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「数人?」

「タリアッテじいさんでしょ? モーリアばあさんでしょ? アンヌばあさんでしょ?

 あとは…ん~…あれ、そんだけか? ああ、そんだけだわ。うん」

 9年以上前からいたのはご年配の方々だけということか。

「ユンさんこそ、コーウィッヂ様から何か話あったりしなかったの?」

「いえ、もう来て屋敷内の案内が終わったら、翌日からすぐ仕事でしたから。

 『人足りてない』って」

「はは…そうね」

 リアは思うところがあったのか──たぶんユンと同じくあの屋敷の中の状況を思い出したのだろう──中空を仰いで苦笑いした。

「気になるなら村長にでも聞いてみてもいいかもね。

 なにせ開村の長なわけだから。

 人選があの人でよかったのか悪かったのかだけど」

 でーんとしたあの雰囲気だろうか、もしかしたらどんぶり勘定なところとかあるのかもしれない。

 リアは窓から村と村人たちを見渡し、無言でうなづいたあとパンと手拍子を打った。

「じゃ、次、次!」

 そうだ。衣装以外にもやることはいっぱい。

 お祭りの間際にバタついている村の中、どこかでこの村の始まりを聞きたいと思いながらユンは速足でリアについていく。

 あわただしく準備に動く人、普通に今日も仕事でバタバタしている人など。

 田舎の村って感じなんだろう。

 ユンの前の勤め先はここよりは多少街だったけれど、雰囲気は遠からずのんびりしていた。

─────なじめてるのかな、私。

 と、向こう数メートル、村の入り口のほうだ。

「おらおらおらぁ! どけよてめぇらぁ!!」

 ガラが悪そうなテンプレ通りの恫喝。

 馬で乗り付けてきたとみられる、おそらくよそから来たんだろう見た目からしてチンピラ風の一味十数人。

 みんな無駄に肩で風を切っているところからしてもうアレな感じ。

 物騒だけど、それ以前にこんなとこに何の用なのか。

 まだギリ日もあるうちに田舎の村でやっても締まらない。

「んだよ、あ?」

 通りすがりに睨まれた若い女の人がそそくさといなくなる。

「おお、そこ! チョードいいじゃねか。

 街で聞いたんだよ、最近この村、祭りだなんだって羽振りいいってよぉ。

 でよ、俺んとこにチーっと金をよ、融通してくれねぇかって!

 『スカーフェイス』っつったらよ、わかんだろ、な!」

 顔に傷があるこの男、要は金を巻き上げに来たわけだ。

 にしても自分で名乗っちゃうあたりイタい。

 なんにせよ危ないことになってるわけで。

─────誰か人、呼んでこないと…

「バカねぇ…」

 慌てるユンを後目に、リアは遠い目でそのチンピラどもを睥睨していた。

「チューわけでよ、村長呼んで来いって。

 あ? んだその目よぉ」

 ユンは再び声の主、目の前の細身で同じくらいの伸長の、優しげな糸目の村人にいきってまくしたてるチンピラのほうに視線を戻す。

─────あれ? 馬、いなくなってる?

 チンピラの後ろらへんに止めてあった馬が全部丸っといない。

 ほんのり砂ぼこりがたっていて、そのうえ、向こうのお連れさんの頭数も減っているような。

 仲間の人数減に気づいていないのは、まくしたてている奴とその取り巻き数人。

─────残りはどこに???

 ユンは単純な疑問符の答えを、村の入り口の向こう側に見た。

 さっきまで祭りの手伝いをしていた人たち数人が集まっている。

 その中には、そそくさといなくなった若い女の村人も。

「おら、どーした、ん? なんだてめぇ、笑ってんじゃねぇよ!」

 とうとうチンピラが胸倉をつかんでいた相手の顔面に、腰に付けたナイフを抜いて、そして。

 その瞬間。

「ごふっ!」

 うずくまったのはチンピラのほうだった。

 腹を抑えている。

 村人の男は優しげな表情のままで、思い切りかがんだチンピラの腹にさらに膝蹴りを入れた。

 えぐぅ…という怪音がチンピラの口から涎とともに漏れる。

 その後ろでも同じようなことが起きていた。

「に、逃げ…って馬いねぇし! っぐぇ…」

 その男はそそくさと逃げていったはずの若い女村人のグーパン一発──顎にガッツリ下から──で白目をむいてぐったりした。

 一人、また一人と地面に崩れ落ち、速やかに捕縛されていく。

 見ると最初のほうにいなくなったと思った人達も向こうで縛り上げられて、しゃがんだ姿勢で小さくまとめられているらしい。

 まるで誤って送られてきた不用品を梱包返品しようとしているような軽やかな扱い。

「ったく呼ばれて来てみりゃこれかよ」

「久しぶりに、ね」

 チンピラの要望通り村長はやってきて、リアの脇を通り過ぎて村の入り口に向かった。

 なぜだろうか、村長が近づくにつれ、チンピラの顔色が青くなっていく。

「で?」

 チンピラの間近にしゃがみこんだ村長は、にっこりとその顔を覗き込んだ。

 チンピラの目が泳いでいる。

「す、すんませ…」

 涙目である。

「ん?」

 村長はさらにいい笑顔。

 チンピラと違って、後ろで縛られている面々の中には不信な顔の者もいたが、隣で縛られている仲間に耳打ちされて表情を変えた。

 チンピラはガチガチ歯が鳴っていたのを何とか止めて、会話…というか悲鳴を上げられるようになったようだ。

「すんませんでしたァアああぁああああああああ!!!!!!」

「ただでは許してやれんなぁ…。

 なにせうら若い女性を恫喝し、未来ある若人の胸倉をつかんで人質にして、ごくごく平凡な田舎の村から金を脅し取ろうとわけだから」

 その『うら若い女性』こと最初にそそくさ逃げていったはずの女村人は、その右手から金属製の丸い輪がつながったような何かを外し、布切れで『汚れ』を拭きとっていた。

 『未来ある若人』はそのチンピラを縛り上げるのに使ったロープの残りを束ね、それを切るのに使った大振りのナイフ──チンピラが脅しに使ったのよりも一回り大きい──をズボンと背中の間の隠しホルダーにのんびり仕舞っている。

「ぅっ、も、やめ…」

 その言葉のままの泣き出しそうな顔で村長と村人達を見つめるチンピラ。

─────どっちが襲った側なんだか。

「じゃ、いつも通りよろしく」

「「「「「「うっす」」」」」」

 村長が立ち上がる。

「スカーフェイス?」

「自虐ネタかよ。馬鹿だよなぁ。

 ほんとに強いやつは顔どころか体中探しても傷一つねぇわ。

 自分から雑魚だって宣言してるようなもんだ」

 そんな声が漏れるうちにあっという間に捕縛された『にもつ』たちは荷馬車に乗せられていく。

 いなくなったと思っていた馬は村の入り口の向こうにいたらしく、とっくにその荷物を下ろされ、それぞれ品分けされていた。

 たぶん金目のもの──盗品かもしれない──と、日用品なんかと、って感じだ。

 『いつも通り』がどうすることなのか聞くのが怖いけれど、とにかく本当に手際がいい。

 まるで…。

「解説しとくとね、」

 ユンの隣でくぐもった笑いを漏らしながらリアはつづけた。

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