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「正直になってしまうとね…今は豊穣祭のことのほうが気がかりというか」

 ジョットは話題を変えたが、ここでキシアスは思ってもみない方向へ。

「皆さんは行かれないんですか?」

 行けるわけがないのは様子を見ていたらわかるだろうに。

 だとすると、

─────『やっぱりなんか探りを入れに来てるね』

─────『間違いない』

 ジョットが難しい、と返そうとしたとき、テトがさらに思ってもみない方向へ。

「ユンさんとか、一緒に行ってもいんじゃねっすかぁ?」

「無理です。申し訳ありませんが御覧の通りこの人不足の状況でして」

 冷たい視線を存分に浴びたのに当のテトは、

「そっすよね~! さーせっ…んがっ」

「申し訳ありません! バカ! お前!」

 キシアスが思い切りテトの頭を抑えつける。

 ジェレミーも軽く頭を下げた。

「頭を上げてください」

 かまいませんよ、とは付けなかった。

─────『このやきもち焼きさんめv』

 ジーの呟きがかき消えるくらいの感情論がジョットの中で渦巻いている。

 頭を上げ、軽く会釈をした3人。

 その後の食卓はどことなくぎこちなさを残しており。

 ジーも夕食後はほぼ声をかけてこなかった。

 チリカだけは横目で偶ににやりとしていたが。

─────今は集中しないといけないときだ。

 ジョットは何とか感情をおさえ、自分に言い聞かせることに成功した。




*****************************




─────『みんな元気そうだった』

─────『了解。じゃああのご一行だけな』

─────『うん』

─────『ジェレミーはお前のこと知ってるかもな』

─────『カロネアで従軍してたって言ってたもんね…』

 厩にいるだろうジーに別館の様子を呟きながら領主館という我が家に戻ると、ユンがいた。

「みんな元気そうだったよ。ちょっとイチャイチャしてたけど、それぐらいだった」

「そうでしたか」

 胸をなでおろしながらどこか不思議そうな顔をしている。

 それが何か気になるのに聞き返せないもどかしい気持ちでいっぱいのジョット。

 最近いつもこんなんだと想いながら、別館の話をユンに続けると、

「ジョット」

「ん? 何?」

 チリカだ。

「夕食に使うの、これ、結構好き嫌い出るやつ。

 使っていいの?」

 使おうと思っていた特産品のネゴシエ。ツンと鼻に抜ける風味があるため、通好みと言われている。

「うん。そこを寧ろ全面に出してほしい。

 …あ、ユンさん、いいよ、戻って」

 ユンに暇をやるジョット。

「腕試ししろってことね」

「分かってるじゃないか。よろしく」

 ユンのことを考えていると今の自分の危うい気持ちが何に対してなのかわからなくなる。

 いつもよりも忙しそうに、でも淡々と仕事を進める実際のユンの姿はそんなジョットをなぜか落ち着かせた。

 夕食まで穏やかな心持でいられたのは、ユンの姿が視界に何度も入ったからだろう。

「特になーんもなさそうで、ほんとよかったっす」

 昨日のことなどすっかり忘れた様子のテト。

 しっかり覚えているキシアス。

「お前、言葉遣い気をつけろよ」

「いえいえ、気楽にしていただいて全然。

 本来でしたら二日目以降は気楽にしていただくのに、こちらの人数が足りないばかりに僕みたいな気を遣わせる人間がいるところで食事をとることになって申し訳ない」

 『話が面白かったから』という理由をでっち上げてでも、この3人の様子に探りを入れられる機会を逃したくない。

 ジョットの思惑にジーは全面賛成していたし、チリカも協力してくれた。

「いや、こちらも担当者だけ集まっても仕事の打ち合わせのようになるだけで」

「そーぁんすよ…んぐッ」

「食いながら返事するな」

「…へい」

 そんなキシアスとテトの軽いやりとりにほほえましくなった矢先だった。

「ったくお前なぁ…ジェレミーも言ってやってくれ」

「申し訳ないのですが、自分は言えません。

 カロネアにいたころ上官や向こうの兵士を交えてさえ、与太話やらでそんなようなやり取り、どっちの国側の兵士にもありましたから」

 ジョットは切り込んだ。

「気になりますね、どんなお話されてたんですか?」

「いや、大したことでは。

 平和になったもんだ、とか、そんなようなやつです」

 テトがまた軽口を挟んだが、キシアスが抑える。

「覚えているのはいくつかありますが、やっぱり自分が印象に残っているのは『小さな巨人』の話ですね」

─────『きた』

 テトが続きを促し、軽口を叩く間、ジョットはジェレミーの話の続きを静かに待った。

「中身は都市伝説みたいなやつなんですけどね。

 丁度国境が崖になっているあたり限定で、おかしな死に方をする兵士がでたそうなんです。

 大きな爪か斧のような荒い刃なんかでやるような、力づくの一撃で切り斃されたような状態で。

 大型の魔物にでも襲われた、そんな現場だったらしい。

 なのに食い散らかされた後もなく、辺りに毛や体臭はおろか魔力波動といった魔物の痕跡が一切ないんだそうです。

 魔力波動がないんだから、当然、敵の魔法使いでもない。

 向こうの国の兵士に、こちらの国側では魔物は駆除や対策で大幅に減ったからというような話をしたら、『そのせいで向こうに魔物が増えて出てきた変種かもしれないからお前らのせいだ! なんてな、けど、まあ今出ないし』と笑っていましたよ」

「『小さな巨人』ってのはどこから?」

「それなんですよ。

 一番最初に発見されたときにね、岩場なのに子供の靴みたいな足跡がめり込むように残っていた、というんです。

 そしてやられた奴の血痕はその足跡から放射状に離れる形で残っていたらしい…」

 『小さな巨人』はその話が出る前と同じように領主館のダイニングの定位置に座し、ジェレミーの話の続きを静かに待っていた。


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