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「みどりちゃんはねぇ、う~ん、まじめだね」

 コーウィッヂは中空を眺めながら一つ一つ言葉を紡いだ。

「たぶんうちで働いてくれてる人の中では一番真面目。

 拭き掃除以外に害虫駆除もしてくれてるんだけどね。

 おかげで我が家はネズミ知らずだよ」

「完璧ですよね」

「わかる?」

 ユンは頷いた。

「すごいです」

 だからこそ、その秘訣を、ぜひ自分のものに。

「みどりちゃん、それ聞いたら喜ぶよ」

「早くお会いしたいです。

 その…不躾で恐縮なのですが、ご容貌はどんな…?」

 ニアミスしたりするかもしれないし。

「ん~、僕と比べても小さめだね。

 全体的に丸っとしてて、かわいいよ。

 あとね、お肌がね、つやぷるなんだ。透明感すごくて。

 ついちょっと触りたくなるんだけどね。

 でも…さ、やっぱ雇い主としては、ネ。だめでしょ?

 過度なスキンシップはハラスメントだから…ぐっとこらえてるよ」

 かわいいなんてワードが出ると思ってなかった。

 ていうかそりゃお前だと突っ込みたくなってしまうけれど、そんな生き物から『かわいい』と言われるみどりちゃんって一体。

 触りたくなるとか言われるって、一体…。

 勝手にバシっとしたお姉さまを妄想していたユンは、コーウィッヂから聞いた今のビジュアルイメージからその像を改めた。

「今週末くらいならみどりちゃんも落ち着いてるかなぁ~と思ってるんだけど、どう?」

「私はもういつでも構わないです!」

 力強くユンが肯定すると、

「じゃ、そーいうことで!」

 明日の朝食の準備も軽く済ませて部屋に戻ったユンは、あと数日! と期待で胸いっぱい。

 1日遅れた制服の採寸は明日の午後。

 疲れはあるもののイベント盛りだくさんで、しかも楽しみだ。

 昨日と同じく静かなベッドに横たわると、眠気が瞼を下ろしていく。

 ペタタッ

 まただ。

 ペタッペタ

 ペッタッ

 ペリペリッ

─────慣れよう。

 明日の仕事のために寝るほうが先だ。

 ユンは働きにきているのであってお屋敷遊山に来ているのではない。

 気になるペタペタ音が遠ざかるのを聞きながら、ユンの意識は消えていった。




*****************************




「じゃ、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 採寸に来た仕立て屋のお姉さん、リアは、ユンがみどりちゃんのイメージとして想像していたおねえさんに近いパリっとした人だった。

 二人してきていた男性陣がそそくさと部屋を出て行ったあと、手元を止めずに世間話だ。

「まだ3日目って聞いてますけど、どうです?」

「疲れないとは言えないですけど、よくしていただいていて。

 少しずつ覚えないとなぁと、」

 ふふっと柔らかく息をはくような笑いに続き、

「ならよかった。

 前に来てた人達、長くて2週間だったって…」

「え?」

 お姉さんの手元がその瞬間、ビタッと止まった。

「聞いてない、のね?」

「はい…」

 そりゃそうだ。

 高離職率の職場だなんて自ら公言する雇い主がいるわけがない。

「私もコーウィッヂさんから聞いたんだけどね。

 人が少なすぎて怖くなったとか、コーウィッヂさんのストーカーまがいになったとか。

 あと…あの箒とモップ? あれで卒倒してもうだめっていうのとか。

 『ヤギは従業員じゃありません!』って豪語したのもいたそうよ」

「なんか…わかりますけどね…」

 このお屋敷のでデカさにビビったのは自分もそうだ。

 コーウィッヂのストーカーなんてもう想像に難くないし。

 箒とモップは自分もちょっと頭おかしいのかと思ったし。

 あの種族フラットな感じに耐えられない人がいてもおかしくはないかも。

「メイちゃん、かわいいのに」

 ヤギは人懐っこく、歩いている人間を仲間と思ってついてくることがある。

 昔近所の人がヤギを飼っていたのでよく知っていた。

 子ヤギのころから知っているジーなんか、庭仕事中にべたべたスリスリされたり突撃されたりしているらしい。

 リアはコーウィッヂとジーの服も作っているそうで、ここには来慣れている様子。

 再び手を動かしだし、ついでに吐き出すように、

「あとジーに惚れちゃうパターンもあったみたい」

「え!?」

 リアはにやりとした。

「…でしょ? 気を付けなよ。

 あいつ、タラシだからさ」

「そもそも言葉が不自由で意思疎通がままならないのにモテるって…」

「そこがキモなの。

 あいつ、字うまいらしいのよ。

 あ、その顔、もしかして見たことある?」

「はい。でも、私、読めませんから…」

 採寸中につき、首を動かさないように返事をすると、リアはユンがジーの魔の手(?)に引っかかっていないことを理解しつつ、ユンの自信のなさも汲み取ってくれたようだった。

「ダイジョブ。私にもあんなミミズ張ったみたいなの書かれても読めないから。

 でも読める人には、ってやつで。

 でさぁ、鼻ないうえに髪型とかだいぶイカれてるくせして、全体の造り、実は悪くないじゃない?

 マナーとか、ちゃんと習った感じで。

 そこからの~ってこと。

 喋れなくて、そんなに表情も大きくは変わらないのがさ、こう…うんうんって頷いて話聞いてくれたあと、メモとか出してさらっと文章書いてくると。

 見てみるとすごく字が上手、そして文章も…いいらしいのよね、聞いたところによると。わかんないけどさ。

 だから、まともに学校通って高等教育受けてるよーな、いいとこのお嬢様なんかが引っかかるみたいなのよ。

 ギャップ萌えっていうか…ワタシの周りにはいないタイプっていうかな?

 ジーは職場でひっかけようとは思わない奴だから、初日で仕事の内容説明したかったんだろうけど、引っかかっちゃったみたいって、その時は聞いた。

 おかげでその彼女、まったく仕事になってなかったって」

 その点ユンは字が読めないので全然安心だ。

 できないっていうのも能力だと思っていいのだろうか。

 そこまで見計らって雇われていたのなら、安心というかなんというか。

 というかリア、ジーに詳しすぎやしないか?

「街に出た時は遊べそうな有閑マダム限定で捕まえて宜しくやってるみたい。

 意図せず捕まえちゃうような男が、捕まえる気でかかるからそりゃ入れ食いよね。

 ほんっと…」

 リアのあきれ果てた声。

 『奴』とか言っちゃう辺り、友人関係なのかもしれない。

 そしてこの感じだとジーは街でも多少噂になっているのかもしれなかった。

 縁のない世界だけれど、受け入れるしかない。

 両腕を広げて背中に立つリアを感じながら、ユンは部屋の正面のドアの向こうにある屋敷とその中のあの人たちが一斉に自分の中に飛び込んでくる、そんな想像をしてみた。

─────ばっちこーーい!!

 想像の中だけは、準備万端だった。

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