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「村人集めてるのが元山賊のお頭なわけよ。

 そもそも村作った時点で村の若い衆イコールほぼ山賊一味。

 そのあと増えたのも基本私と同じような感じで昔多少なりとも付き合いがあったり、知り合いの知り合いで訳アリのが多い分、話が合うってんでみんな親しくなるのも早くって…まあ、そういうことよ。

 要するにね、下手な警察とか末端の寄せ集め軍よりよっぽど統率取れてて容赦ないの。

 こういう辺境のちっちゃい村って中央の目が届きにくいから、治外法権になってああいうのに上納金目的で脅されること、結構あるみたいなんだけど」

 おかげ様で被害なしということか。

「あのチンピラの親分ぽい人、村長の顔見て顔色変わってましたけど」

「知ってたんでしょ村長のこと」

「そんなに、なんですか? 村長の…その…」

「トータル金額と数が結構ね。凶悪さがないから公にはそんなにだけど、一部では顔の特徴が口伝されてるから」

「中央が街に来るのって、その辺もアレなんじゃ…」

「いや、もうみんな時効になったか刑期開けたかしてるからそれは大丈夫。

 金のないやつから~とか、商いが傾くほど極限まで搾り取るとか、悪質なのとか、暗殺やってたってのはなんだかんだいない分、恨みの買い方も知れてるしね」

「はぁ…」

 でもそれ以外はたいていありってことなんだろう。

 じゃあ物騒な話ばっかり…なのか?

 平凡を絵にかいたような職業生活だったユンには、その話から推測されるだろう『物騒』のイメージが沸かなかった。

 村は平静に祭りの準備と仕事でわちゃわちゃしているし。

 リアはぼーっとしているユンの肩をたたいた。

「まあ、大丈夫ってこと。本気で心配なのはあなたのお勤め先だけよ」

「その通りですね」

 ユンが即答したところでこの話は終わりだったのだが。

 他の村の人のところに行ったりなんだかんだし、屋敷に帰る時間が次第に迫る中で再びユンは。

─────なんでカタギになろうと思ったんだろう。

 今までの流れから行くとコーウィッヂが村長になるよう説得したと考えるのがよさそうな気がするのだが。

─────そんなことあるか?

 知っている人は知っているような大物山賊。

 諭されて急にまっとうになるなんて…いやいや先代の領主さんとのなにがしかってことか?

 首突っ込み過ぎだぞ、という理性の声とは裏腹にユンはひたすら気になった。

 村長に聞いてみたいものだけれど、聞いたところで自分の仕事に何かあるわけでもない。

 コーウィッヂが 魔法とか呪いとかで若返ったんじゃないかとか、そんなのどうでもいいから就職口が欲しいと考えていたことを思い出す。

 ユンはたった数か月で、どうでもいいとは思えなくなっていた。

 腹が膨れると次が欲しくなる。

 お金の算段が付いたら気になっていなかったことが気になる。

 謎が多すぎるせいもあった。

 もうちょっと勤続期間が延びたらどうでもよくなるんだろうか。

 静かに働いていさえすれば。

 この晴れた昼下がりに涙目で荷馬車に揺られてドナドナとどこかに連れられて行ったあのチンピラたちとは違って、今みたく夕暮れの荷馬車に揺られて住み込みの屋敷にある自室に戻れるわけで。

 屋敷の玄関を慣れた足取りで。

「ただいまもどりました」

 ちょうど目の前を通り過ぎたコビがすかさず背後に回った。

 ジーが厩──馬の世話はジーがたいていやっている。ちなみに名前はミーとキー。名付け親はジーで、二頭ともレディなんだそうだ──から戻ってくるのはもうしばらく。

 夕食の準備に取り掛かりに調理場に向かいつつも、これでいいのか落ち着かない。

 前の職場では噂話がしこたまあるのが嫌でたまらなかった。

 でもアレが実は情報収集に役立っていたから安心できていた側面があったのかもしれない。

 聞いてもいないのに入ってくるのは嫌なのに、気になることが入ってこないのも嫌。

 これって、

─────贅沢なこと?

 おいしいごはん、あったかい布団、揉めたりなんか全くしない有能な同僚達に、人のいい雇い主。

 文句なんてないはずなのに、ユンは『おかわり』が欲しかった。

「いいにおーい」

 朝早いうちに準備しておいたスープを温めるその湯気に誘われてやってきて調理場を覗き込んだのはコーウィッヂだ。

 青い透き通る目がキラキラと輝いた。

 綺麗な傷一つない顔。

 今日チンピラが来た後の村の人の会話を思い出すのなら、コーウィッヂは最強かもしれない。

 そのコーウィッヂがぺろりと赤い舌を出してその唇をなめると、乾いた皮膚がさっと潤って艶めいた。

─────最強……。

 もうしょうがなかった。

「一口味見していただけますか?」

「えっ! いいのっ!」

「…どうぞ」

 頬を赤らめて満面の笑みで食いついてくるのがたまらない。

 お玉から小皿にちょびっととったスープを渡すと、受け取ったコーウィッヂが赤っぽいプルリとした唇をその縁にそっと密着させ。

 汁は口内に吸いこまれていき。

「…おいしい、けど僕もうちょい塩薄目が好み」

 よろしくとばかりにコーウィッヂはユンに大人ぶって目力を込めてくる。

「かしこまりました」

 横にとっておいた味付け前スープを追加して薄めてもう一回。

「…OK!」

 小皿をユンに返した後、んふ~っと鼻息を漏らしながら食堂から抜け出していく軽い足取りを見ると心が晴れる。

 でも。

 あの後ろ姿にはたくさんの得体のしれないものが詰まっている、かもしれない。

 つまみ食いの様子は愛らしいだけだったけれど…。

 実は豊穣祭に関して一つ、『なんで』と、本当にしょうもないことだけど思っていたことがあった。

 そして今日の準備中に他の村の人──鍛冶屋のケイジさん・スージーさんご夫妻──に聞いてみた。

『豊穣祭の出し物で女装コンテストってないですよね?

 コーウィッヂ様、出たら絶対盛り上がると思うんですけど』

 神妙な面持ちで返ってきたのは、

『第一回のときやったのよね。

 そのあとコーウィッヂ発案かつ満場一致でその回限りになった』

『コーウィッヂ様が強すぎたよな』

『うん。あの黒ロリータはヤバかった。

 開眼…ていうか。

 実際、新たな扉開いちゃって瞬間的に逝きそうになった若いの、二、三人? いやもっとか』

『ひとりは完全に間違ったほうにそのあと踏み外してたろ。

 朝日の上るころに下半身半裸でそこの坂道駆け下りて不審者デビュー』

『あいつ今どうしてるのかねぇ…』

 出てくるキーワードから、領主館まで夜這いに来てみどりちゃんに撃退された、つまりコーウィッヂの害虫になってしまったのは容易に察せられた。

 二人はみどりちゃんのことは知らないらしかった。

 でも『黒ロリータ』とかいう服装の見た目をそのあとつぶさに聞いたユンは、そちらの性癖に転んで恋心(?)を募らせてしまった若者を全く責められないと思った。

 だからコーウィッヂ自身が、女装コンテストをやらなかったら起きなかった悲劇だったことを重く受け止めたのは当然だろう。

 思った以上に目立ってしまったのも合わせて大反省したらしく、そのころからコーウィッヂがあまり村人の前に姿を現さなくなったのだという。

 そして一番重要なのはここ。

『あのころから、見た目はあんな感じだったよな』

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