第6話 文化祭 【後編】
「あーぁ、湊せんぱい何処行っちゃったのかな」
首を左右交互に動かしながら人で賑わう校内をスタスタと歩いて行く。
先ほどまで雛はメイド役の響樹と怒涛の戦いを繰り広げていたが、気がつけば目当ての湊の姿がいないことに気づいた。
すぐさま教室を出て校内を歩き回って探しているが、一向に見つからない。
すると窓の外に蝶々がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
雛は周りに不審と思われるのを恐れ、校舎の柱に隠れて窓の外に体を乗り出し、その一羽の蝶々に話しかけた。
「…ねぇ、蝶々さん湊せんぱい見なかった?」
見かけなかったわ…
お役に立てなくてごめんなさい
「そっか、全然気にしないで」
動物や植物と会話できる能力の雛は身の周りの生物全てと能力を発揮できる。
こうして通りがかった蝶々と会話するのも日常茶飯事だ。
「あ、そういえばまだ食堂には行ってない」
雛はあっと思い出したように食堂へ向かおうと駆け出そうとした。
「わっ!」
湊を見つけることしか頭になかった雛は前方で立ち止まっていた人物に気づかず、思いきり激突してしまった。
「いったぁ~」
ぶつかった衝撃で後ろへ倒れこんでしまい、お尻を痛めて苦痛に顔をしかめた。
すると目の前にスッと差し出された手。
その手を伝って顔を上げると他校の制服を着た男の子だった。
白と黒が交互に混ざった髪に左目が前髪で隠れていた。
「・・あ、あの・・・だ、大丈夫・・・ですか?」
少々控えめに差し出された手を雛は掴み立ち上がった。
「あ、あの・・・ごめんなさい・・・俺がここに立っていたから・・・」
男の子は雛と目を合わせようとせず、キョロキョロ目線を動かしながら言った。
「別に、僕もちゃんと前見てなかったし」
雛はぶつかったことよりも目を見て謝らない相手に少し不満を感じ、転んだ衝撃でついてしまったお尻を制服の上から手でパタパタと払いながら冷静に淡々と答えた。
「・・・ほんとにすみません」
「だから別にいいって、お互い注意力が足りなかったし」
「でも・・・」
「もう!しつこい!だいたい、話すときはちゃんと目を見ていいなよ!!」
「ごっ、ごごごめんなさい!」
雛の罵声に男の子はビクッと体を震わせ、青ざめた表情をしながら90度の綺麗なお辞儀をして謝った。
「あ、あの…そういえば、さっき外にいた蝶々と何を話していたんですか?」
「え?」
まさか見られた…
いつも最新の注意を払っていた雛だったが、迂闊だったと内心焦り始めていた。
「蝶々とお話しなんて、夢があっていいですよね!僕も頑張ればお話しできますかね」
雛の中で一度 思考が停止したが、彼の印象が一言にまとまった。
天然
「……」
じっと雛が引いたような視線を向けると男の子はその視線を感じ取って顔を青くした。
「ごごごごっごめんなさい!!」
何度も繰り返す謝りに雛はこの場を落ち着かせるため、男の子に問う。
「君、どこの学校?名前は??」
「えっと、っ!あ…に、にいさま…」
「?」
雛の問いかけに答えようとしたその子は、突然先ほどとは打って変わってさらに顔を真っ青にし、怯えたように体を震わせていた。
「あ、ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
「え、あ、ちょっと君、大丈夫?」
その怯えように少し違和感を覚えた雛は、なんとか落ち着かせようと彼の肩を掴もうとした。
けれど、その手はパシッと弾かれてしまった。
「ご、ごめんなさい…あの、僕そろそろ行きます」
そう言って背中を向けてサッと逃げるように足早に去って行ってしまった。
「…なに、あいつ」
彼が去った方向を追うように見ていると、地面にある物が落ちていていた。
「なんだろ」
雛は首を傾げながらその落ちているものを拾った。
「生徒手帳だ、あいつの」
雛は生徒手帳の持ち主である証明写真が先ほどの男の子と一致であることを確認して名前を読んだ。
「双海…シロ?」
控えめな男の子、出したかったんです。