第5話 文化祭 【前編】
11月25日 文化祭当日
秋らしい涼しげな快晴に恵まれ、絶好の文化祭日和となった。
『桜風高校』
校門の装飾や出店の賑わいに多くの人が胸を高鳴らせ楽しんでいる中、響樹と湊のクラスの出し物である女装喫茶は開店前で慌ただしくなっていたが、クラス全員が一団となって準備を進めていた。
そんな中、メイド役にされた響樹はというと女子に囲まれ、服や髪の身だしなみを整えている最中であった。
「音森くん、すごく可愛い」
「やっぱり私たちの目に狂いはなかったわ」
「ってか、腰ほっそ!」
女子全員がうんうんと首を縦に振ったが、当の本人は穴があったら入りたい気持ちだった。
「し…死に急ぎたい…」
黒の清楚な膝下ワンピースに白いエプロン、いつも伸ばしている髪を高い位置で1つに結わいて、メイドの特徴であるカチューシャをつける。
いつもの眼帯には女子の遊び心でハートのシールを貼り付けた。
響樹はこれ以上ない恥ずかしさで顔を赤面させていた。
「おーやってるやってる、響樹くん似合うじゃん」
教室に入ってきた湊は既に響樹と同様のメイド服を着ていた。
「み…湊…お前まで…」
「いやいや、なんで可哀想な子みたいな目してんの。元々そういう話だったでしょ!」
湊の姿を頭の先から足のつま先まで見た響樹は、同情のような眼差しを向けた。
「この前ケーキも奢ったし、いい加減腹括らないとね」
「誰のせいでこうなったんだよ」
今回、メイド役を受けるかわりに新しく駅前にできたケーキを奢るという取引に応じた響樹は、まんまと湊の策略にのってしまったと少し後悔してはいたが、甘いものには目がない彼にとって、ケーキは最大のメリットだった。
「1番客入るよー!」
女子の声にクラスが一瞬で体制を変えた。
文化祭の出し物といえど、接客をするということに皆少なからず緊張していた。
「最初の客って1日のモチベーションに値するよな」
「どんな客だろう」
「いらっしゃいませ」と第一声に湊と響樹はごくりと固唾を飲み込んだ。
「あ!湊せんぱ〜い!!」
「「お前かよ」」
2人が思わず拍子抜けしたその人物は1年後輩の日向 雛だった。
満面の笑みでこちらに向かってきた雛は湊の目の前まで駆け寄って来て、目をキラキラさせていた。
「湊せんぱいのクラスが女装喫茶やるって聞いたので、自分のクラス他の子にまかせて来ちゃいました」
雛はえへへと頬を赤く染め、ふにゃっと天使のような笑顔で言った。
「押し付けたの間違いだろ?」
すかさずダメ出しをした響樹の言葉に雛の表情は凍りつくほどの冷ややかな笑みに変わった。
「響樹せんぱい、いたんですか?」
「ばっちり最初からここにいたんだよな」
「それは失礼しました、あまりにも僕の視野に入ってなさすぎて米粒ぐらいにしか見えなかったです(笑)」
「はっ、視野狭すぎだろ。目の前のことしか見えないなんてこれから先が思いやられるぜ雛ちゃん?」
雛は途端に響樹をキッと睨みつけ、迫り来るような剣幕で口を開いた。
「…ムッカつく…」
「女顔が台無しだな」
女顔…
その一言が禁句の言葉を発して取り返しがつかなくなったみたいな異様な雰囲気になってしまい、湊は2人の間に割って入ってきた。
「そこまでそこまで!響樹くん、歳下にあまり突っかかるな。雛、もう少し口の利き方に気をつけろ」
お互いを交互に見ながら放った湊の言葉に響樹と雛は渋々頷いた。
「…わかった」
「…湊せんぱいがそう言うなら…」
お互い目を合わそうとしない2人に「はぁ…」と湊は呆れ混じりの溜息を吐いた。
口ではわかったと言っているものの、心を読めばお互い不満だらけだ。
どうしたものか…、沸々と先が思いやられると湊は感じた。
「とりあえず、客なんだからなんか頼めよ」
響樹は腰に手を当て、ツーンとした表情で雛にスッとメニュー表を差し出した。
すると急にキリッと目つきが変わった雛は真剣な面持ちで言った。
「湊せんぱいを指名で」
「キャバクラかっ!わがまま言うな!ここは指名制じゃねぇよ!」
ほんとに先が思いやられる…
自分が学生の頃はコントをクラスの出し物でやりました。男装して(笑)
メイドの響樹くんと湊くんはそのうち、描きたいです。