第2話 友達のメリット
それから1カ月、
響樹は転校してきてから相変わらずクラスにまだ馴染めないでいた…というより、彼自身が壁を作っていて溶け込もうとしないので周りも声をかけようとはしなかった。
そうするうちに一部上級生の間では噂になっていて、響樹のことをよく思ってない人もいた。
そんなある日の放課後、帰宅しようと湊は教室を出て職員室を通ろうとした時だった。
「お、碧里じゃないか!こんなところで会うなんて運命だな!え、何?この教材運んでくれるのか!すまんな〜碧り「先生、俺まだなんも言ってない」
運悪く担任と職員室前で出くわし明日の授業で必要な資料を教室に持っていってくれと頼まれ、渋々教室へ戻るはめになった。
「ったく、なんで俺が」
人使い荒いなーと言いながら教科書よりも分厚めの本を6冊 重ねて両腕に抱え、来た道を戻る。
その道中、見覚えのある人物が奥の通路を通り過ぎた。
学校内でも有名なガラの悪い上級生3人と響樹が体育館のほうへ行くようだった。
「…なんか、やばそうな感じだな」
明らかに響樹が無理やり連れて行かされていると思った湊はこっそり後をつけて行くことにした。
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「なーんで呼び出されたかわかるか?」
「・・・・」
響樹は体育館の奥の倉庫に連れてこられた。
中に入るなり3人から隅の方に追いやられ、自分より少し背の高い先輩達をただジッと見ていた。
「お前浮いてるらしいじゃん。スカしてて偉そうでムカつくんだよな」
「・・・・」
「おい、黙ってねぇでなんとか言えよ」
3人の中心にいたリーダー格が響樹の胸倉を掴んだが、響樹は物怖じせずただジッと見据えていた。
「っんだよその目は!生意気なんだよ!!」
胸倉を掴んでいた先輩は響樹の眼帯に手をかけてしまった。
一方、気づかれずに倉庫のドアまで近づいて聞き耳を立てていた湊は突然「やめろ!」という響樹の声に驚いて扉の少し開いた隙間から覗いてみた。
するとそこには 眼帯を外し、取り乱したように動揺している響樹を3人がかりで押さえつけていた。
「見るな見るな見るな!!!」
「なんだよお前大人しくしろっ!!」
目を覆っていた響樹の手をガシッと掴み外して、隠していたその目を見た先輩はこう言った。
「・・・きもちわり」
響樹はその一言に苦痛に顔を歪ませ、背けた。
いつも眼帯で隠していた右目は左目の色とは左右で違い模様のようなものが描かれていた。
「や・・・やめろ・・・・もう見るな」
「写メ撮って校内にバラまいたらどうなるだろうな」
その先輩は面白そうにスマホを取り出し、写真を撮ろうとした。
湊は衝動的にバッとドアを開けて「やめろっ!」と叫んだ。
湊に向けられた3人の攻撃的な視線とは別に響樹の悲痛な目が湊に向けられた。
「・・・っ、お前」
まるで助けを求める子供のような目をしていた響樹を見た湊は心が痛んだ。
「あ?なんだよお前」
「やめろっつってんの、いい加減その手離せ!!」
ドゴッと拳で殴った音が響き、湊は先輩3人に掴みかかって行った。
喧嘩慣れしているわけではないが、対等に戦える湊は何発も何発も、拳で殴り倒しなんとか先輩たちを追い返した。
顔や体は少々傷が痛々しく残っていて、痛ってーと言いながらもハハッと乾いた笑いが漏れた。
「・・・・なんで、俺なんかを」
「言っただろ、友達になりたいって」
「・・・・」
響樹は こいつ馬鹿なのか と思った。
「今、こいつ馬鹿なのかって思ったな響樹くん」
わかりやすく顔に出てたか?
「いや、そうじゃないよ」
は??
「わかりやすい反応だね」
俺何もしゃべってないのに・・・
「しゃべってなくてもわかっちゃうんだ、心を読んでるから」
理解するのにそう時間はかからなかった響樹は、戸惑いとは逆に嬉しさが込み上げてきた。
「俺と同じってことか」
「あぁ・・・響樹くんが力のある人だっていうのは最初からわかっていたんだ」
「じゃあなんで言わなかったんだ?」
「俺も嫌われると思ったから・・・」
湊の重い言葉に響樹は黙った。
「人の心が読めるなんて、そんな力知られたら気味悪がって嫌われると思ったんだ・・・昔からそうだったから、だから力のことは知らないふりして友達になりたかった」
ごめんと言いながら湊は深々と頭を下げた。
「・・・俺も同じだ、この目と力のせいで今まで何度も自分の運命を憎んだ…お前、これ気持ち悪いとか思わないのか?」
人差し指でコレと右目を指した。
「全然・・・・響樹くんのその目、とても綺麗だと俺は思うよ。響樹くんの力はどんな能力なの?」
響樹は決心したようにしっかりと両目で湊に真正面から向いた。
「俺の能力は、未来を予知だ」
「未来予知か・・・すごい能力だね」
ふにゃっと柔らかい笑みを零した湊に響樹は口角が少し上がった。
「お前、変わったやつだな」
「あ・・・笑った!!初めて見たよ響樹くんが笑ったの」
嬉しそうにキラキラしながら笑う湊に響樹は少し照れたように頭をポリポリかいた。
「湊、やっぱお前変なやつだ」
湊はピタリと止まり、聞き返した。
「今、俺の名前呼んだよね??」
「・・・っと、友達・・・なんだから、当たり前だろ」
目線を外しながら照れたように言った響樹に湊はこれ以上なく嬉しくなって構わずガバッと両腕を広げて抱き着いた。
「っ?!てなんだ急に?!湊、お前離れろ!」
「やだ!もう一生離してやるもんか!!」
湊の強引なハグに恥ずかしさで顔を赤らめるも響樹は少し嬉しそうに口角を少しあげた。
「…湊、俺お前と友達になるメリットわかった」
「え、何??」
「絶対に信頼できる」
「・・・・」
「昔、母親が言ってたんだ…相手の為に体を張ると、守ってるほうも守られてるほうも互いの心の痛みがわかるって、だから信頼できるんだって」
そういえば、響樹くんの家族は…どうして一人暮らしなのだろう…
湊は内心ふと思ったが、今の自分にそれを聞くことはできないと悟った。
何故なら、母親の話をした響樹の横顔がとても悲しそうだったからだ。
響樹くんと湊くんがなんとか打ち解けましたね。
今後の2人の掛け合いにも注目していこうと思います。