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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
3章 王立学園に入学する
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27話 エディ、王立学院に入学する

 魔族領からの帰還。

 国王様への報告。

 入学式に向けての準備など、日々は目まぐるしく過ぎていき――。


 あっという間に、王立学園入学式の当日がやってきた。

 今日から一年間、僕は最下位ランクのFクラスで授業を受ける。

 一番下のクラスっていうのも、別の意味で悪目立ちするから、本当は真ん中のCクラスあたりが理想だったのだけれど……。

 兄の成績表を代わりに提出して、クラス分けを乗り切ったのだから、わがままは言っていられない。


 体育館での入学式が終わったあと、僕ら新入生はそれぞれの教室へ向かわされる。

 保護者席で見守っていた両親とはここでお別れだ。


「エディ、頑張るのよ!」

「何かあったらすぐに言うんだぞ!」


 心配性な両親に見送られつつ、僕も教室へ移動した。

 新一年生の教室は、新校舎の一階にある。


 後ろの扉から教室内に入った瞬間、僕は感動してしまった。

 小さな机と小さな椅子が並ぶ室内に、大きな窓から優しい光が降りそそいでいる。

 僕と同世代の子供たちは、緊張したりはしゃいだりしながら席についていた。

 これが普通の平穏な生活ってやつか。

 前世では無縁だった憧れの景色が、今、目の前に広がっている。


 物心つかぬうちから師匠に弟子入りさせられ、命がけの訓練を強いられたり、子供同士で戦わされたりすることもない。

 この教室にいる少年少女たちの目は、まったく擦れていなかった。


 僕は教室をじっくりと見回した後、自分の席を探した。

 黒板に記された座席表、窓際の最後尾が僕の席だ。


 隣の席にはすでに、小柄な女の子が座っていた。

 大きなリボンのついたカチューシャで、ふわふわの髪をおさえてる。

 僕を見てにこっと笑いかけてきたので、ぺこっと頭を下げておいた。

 うさぎみたいな顔をしたかわいい子だ。


 そうこうしているうちに、担任の先生が教室に入ってきた。


 Fクラスの担任は、エレナ・ボネットという名の若い女の先生だった。

 背が低くて小柄なこともあり、少し幼い印象を受ける。

 もしかしたら新米の先生なのかもしれない。

 ちょっと野暮ったいロングスカートに、癖のついた長い髪。

 小さな顔のわりにやたら大きな眼鏡をかけていて、サイズがあっていないのか喋るたびにそれがずれる。

 この先生、大丈夫かな……。

 おっとりしていて優しそうな印象なので、周りの生徒たちはうれしそうだ。


「はぁい、みなさーん。注目してくださぁい」


 教室内が静まるのに、五分はかかった。

 やれやれ、先が思いやられるな。

 でもとにかく、なんとか先生は初めての授業をはじめられた。


 生活習慣をこうしましょうとか、挨拶は元気にしましょうとか、そういう話が柔らかな口調で語られていく。


「というわけでこれから一年間、クラスメイトのお友だちと一緒に、がんばって魔法を学んでいきましょう。みなさん、入学おめでとう!」


 エレナ先生はにっこり笑うと、右手に持っていたステッキを振った。

 先生のかけた魔法によって、教室内に色とりどりの花びらが舞う。


「わあ……!」

「魔法のお花!? すごーい!」


 クラスメイトたちは歓声をあげながら、大喜びで席を立った。

 みんな飛び跳ねたり、はしゃいだりして、舞い落ちてくる花びらに手を伸ばしている。

 自分だけ浮いてしまわないように、僕も一応席を立つ。


「あれー!? このお花つかめないよ!?」

「ふふ。これは魔法のお花ですからね」


 エレナ先生はおっとりとした口調で返しているけれど、これは結構とんでもない魔法だ。

 詠唱していたのは光に属する魔法。

 花びらに実体がないのであれば、光を集合させた幻を作り出しているのだろうけれど、そうとはわからないほどに精巧だ。

 ふうん。

 人は見かけによらないってわけか。

 王立学園の教師として採用されるだけのことはある。

 そう見直した直後――。


「さあ、みなさん。そろそろ席について……きゃあ!?」


 生徒たちに気を取られていたのだろう。

 教壇の段差を踏み外してしまったエレナ先生が、短い悲鳴をあげる。

 危ない!

 僕はとっさに風魔法を起こして、倒れ込んだ先生の身体を受け止めた。


「あ、あら……?」


 顔面から激突する寸前に、風のクッションに受け止められた先生は目をぱちくりさせながら起き上った。


「先生! 大丈夫!?」

「ええ、みなさんびっくりさせてごめんなさいね。でも、いまのは一体……」


 先生は驚いた顔をして教室内をきょろきょろしている。


「誰かが魔法を使って助けてくれたの……? ……いいえ、そんなことありえないわ……」


 先生は独り言をつぶやいたあと、戸惑いながら首を横に振った。

 一年生が風魔法をあんなふうに操れるなんてありえないことだし、咄嗟に魔法を発動させるのは大人でも難しい。

 普通に考えれば、そんなことができるならFクラスにいるわけがないと思ったのだろう。


 それにしても急につまづくなんて。

 そういうところはわりと見た目どおりかも。

 とはいえ油断しないようにしないとね。

 いくらおっちょこちょいとはいえ、先生は難易度の高い魔法を使いこなせるほどの実力者なのだから。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

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