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「私にはそうは…」

 ジェレミーはキシアスの疑念に対して冷静な様子。

「俺もっす。

 てか、キシアスさん、その…『先生』って人に執着しすぎっすよ。

 毎回崖地が調査候補地にあると他の人から奪い取って自分の案件にするし。

 今回も相当強引だったじゃないすか。

 近場のつもりで準備してたのにいきなりド田舎に変更になって、俺超めんどかったんすから」

「…先生の無実を晴らしたいだけだ」

「てか、なんで崖なんすか?」

「…先生が何度もうわ言で言ってたんだよ。

 『私のビスクドールは崖に一人でもへっちゃらなのよ!』って」

 『私のビスクドール』と『崖』だけは、俺が見舞いにいったときになぜか何度も出てきたワードで。

 俺の生まれ故郷もそうだし、何かあるなら崖かなって…魔力も多いところだし、ほんと、それぐらいなんだけど…」

「じゃ別にそこまで気に掛けるほどじゃないじゃないすか。

 それ、俺には先生がアレな人なだけに聞こえます。

 そんなんで怪しまれたら、領主さんだって嫌デショ~」

「…手がかりそれしかねぇんだから」

「だからって…言いがかりが過ぎるのでは?」

 流石に黙っていたジェレミーもこれには反発している。

「いや、でもさ、俺がアホなのかもしれないけどさ、お前ら、思わなかったか?」

 ちょっと合間が開いている。おそらくキシアスがテトとジェレミーの顔を見やっているのだろう。

「あの領主さん、ビスクドールっぽいなって…」

「あ~! それは確かに!」

「おい、声でけえ!」

 もごもごとまた口を塞がれたのだろうテト。

「あんな綺麗な顔の男、この世にいるとは思えなくてさ。

 しかも実年齢わかんねぇけど…あの話しっぷりで十代はねぇだろーから…二十歳そこそこ?

 そんで、ちっちゃいとはいえ領地を切り回ししてるんだろ?

 新しく『豊穣祭』ってイベントの企画までして。

 遣り手じゃんか。で…なんとなく…。

 悪いか?」

 テトはゲラゲラ笑いながら返した。

「超悪いっしょ~!

 だって顔なんて生まれつき変えらんねぇんだもん。

 そんなんで濡れ衣着せられちゃぁ領主さんもたまったもんじゃないっすよ」

「私もテトに賛成です。疑いの向け方が不自然過ぎる。

 何が何でも先生を信じたいのはわかりますが、領主様に失礼ですよ。

 言葉だけで、理屈も脈絡もないんですから」

「…そっか…まあそうだよな…。

 それに先生、持ってたビスクドールにA何番とかって 連番つけて管理してたみたいだったし。

 人なわけねぇわな」

「そーそー。考えすぎっすよ。

 祭りもあるのにクソみたく凝り固まってっと調査しくじりますよ」

「お前、正論じゃねぇか」

「でしょ!? 給料上げてください!」

「俺には進言権はあるけど、昇給権はねぇぞ。

 進言するにしても、継続して成果あげれるようにならんとな」

「ぇ~…」

「じゃ、明日の予定だけど…」

 仕事の段取りに話題が切り替わったところで、ジョットは静かに書斎に踵をかえし、歩みを進めながらジーにつぶやいた。

─────『キシアスが憶測で半分勘づいてる』

─────『っていうと?』

─────『ビスクドールが僕なんじゃないかって強引な思い付きで』

─────『…そりゃすげえな』

─────『他の二人はあり得ないって言ってくれてたけど、キシアスの先生愛からすると猛進する』

 書斎の椅子に腰かけたジョットはそのまま背もたれに大きくもたれて伸びをしながら続けた。

─────『チリカには状況話しといたほうが得策そう』

─────『了解。他二人にばれないようにな。リアだけは巻き込みたくない』

 浮気魔でリアがいる間も女遊びを止めなかったのに、リアにだけはいつも執着するジーの業の深い発言。

 そう思っていたのに、

─────『僕もユンさんだけは巻き込みたくない』

─────『了解』

 ジーとの会話はそこで途絶えた。

 そのまま机に突っ伏する。

 ひんやりした机と頬の触れ合いが程よくジョットを冷静にしてくれた。

─────あれだけ殺しておいて僕は一体何を言っているんだ。

 ジェレミーはまさか思うまい。

 カロネアが訓練地だったとは。

 『最終兵器の存在をほのめかすのも悪くないわ』。

 椅子から立ち上がり、書斎を出て、階下に降りる。

 自分の部屋に先生の影を置き去りにするように足早につかつかと。

 チリカは調理場から出てくるところだった。

「いい?」

─────『部屋入っていい?』

 ジーに聞くと、

─────『了解。俺今いるから、俺も聞くわ』

 チリカとともに場所を移し、ジーの部屋に入ると、一気に重苦しい空気に包まれた。

「キシアスが僕の正体に気づきだしてる」

「ていうと?」

「強引なんだけど、連想ゲームの感じ」

 かいつまんで聞き耳を立てて得た3人の会話内容を伝え、

「何かのきっかけで先生が作った『小さな巨人』が僕だって気づく可能性がある」

 チリカはうなだれもせず、そのまま静かにため息をつきながら目を伏せ、

「イイヒトって困ったもんね。ま、どうしようもないけど」

「うん。伝えるだけは伝えとく」

「ありがと」

「いや。こちらこそ」

「でも残念。おいしそうだったのに」

 そっとドアを閉めて立ち去るチリカ。

─────『相変わらずだな』

─────『うん。そうだね。かつておいしく頂かれたジー君』

 思い出させるなよという顔でジーはジョットを睨んだ。

─────『チリカがあんな感じだから、今僕がだいぶ救われてるとこあるのは分かって』

 ジーは静かにうなづいた。

─────『最悪を考えたくないね』

─────『そうだな』

─────『でも、三人ともエトワに永久滞在してもらうことを想定して動くしかないね』

 それをリアルに想定して『おいしそうだった』と過去形にしていた辺り、チリカはよく現状を理解していた。

─────『了解』

 ゆっくりと、今度は足音を立てて階段を上り、書斎に向かう。

 階下に向かうキシアスとすれ違う。

 ぴりりと走る緊張を無視し、ジョットは軽く目礼をしてそのまま書斎へ向かった。

 椅子に腰かけ、うなだれ。

─────祈るしかない。

 祈りが通じなかったと分かったのは、翌日の昼過ぎ頃だった。


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