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 ティータイムも終わり、3人を森の入り口に案内する。

 キシアスが崖のほうをチラリと見やり、領主館を見やり、離れを見やった。

「では、ご案内ありがとうございます。ここから先は我々で」

「ええ。宜しくお願いします」

 そのまま森に入っていく。

 地図があって地形の変化がないのは分かっているのと、そこまで広い範囲ではないのとで案内入らない。

 その後少したってから小屋の方も覗きに行ったが、探られている感じはなく。

 昼まで普通に皆帰って来なかった。

─────『異常なし』

─────『了解。継続監視する』

 業務の話しかしていない現状。

 彼らに真の目的があったとしてもなんら不思議ない。

 でも今は。

「改めてようこそ。ただ、恐縮ですが堅苦しい挨拶やらは余り得手でありませんので…」

「そう仰っていただけると幸いです。

 領主様のお屋敷や地元の有力な方のお宅に宿泊させていただくことは多いのですが、中には色々な方がおりましてね。

 こちらは全員平民ですし、」

 マナーだの何だの一から十までなっていないと言い出す者もいるのだそうだ。

「なるほど…なかなかご苦労なさってますね」

 ジョットも想像がつく。

 昔連れていかれた場所でもやはりそういうのはいたから。

─────そういうのを『いる』から『いた』になるようにするのが僕の役割だったからな…。

 昼食の皿が食卓に並びだす。

「ほぉ~これは…たしかこの辺りの特産品の星くるみ。

 こっちは星ぶどう」

「ああ、ご存じでしたか」

「ええ、近年この界隈に出るときによく見かけますから。

 他の地域でも見かけますが、ここ界隈のが一番評判がいいんです」

「そうですか、そこまでおほめ頂けるとは」

「土地がいいんですかね…崖地はやせていて貧しいことが多いんですが」

「おっしゃる通り幸運なことに肥沃なのです。

 崖地は…貧しいのですか?」

 きょとんとした顔を作るジョット。

 キシアスはチラリと皿から目線だけ外してジョットを見た。

「ええ。おおむね…。

 土がなく開墾できる場所が少ない上、崖の魔力のせいで魔物の生息地になっていることもあります。

 作物はやせた土地でも育てられるごく一部で」

 ジョットはキシアスの視線を感じた。

「じゃあ、有難いこの土地の余さにもっと感謝しなければいけませんね。

 豊穣祭を開くようにしてよかった」

「我々も楽しみにしていますよ。

 ところで、先代のころはどうだったんですか?」

「いや、どうもこうも放置でして…。

 僕としては忸怩たるものがあったので、今は」

「それは、一体…なんでまた?」

「土地の良さに胡坐をかいていた、の一言ですね」

 一つ一つは他愛ないが、少しでも間違えるとジョットの怪しさにキシアスが気づいてしまう。

 単なる話好きなのか図りかねる速度で、キシアスはジョットに質問を繰り出していった。

 ジェレミー・テトの両名はそこまで関心事ではなさそうな様子で食事に手を伸ばしている。

 昼食はそんな調子で、最後までほぼキシアスとジョットしか話をしていない様子のまま全てが執り行われた。

 食後はそのまますぐに調査へ。

─────『キシアスに注意。詮索が過ぎる』

─────『同意』

 たくさんの質問を投げることで何か引っかかるものがないか探っている可能性がある。

 食事について毒見しているような様子は見当たらなかったから、こちらの悪意を疑っているわけではない。

 だが、何か知りたいことがあるのかもしれない。

 夕食の時間が近づいて、とうとうその時がやってきても、ジョットの気分は全く晴れなかった。

 昼食と夕食の間にあった時間を覚えていないくらいだ。

 キシアスは飄々とジョットの気など知らぬというふう——もちろん知っていたら大問題だが——。

「中央と違って癒されますね」

「そんなに、なんですか?」

 ジョットは周囲に悟られないよう自分を咎めながら話を進めた。

 今のところは、こちらが向こうの状況を聞き出せるいい転機。

「私だけかもしれません。もともと地方にいたところから、戦後すぐに異動してきたんですよ」

「では、以前はどのあたりにいらっしゃったので?」

「カロネア地方です。生まれもカロネアでして。

 あのあたりもここと似たような感じなものですから、ここに来た時から実家を思い出しましたよ」

 ジョットの頭が一瞬真っ白になった。

 必死で理性をかき集め、

─────『マリアンヌ先生が昔いたところ』

 ジョットのつぶやきにジーは無表情で、

─────『リスク了解』

 訓練の通り、訓練の通り。

「確か山がちなところで…ああ、地図上でしか知らないので恐縮ですが。

 ここと違って国境沿いですよね?」

「そうです。

 戦時中は軍の出入りが凄くて物々しかったんですが、今はそうでもないそうです。

 な?

 ジェレミーは戦後しばらくしてから国境警備でカロネアにいたんですよ」

─────『知ってるかもしれない』

 『カロネア』『国境警備』『戦時』…悪いキーワードばかりが矢継ぎ早に展開されていく。

─────『今は情報の出方を見る段階だ。落ち着け』

 ジーのつぶやきでかろうじて会話に意識を戻したジョット。

「向こう側の兵士とちょくちょく与太話するぐらいですから」

 なおのこと悪い。

 何故ならジョットがカロネアでやってきたのは。

「…そうなんですね。

 皆さんがここで落ち着いて過ごしていただけているなら何よりです。

 農産物以外ほぼ何もない小ぢんまりした領ですからね。

 でも魔物が出ないのは幸いですよ。

 カロネア地方は多いと聞きますから、大変でしたでしょう?」

 作りこんだ素知らぬ顔がいつはげるか。

 息を掃くように『庭』で倣った通りに動けているジョットだから、実際にははげることはないだろうが、それでも。

「それなりに、ですね。大型がぼつぼつ出ますから」

「多いでしょうそれは。

 と言っても僕の比較対象のメインはここだからなぁ…」

 真っ赤な嘘だった。

 ジョットがエトワの次に長くいた、いや通ったのはカロネアだからだ。

「それでも場所によっては戦時中にだいぶ改善されたんですよ

 私が子供のころは月1でした」

「…改善というと、戦時中に兵士総出で一斉討伐したということですか?」

「いえ、せんせ…ああ、魔法使いなんですが、その方が尽力してくださった結果、かなり減ったんです」

 『せんせい』。

 ジョットはジーにサインを提示した

─────『アウト』

─────『了解。警戒レベル最大に引き上げ』

 ジョットは思った。

─────先生はまだこれ以上僕を苦しめるのですか。

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