』で実験は行われていて、先生はそのそれぞれに古代語をもじった名前を付けて楽しんでいた。

 テレパシーと名付けた力ではいくつか安定した被検体が出た。

 他の被検体と言葉を介さずにお互い思っただけで連絡を取り合うことができるって『力』だ。

 だけど、単独で軍事利用しようとすると被検体が捕らえられたとき技術が漏洩するリスクがあった。

 だから、テレパシーで成功した被検体には、さらに絶対的な殺傷力が持てると思われる別の『力』と組み合わせで入れようとした。

 それが、グラビティ―」

 ジョットは使った枝を握っていた手を開いた。

 枝はゆっくりと地面に落ち、ぼとっと土に当たる鈍く籠った音を立てた。

「持ち上げて取り落した物が自然と地面に落ちる理屈、それが働く向きと強さ、その場所を、強制的に極限まで捻じ曲げることができる『力』のこと。

 でもまあ僕としてはね…ぶっちゃけ『漏洩するかも~』ってとこは、結局先生が色々やりたかったから上の人たちを丸め込むのに理屈ぶちあげただけって気がするんだけどさ」

 キシアスはジョットが意図的に手放した枝と同じにならないよう、ランタンを必死で指にひっかけていた。

 頼りなげに恐怖から助け出してくれる親を待つ、悪夢で目覚めてしまった直後の幼子のような様。

 ジョットは思わず笑みをこぼしつつ、キシアスに最後の非情な現実を見せつけることにした。

 かわいそうに、という加虐心でいっぱいの心を抑えなかった。

 ジョットはシャツの首元のボタンを一つ、二つ外し、襟を広げ始める。

「先生は被検体全てにどの力を使える装置を取り付けたのか、その装置の何体目の被検体なのか分かるような連番を付けていた。

 能力を示す言葉の頭文字と37進法という1桁で37まで数えられる数え方を使っていて、被検体には入れ墨をしたんだ」

 察したのだろう。

 キシアスの膝がずるずると崩れ落ちはじめる。

 ジョットはキシアスのほうにしゃがみこみ、はっきりと連番が刻まれたその首筋を向けた。

 今、キシアスの目に、はっきり映っているだろう。

 『G10TO0』の文字。

「僕はグラビティー・Gの37番目かつテレパシー・Tの888番目ってこと」

 雨音が嫌にうるさい。

 きっとキシアスにとってだけは無限の時間になっているだろう。

 ここにジョットが着いた時よりも、激しい運動をした後のような胸の上下動。

 それでいて放心したような顔。

 双眸は切り捨てられた魔物の死体を見つめ続けた。

「雨が当たる。木陰に寄りましょう」

 信じられない面持ちのままこちらに歩み寄るテト、まだ信じることができていないものの比較的冷静なジェレミー。

 そのうち、少しだけ考える素振りを見せたジェレミーは思い出したようだった。

「あなたは…『小さな巨人』ですか?」

「どうしてそう思ったのですか?」

「血痕が向こう側に。

 お話してくださった、その、『力』というのが本当なら、向こう側に狙って飛ばせるのではと」

 ジョットはゆっくりと頷き、

「やはりつながってしまうものですね」

 この際だ。話した方がいいだろう。

「訓練兼軽めの実践に丁度いいということで、マリアンヌ先生が特に押していた候補地の中の一つがカロネアでした。

 昔このアイデアを実現するための突破口を開く構想を得た…その源になった少年と過ごした思い出の地だとね。

 魔物も多いから駆除もちょくちょくしていましたので、戦時中魔物の数が減ったのは、マリアンヌ先生の手柄の一つになっているかと思います。

 結局ほぼあそこだけでしか、僕の活動はないまま終戦を迎えました」

「そんな馬鹿な…それだけの威力があったら軍は」

 ジョットは黙っていた。だからジェレミーは気づいた。

「…逃げたんですね?」

 ジェレミーの一言に、沈黙を貫くジョット。

 テトは目を向いてジョットに驚愕の声を上げ、

「どうやって!? 軍の隔離施設から逃げるなんて不可能犯罪っしょ!!

 訓練地って言ったって、途中までの護送やら札やら、逃げられないようにするはずで…歩兵の中にもそういうことされたやついたって話っしたよね!?」

 口調を咎められるものは誰もいない。その必要もなかった。

「手引きした者がいた、と」

 ジョットはやはり黙っていた。

 それこそがジョットが隠したかったことだったからだった。

「他の、施設にいた方達は」

 ジェレミーは黙ったままのジョットをじっと見て。

 階級が浅いとはいえ軍人で、セオリー通り最悪を考えていた。

 でも、流石に声は震えている。

「全て始末されたということですか…」

「し損ねたものも一人だけいますけどね」

 ジョットは本当のことを話した。

 ジェレミーはその意味を、正確に把握しているようだった。

 目をむき、キシアスに似た絶望の縁に至る色へとその表情を変えていく。

「つまり…他は全員…あなたが…」

「先生が『成功』とみなしたのは僕一人でした」

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