20話 エディVS竜人の族長
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名前:エディ
レベル:10<制限中>
職業:賢者
体力:100
魔力量:150
魔法:火魔法(弱)、風魔法(弱)、闇魔法(超)、眠り魔法、探知魔法、調査魔法、転移魔法(自)、転移魔法(他)
魔法能力値:204531<転生ボーナス>
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攻撃魔法を撃てる回数は、あと五回。
十分だ。
『ちょっと痛いけど、我慢してね。大人なんだから』
『ふざけるな! 目障りな餓鬼めッ!』
族長はそう吠えると、握り拳を地面に叩き込んだ。
「うわっ……!」
衝撃によって抉れた地面が、土砂を噴き上げながら割れてゆく。
僕は慌てて後ろに飛躍したが、子供の足ではそう上手く回避できない。
「ととと……」
すごいな。
まさか、パンチで地面を割るとはね。
とてつもない一撃を見せつけられ、さすがの僕も驚いた。
しかも今のって警告だろ?
手加減してあれって……。
はは。いいな。面白い。
『さっさと引け、小僧ッ!』
『手加減してくれたのに、ごめんね。それはできないよ』
『まだ俺に立ちはだかるというのか!』
『うん。あれを族長の手に渡すわけにはいかないからね』
僕は敢えて族長を挑発した。
このまま戦闘に持っていきたい。
ただ対峙しているだけで、彼の隙を突くのは不可能だからね。
族長の表情がどんどん歪み、目がつり上がっていく。
いいぞ。もっと来い。
『くそがああッ! あれを取り上げるつもりなら容赦しないぞ……! あれをッ! あれは、俺のものだああああッッ!』
全身の鱗を震わせて咆哮した族長が、僕に向かって突進してくる。
巨大な大剣を難なく振り回している。
重い鎧までつけているのに、動きにまったく鈍さがない。
さすがだね。
戦闘種族竜人族の長だけある。
僕には到底真似できない戦闘方法だ。
族長が迫りくる。
森の木々がざわめくほどの地鳴りがする。
無敵な状態じゃなく、能力を制限された子供っていう縛りの中で戦うのも、案外面白いかもしれないな。
僕は少し楽しくなってきた。
さあ、どうする?
力の差は歴然としている。
真っ向から受け止めるのは不可能だ。
これが前世なら、防御魔法で対処していたところだけど。
いまの僕に、防御魔法は使えない。
何か別の手段を――。
『死ねえええええええええッ……!!』
振りかぶられた大剣。
叩きつけるようにそれが下ろされる。
その一瞬先に、僕は風魔法を族長に向かって放った。
『ぐ、ぐううううううう……ッ!?』
風圧をもろに喰らって、族長の動きが止まる。
このまま完全に吹っ飛ばされるかな?
『ぐ……おおおおおおおおおお! おおおっ、おおおおおおおおお!』
おっとー。はは。持ちこたえるんだ?
族長は僕の魔法を耐えきって、更なる一歩を踏み出した。
僕の間合いに彼が踏み込んでくる。
『大したものだね、竜人の族長。でも……』
残念。
僕の魔法はあくまで加減したものでしかない。
少しだけ魔力を増幅させると、族長はとうとうバランスを崩し、後ろに吹っ飛んだ。
悪いけど、受け身を取らせはしないよ。
だらだらと遊んでいられるほど魔力量に余裕はないし。
吹き飛ばされた族長の身体を、今度は上空から風魔法で追い込む。
唐突に増した落下スピード。
いくら戦闘慣れしている竜人族でも、とっさには対処できなかった。
『ぐあッッ……!!』
顔面から地面に倒れ込んだ族長が痛々しい呻き声をあげる。
巨大な体からは完全に力が抜けてしまった。
ひどい痛みに襲われているのだろう。族長は起き上がることすらできずにいる。
さて、この隙に――。
僕は続いて、眠り魔法を発動させた。
ただし今回は族長を眠らせるのが目的ではない。
というか、眠り魔法ぐらいじゃ魔族は眠ってくれないしね。
『おおお、おおおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!』
案の定、族長は眠るどころか、地面を転がりながら咆哮をあげはじめた。
まるで何かに抗うみたいに、必死な形相で顔を掻きむしる。
族長の顔や頭には、浮き出た血管がミミズのように動き回っている。
眠り魔法は状態異常耐性を持つ魔族には効きにくい。
だけど『この用途』としてなら、しっかり効果を得られる。
この用途とはつまり、暗示魔法の解除のことだ。
呪いを解除する方法は二通り。
解除魔法をかけるか。
別の状態異常魔法をかけるか。
後者の場合、状態異常が上書きされて、先にかけられたものを打ち消してくれる。
状態異常魔法をぶつけるだけで魔法が上書きされるのは、前世で実証済みだ。
『ぐっあああああああああっああああああああああああああ……あ……』
暴れ回る皮膚の中の隆起が、だんだん鎮まっていく。
僕が黙って見守っていると、族長はゆっくりと地面に倒れ込んだ。
近くにしゃがみ込んでその目を覗くと、ちゃんと視線がぶつかった。
赤茶色の瞳にしっかりと彼の意思を感じる。
これでもう大丈夫だ。
暗示魔法は完全に解除できた。
『……俺は……一体、何を……』
仰向けになった族長が、空を見上げたままぼう然と呟く。
憑き物が落ちたような表情を見て、こっちも少しホッとした。
『すっきりしたみたいでよかったよ。族長さん』
『竜人族の長を倒すとは……。おまえのような魔法の使い手に会ったのは初めてだ……』
族長が地面に倒れたまま僕を見上げてくる。
彼の眼差しの中には、戦う前まで虫けらを見下すような感情が蠢いていた。
それが今は消えている。
ただただ圧倒されたというような顔のまま、族長が僕に問いかける。
『……小僧。貴様、何者だ?』
僕は肩を竦めて軽く笑ってみせた。
『僕はただの子供だよ。もうすぐ魔法学院の一年生になるんだ』