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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
2章 闇の支配者、誕生
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21話 犯人探し前編

 族長は大の字になって倒れたまま、荒々しく息をついている。


『ぐぅ……っ……。はぁ……はぁ……』

『族長さん、大丈夫? 起きられる?』


 手を差し伸べて問いかける。

 そんな僕に向かい、族長が自嘲するように笑う。


『ふん、体中が痺れてやがる』

『ごめんね。族長さん、結構強いから。今の僕じゃ加減して勝つっていうのは難しかったんだ。本当は立っていられる程度に傷つけたかったんだけどね』


 目だけがギロリと動いて、僕のことを見てきた。

 腹の内を探るような、そんな視線を一身に浴びる。


『おまえ、いったい何者なんだ。くそっ。ただのガキじゃねえだろ……』


 ちょっと悔しそうな言い方だ。

 感情を隠しもしない素直な族長にたいして、なんとなく親近感がわいてきた。


『ただの子供に負けたって事実は、受け入れられない?』


 族長の鋭かった眼差しが、まん丸になる。

 そんな切り返しを受けるとは思っていなかったのだろう。

 直後、彼は『ぶはははははっ!』と声を上げて笑いはじめた。


『っと痛ぅ……大笑いすると体に響きやがる……』

『そりゃあそうだよ。全身打ち身なんだし、そのままだと十日はまともに戦えないと思う』

『おいおい、十日も寝込んでたら人狼に攻め込まれちまうぜ……』

『治してあげてもいいよ』


 僕が不敵に笑ってみせると、竜人は驚いたような顔をした。


『なに?』

『回復してあげてもいい。ただし、条件次第だけど。場合によっては回復しないどころか、あなたをこのまま拘束することも考えてる』

『……ふ』


 脅迫されているというのに、竜人は面白そうに口元を歪めた。


『……ったく、恐ろしいガキだぜ。この結末もどうせおまえの考えどおりなんだろうよ。力加減が難しかったって話も疑わしいぜ』

『えー? そんなことないよお?』


 僕はやる気のない演技で聞き流した。

 本気でごまかす気はなかった。

 どうせ族長は、もう僕のことを無邪気な子供とは思っていないみたいだし。


『勘違いすんじゃねえぞ。ただのガキに負けるなんてありえねえだとか、余計なことをぐだぐだ言うつもりは端からねえんだ。圧倒的な力の差だった。ひっくり返ってぶっ倒れてる時点で、俺の完敗だ……』


 なかなか気持ちのいい男だな。

 格下の相手の、それも子供に対して負けを認められるなんて。


『それに俺は何者かの手で暗示魔法をかけられてたんだろ……? 情けねえ……。族長失格だ……』


 青空を見つめたまま、族長が呆然とした口調で呟く。


 暗示魔法をかけられたうえ、僕に負けたせいで自信を喪失してしまったのかもしれない。

 やむをえなかったとはいえ、ちょっと罪悪感を抱く。


 でも僕は彼がリーダーに相応しくないとは思っていない。

 暗示魔法には、素直で単純な人間ほどかかりやすい。

 僕なんか、前世で何度も実験してみたけれど、一度も暗示にかかれなかった。


 そういうタイプは、本当の意味で人から信頼されることがない。

 逆にこの族長のように真っ直ぐな気質は、一族を引っ張っていく立場に適している。


『まあ、元気出してよ。犯人を見つけて挽回すればいいんだし。というわけで暗示魔法をかけた犯人、疑わしいって思う人はいる?』

『いや……。正直まったく思い当たらん……。いったい、いつかけられたのかさえ見当がつかねえな……』


 暗示魔法は不意打ちでかけられるものだしね。


 族長のように強い者でも、四六時中周囲を警戒をしているわけではない。

 戦闘中ならともかく、日常生活の中では気を許す場面もあるだろう。

 そのタイミングで暗示魔法をかけることは、わりと容易い。

 もっとも暗示魔法はかなり高等な技術を要するから、使える人間は限られている。

 だから、そんなに頻繁に危険にさらされるものでもないんだけど。


『そもそも暗示魔法をかけた動機だって、想像がつかねえぜ』


 動機は予想がついている。

 ただ族長は嘘がつけるタイプとは思えないし、いまはまだ伏せておくつもりだ。


『族長さん。僕に協力してくれる気ある?』

『協力? は。そうすれば回復してくれるってのか?』

『それだけじゃない。この一件を解決してあげるよ』

『な、なんだって……!?』


 だってこのゴタゴタを解決しないと、色々と面倒そうだからね。

 人狼族と竜人族の争いは、人間界、ひいては僕の平穏な暮らしにまで影響する。

 煩わしさの萌芽を感じてしまった以上、見過ごすことはできない。


『ど……どういうことだ? 解決できるって……本当に?』

『うん』

『くそっ。何でもないことのように言いやがって……。ただのガキではないと思っていたが、本当にどうなってやがる』

『ただの子供だよ。でも解決方法を閃いちゃったんだ。僕はそれを族長さんに教える。族長さんはその代わりに――』

『代わりに?』

『この一件、僕じゃなくて族長さんが解決したことにして欲しいんだ』

『なんだって!?』


 族長は訳が分からないと言う顔をしている。


『一体なんのためにそんなことを望む?』

『単純な理由だよ。僕は人からただの子供だって思われていたいんだ。族長さんの前では戦っちゃったけど、そういうのも基本的にはやりたくない。だって――』


 その理由はいたってシンプルだ。

 僕は族長の目を見上げてにこっと笑った。


『厄介ごとに煩わされたくないからね!』


 族長は唖然として口を開けたまま、しぱしぱと瞬きを繰り返した。


『ぶっ……はははは!! 力があることを誇らないどころか、隠したいとはな!』

『笑いごとじゃないよ。本当は族長さんとも戦いたくなかったんだからね』


 理性を失った族長が相手だと、クラリス姫では勝てないから、仕方なく力を晒すことになった。

 僕からしたら、結構な迷惑を被ったといえる。


『巻き込まれた僕、かわいそうでしょ』

『むう。それは謝るぜ』


 族長が体を庇いつつ、ゆっくりと起き上がる。


『もうひとつ尋ねたい。なぜ俺に協力する気になった?』

『それは犯人の動機が理由だよ。でもその点に関しては確信があるわけじゃないから、犯人の口から聞いて欲しい』

『ふん……』

『もし犯人の動機が僕の予想した通りのものだったら、その場合、人間である僕たちにも被害が及ぶんだ』


 そんなことになったら最悪だ。

 僕の望む人生を得られなくなってしまう。


『面倒ごとの種は、早いうちに潰しておかなきゃ。ね?』

『……っ』


 おっと、いけない。

 つい殺気が漏れちゃったかな。

 僕の言葉に、族長はごくりと喉を鳴らした。


『それでどう? 族長としての責務、果たしてくれる?』

『ああ。当然だ』


 族長は緊張を誤魔化すように大きく息をついたあと、ひらひらと手を振ってこたえた。


『俺はおまえに負けた。おまえが協力を願うなら、どんなことにでも手を貸す。命じられたのなら、どんなことにでも従う。覇者にはその権利がある』

『その考え方はどうかな。だけど今は都合良く利用させてもらうよ』


 僕は族長の隣に座り込むと、ひそひそと囁いた。

 近くに誰もいないのはわかっている。

 でも念のため。

 これからとても重要な種を仕込むんだから、気を抜いてはいられない。


『犯人の目星はついているけれど、まだ断定はできない。だから一芝居うってもらえる?』

『芝居を打つ? どういうことだ』

『決定的な発言を引き出したいんだ。族長さんには犯人を追いつめる役を任せたい。どう? 楽しそうじゃない?』

『楽しそうって、おまえ……。とにかく詳しく聞かせてくれ』

『うん。もちろん』

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
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