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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
1章 魔王なら消滅したよ
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3話 姫騎士を救い出す

 探知で示された方角へ向かい駆け出す。


「手足が短いせいで、走りにくい……!」


 昨日までは気にならなかったのに、つい前の自分と比べてしまう。


 なんとか結界を越え、茂みを抜け出すと、そこにはオークの群れに襲われた一団の姿があった。


 地面に転がっているのは、人間の男が5人。オークが8体。

 どちらも完全に絶命している。


 人間の男たちは、服装からして恐らく騎士だろう。


 今、オークキングを含む8体のオークと対峙しているのは、ただ一人、剣と盾を手にした華奢な少女だけだ。


 ドレスの上に鎧をつけ、ロングブーツを履いた少女は、白い肌や胸元を傷だらけにしながらもオークを睨みつけている。

 ドレスの裾は破れ、長い金髪も乱れていた。

 キングオークの率いる群れに襲われ、健闘はしたものの、数の差がありすぎて、徐々に追い詰められたというところか。

 片膝をついた彼女は、気力だけで向き合っているという有様だった。


 彼女の肩は恐れのあまり震えている。

 それでも彼女の瞳は、負けん気を失っていなかった。


 彼女もオークたちも、まだ僕の存在に気づいていない。


「もう逃げられないぜ、姫騎士さんよぉ。森の出口まであと少しだったってのに、残念だな」

「くっ……」


 キングオークは喋るときに大量の唾を飛ばして、ぶひぶひと鼻を鳴らした。

 興奮すると鼻の穴が開くらしい。

 鎧はおそらく盗品なのだろう。

 サイズがまったく合っておらず、でっぷりとした腹の肉がはみ出している。


 それにしても――。

 身にまとった鎧やドレスの感じからして、高貴な身分だと一目でわかったが、まさか姫とは……。


 なんでそんな一団が、この森に入り込んだんだ?


 姫自身が武装をしているから、旅の途中でただ迷い込んだというわけでもなさそうだ。


「ここで自分から脱いだら、可愛がってやってもいいんだぜえ? なぶり殺されたくなきゃ、跪いて許しを乞いな!」

「誰がおまえなどに屈するものですか……!」

「ふん、交渉決裂のようだな。おい、剥いちまえ!」


 オークたちが舌なめずりをしながら、姫騎士ににじりよる。

 圧倒的有利な状況にオークたちは、完全に油断しきっていた。


 さて、どうする?


 僕は頭の中で、瞬時に計画を練った。


 先ほど見た異常なステータスは気になるものの、火魔法が使えるという点は信じてもいいだろう。

 火魔法だったら、レベル1の僕でもオークの目くらいは焼けるはずだ。


 どれほど小さな火であれ、眼球を焼かれれば致命的な傷を負う。

 それでキングオークの視界を奪えば、必ずオークたちの統率は乱れる。

 その隙をついて、あの姫騎士の手を取り、森の出口まで走ればいい。

 結界の外に出れさえすれば、あいつらは追ってこられないのだから。


 よし、予定通りこの作戦でいこう。


 僕はオークキングに向かって右手を突き出した。

 奴は腕を組んで、高みの見物を決め込んでいるから、照準を合わせるのは容易い。


 手のひらに魔力を込め、意識を集中して、魔法を放つ。


 その瞬間――。


「うっ!? ぎやああアアアッッ……!!」


 ――猛烈な熱波と共に放たれた業火が、オークキングを焼き尽くした。


「……は?」


 魔法による反動を予測できていなかった僕は、突き飛ばされるように後ろに数歩よろめいたあと、ぺたりと尻餅をついた。

 だってこんな強力な魔法を放てるなんて、まったく想像していなかったのだ。

 信じられない光景を目の前にして、ぽかんと口を開ける。


「何、この威力……」


 こんなものレベル1の6歳児が放った最弱の火魔法ではない。

 これじゃあ、レベル99だった前世の僕が放った火魔法と、そう変わらない威力だ。


 ステータスに表示されていた、あの数字。

 異常でもなんでもなく、事実だったのだろうか。


「それじゃあ、いまの僕は前世よりも更に……?」


 思わず自分の手のひらを見下ろす。

 僕だけじゃなく、ボスを失ったオークたちや、姫騎士もたった今起きたことを信じられない様子で、呆然としている。


「ぼ……ボス……? どこに消えちまった……?」

「なんだいまのは……? 何が起きたんだ……?」

「ま、まさか……ボス、死んだのか……?」


 まずい。

 ぼんやりしている場合ではない。


 この機に姫騎士を連れて逃げなければ。

 そう思って顔を上げたときーー。


「うわっ!?」


 突然、体が宙に浮いた。

 おなかの辺りに当たる柔らかい感触。

 自分が姫騎士に抱き上げられたと気づいた僕は、さらに混乱した。


「は、え!? なんで!?」

「ここは危険です。何が起きたか分からないけれど、いまのうちに逃げましょう……!!」

「ま、待って。僕はーー」

「大丈夫、君のことは命に代えても守りますから……!」


 姫騎士は細い腕で僕を抱きかかえたまま走り出した。

 ボスを失い動揺していたオークたちは、状況を理解するのがやや遅れたようだ。


「お、おい!! 女が逃げたぞ!! どうする!?」

「どうするって……と、とりあえず追え!」

「ボスを殺したのも、あの女の魔法か何かだろう! 絶対に逃がすな!!」


 本当は姫騎士の腕を引いて逃げる予定だったのに。

 抱っこされてしまうなんて不覚だ……。


 こんなはなずじゃなかったんだけどな。


 僕は姫騎士の肩にしがみつき、オークとの距離を測る。

 強力な魔法が使えるというのなら話は早い。


「おいガキィ!! なんだてめえ、何見てやがる!?」

「女諸共ぶっ殺してやるぞ!! ははっ、こいつの騎士たちみてェになあ!!」


 気丈に走り続けていた姫騎士が、ぐすっと泣きながら歯を食いしばるのが分かった。

 僕は手のひらをかざし、魔力を調整する。


 さっきのステータスが事実として、僕自身のレベルは1だ。

 魔法攻撃力はレベル補正もかかるから……。


「追いつくぞ女ァ!! 待てぇ!!」

「大丈夫……大丈夫ですからね。君のことは、必ず外まで……!!」


 ――このくらいで、十分か。


「ほら待てよ!! 逃げても無、駄――――」


 僕は再び、火魔法をぶっ放した。

 今度は魔力値にあわせて、かなりの手加減をしたーーつもりだった。


「ひっ……ギヤアアアッッッ!!」


 ところが制御したにも関わらず、ものすごい威力の魔法が手のひらから放たれた。

 噴出した炎がオークたちを焼き払っていく。

 結局、オークキング同様、オークたちも一瞬で消滅した。


 そのうえ、放たれた魔法の反動で、僕を抱いている姫騎士もバランスを崩してしまった。


「あっ……!」

「わぷっ」


 姫騎士と一緒に転倒した僕は、彼女の両胸にむにっと押しつぶされたのだった。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
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