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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
2章 闇の支配者、誕生
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9話 世界が僕を狙っている、かも?

内容を修正しました!

 クラリス姫とふたりきりの応接室の中。

 どれくらい時間が経っただろう。


 僕はまだ抱きしめられたままーー。

 彼女の泣き声が収まってきたタイミングを見計らって、声をかけてみた。


「……落ち着いた? お姫様」

「お、お恥ずかしいところを……」


 慌てた感じで僕を解放すると、クラリス姫は頬についた涙の跡を指先で拭いながら、スンッと息を吸った。

 まだ鼻の頭が赤いけれど、涙は止まったようなのでよかった。


「泣いてたことは誰にも言わないから、安心して」

「……ふふっ。ありがとうございます」


 少し茶目っ気のある笑い方をして、姫が目を細める。

 こういう表情をすると、結構幼く見えるな。

 なんて6歳らしからぬことを思っているとーー。


「あなたは幼くしてすでに立派な紳士なのですね。それにあなたは予言に示された救世主。私もあなたに敬意を示します。エディ君。――いいえ、エディ様」


 突然、敬称をつけた呼び方をされて驚いた。

 姫の顔から、さっきまでのあどけなさが消えて、凜とした雰囲気が強くなる。


 単なる6歳児に向ける表情じゃない。

 対等、いやむしろ、尊敬する相手に対する羨望が含まれているような眼差しだ。


 あれ、これまずいやつでは……。


 僕が警戒心を強めたそのとき、両親が様子を見に戻ってきた。

 よかった、ついている。

 子供ぶって両親の後ろに隠れてしまおう。

 そう思って、駆け出そうとしたのだけれどーー。


「エディ様」

「わっ」


 クラリス姫は僕の右手をきゅっと握って、逃がしてはくれなかった。


「エディ様。大事な質問があります」

「……なあに? 姫」

「君は救世主としての名誉や、地位を望んではいらっしゃらない。そうですよね?」


 僕はその問いかけに頷いた。


「うん。僕、いままで通りに暮らしたいな! 来月からは、学校もはじまるし」


 僕の答えを聞いたクラリス姫は、決意を固めるかのように一度瞳を閉じた。


「君の気持ちはわかりました。ただ、エディ様、注意して下さい。この地に救世主がいることに気づいたのは、我が国だけとは限りません」


 ……まあ、そうだよね。


「今後、他の国が君の力を頼ってやってくることは想像に難くありません。エディ様のお力は、一国の運命どころか、世界の行く末さえ左右するほどのものですから」

「そんな……エディはまだ6歳なのに……」


 両親が慌てて僕の傍に駆け寄ってくる。


「優れた予言者がいようとも、救世主がエディ様であることまでは分からないでしょう。ですが、いらっしゃる場所に目星をつけることは出来ます。我が国のように。エディ様が注目されることを望まないのであれば、我が国は全力でエディ様を保護いたします」


 クラリス姫、父、母、の視線を一身に浴びた僕はーー。


「ありがとう、お姫さま。でも僕、大丈夫だよ」

「エディ様……」


 国家の庇護なんて受けるつもりはない。

 ステータスが低いとはいえ、たいていの敵には負ける気がしなかった。

 国を相手に借りを作るような状況なんてごめんだ。

 今度の人生は自由に、そして平穏に生きる。

 これは僕が何よりも……自分の命よりも優先したいことなのだから。


「だって、お姫さまの国に行ったら学校に行けなくなっちゃうでしょ? それに、いきなり僕が行ったらお城の人たちもびっくりするよ。どうしてこんなところに子供がいるんだーって」

「……ええ。そうですよね。あなた様の仰るとおりです」


 あっさり僕の言い分を受け入れてくれたクラリス姫を、意外に思った。

 彼女は僕を保護するためにここまで来たはずだ。

 その結果、自分の騎士まで失ったというのに。


「僕、行かなくて良いの?」

「大恩のあるエディ様が嫌がることを、どうしてできましょう」

「でも、そのためにお姫さまはここに来たんじゃ……」

「父上のことは私が説得します。……ただ、エディ様。それでは君の御身が……」


 僕はにこっと笑った。


「大丈夫! だって僕は学校に行くんだからね!」

「……そうか! 学院の寮に入ってしまえば……」


 父の言葉に、僕は頷く。


「場所しかわからないんだったら、違う場所に逃げちゃえばいいんだよ」


 家族はそれぞれ顔を見合わせていた。

 本当にそれで大丈夫かという表情だ。

 けど、みんなはどこかで気楽にも考えている。


 息子が「内緒にしていてほしい」と言うからしているのであって、僕が壮大な力を持っていることは、家族にとっては何が何でも隠したいことじゃない。

 まあ、それくらいの軽い感覚でいてくれた方がいいんだ。

 僕はうちの家族のおおらかなところが好きだからね。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
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