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「じゃ、最終調整問題なしってことなので、お披露目ね」

 更衣室として利用した空き部屋から階下へ。

 誰の声も聞こえない。音もない。

 このお屋敷にしては珍しい状況になんとなく気が咎め、足音を立てないように階段を降りる。

 足音が聞こえだした。これはジーだ。

 コーウィッヂの駆け足が聞こえてきた。

 みどりちゃんとコビとシロヒゲの気配がないのは、服装に興味がない──というか多分区別がつかない──からだろう。

 結果。

 中央の階段を下るその目の前に男二人が集合。

─────かなり恥ずかしい。

 見上げられるのがこんなに照れくさいとは。

 ジーが瞬き一つしない。

 コーウィッヂはちょっとはっとしたような──最初にあの道のどまんなかであったときのような──顔をしたかと思うと、一瞬俯き、顔を上げた時には満面の笑みだった。

「やっぱ僕の見立ては正解だね!

 絶対チャイナがいいと思ってたんだよ!」

 黒い生地に赤い刺繍が入ったチャイナドレス風──チャイナが何のことかわからずあとで聞いたら、昔のこの辺の小数部族のことだそうだ──の上着は上半身ぴったりで、下はアイボリー一色で緩めのズボン。

「あの、ズボン、いいんでしょうか」

 上着はぴったりしている割に動きやすく、文句のつけようがないが下は…。

 子供のころにキュロット的なのは履いたことがある。

 でもここまでわかりやすいズボンは経験がない。

 動きやすいのは確かだが違和感が。

「いいよ良い! 似合ってるよ!」

 ジーも隣ですごい速度で首を縦に往復させている。

「いえ、そうじゃなくて…」

「だってユンさん姿勢いいし、スタイルも良し&程よい肉付きで、だったら上半身のラインが出る奴のほうがいいよね。スカートもいいけど、そうすると動きにくい・仕事しにくい・お尻らへんにかけてのラインが見えなくて残念、もう絶対路線はこっちって思ったわけよ。ひらっふわっとしたスカートもいいけどさ、それはそれ、これはこれだよね。色も髪が赤いから黒が映える。膝下は色を明るくしておいたほうが上半身締まって見えて腰から下の感じが僕的に超グっとくる。膝なんかにつきがちな埃なんかの白っぽい汚れが目立ちにくくて、全体通して召使い的って要素も備えてるし、ユンさんの肌色にもなじむ。ね! 思うでしょ?」

 説明が深い、そして濃い。 

 喋っている間のコーウィッヂの表情は無茶苦茶真剣。

 コーウィッヂがジーに首を振り向けると、ジーは見たことがないいい笑顔 で両手の親指を立ててコーウィッヂに賛同している。

─────二人とも、中身おっさん…?

 軽く引いた。

 ユンは若い子の見た目の魅力について談笑する前の雇い先で見た年嵩の男性陣を思い出す。

 女の人扱いされる照れくささを感じつつ、なんだかやっぱりちょっと変な感じ。

「男子、セクハラ発言混ざってるから」

─────強いぞリアさん。私は無理だ。

「リア、ありがとう。

 流石の腕前だよ。ぴったりじゃん。

 この型のドレスって動きやすさをキープしたままサイズ感保つのが本当に難しいから作れる仕立て屋さん限られるんだけど、ここまでの仕上がりになるんだったらやっぱこれだよね~」

 コーウィッヂはリアの言葉を気にも留めずだ。

「ほめときゃいいってもんじゃないんだから」

 満更でもない様子のリアに一歩近づいたジーが、その頭をぐりぐり撫でる。

「ちょっと、やめてよ。髪結び直さないといけないじゃない!」

 リアにキッと下から睨みつけられたジーは、引きつった顔で両手を掲げてそろりと後ろに下がっていった。

 このやりとり。

 ユンとしては状況に面食らっているばかりでもいけないので、

「もったいないくらいです。ありがとうございます、こんな高価そうな…」

「いやいや、大した金額じゃないよ。

 これでモチベーションを上げてもらいたい!」

 コクコクとジーも頷く。

 嘘ではないのだろうが、先ほどの話を聞いている限りユンのモチベーションよりコーウィッヂとジーのモチベーションがメインだろう。

 ユンが着せ替え人形になるだけで喜んでもらえるなら何よりで嫌な気持ちはそんなにない。

 でもそういう見られ方をしたことがないので面はゆい。

 自分の体の線などなぞったこともない。

 見られているものなのかと思うと変な感じ。

 それにユンに合うという理由で今後の従業員の制服もこの路線に決定したわけで、実は責任大だということに気が重くなったりもしていて。

 リアが小声でユンにささやいた。

「ユンさん、嫌だったら言いなよ。

 ほんと、気を付けて」

 で、そこからいきなり声がでかくなる。相手はジーだ。

「でも、ジー、あんた相変わらずさぁ…」

 なんか気のせいか軽く殺気が。

 うっと後ろめいたように顔を引きつらせ、ジーは視線を泳がせた。

 そのうえで、人差し指を口元に当てて、シーっと音を立てた。

「シーっじゃねぇわ。ったく…」

 リアさんのジーへの当たりのきつさは何だろう。

 聞いちゃいけない、召使いのたしなみだと思って口をつぐんでいると、コーウィッヂがいつの間にかユンの隣に来ていた。

 コーウィッヂの小ぎれいな顔がユンの頬にそっと近寄ってくる。

─────わわ、近い…

 そして耳うち。

「元カレ・元カノの関係。原因はジーの浮気」

─────なるほど!

 コーウィッヂとの距離の近さによるドキドキ感は納得感で完全に消えた。

 思うところがあるような顔で二人を見ているコーウィッヂはそのままため息をついている。

 ユンとしては先日のリアのリーク情報の元が何だったのかわかってちょっとすっきり。

 でもリア・ジーともにそんな間柄の相手とこんな距離感でやっていっているところについて、もやっと…。

 そしてこうやって個人情報って噂になって流れていくんだなぁと思うと、なんだかなぁ。

 コーウィッヂがユンに耳うちしたことに気づいていない二人は何故か同時に視線を向けた。

 息ぴったりじゃないか。

「じゃあ、ちょっと長居しちゃいましたけどこれで。

 また用ありましたらご連絡ください」

 コーウィッヂとユンにだけばっちり目を合わせながら営業スマイルをするリアは、ジーにだけ一瞥もくれずにさっそうと玄関を出て行った。

 ジーはペコリと頭を下げて持ち場に戻っていく。

「衣装もそろったし、今後ますますよろしくね~」

 さっきの空気感をもろともしないコーウィッヂの言いよう。

 今までは大体『おいおい』みたいな気分になっていたのだが、今回について、ユンはだいぶ救われていた。

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