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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
2章 闇の支配者、誕生
20/32

20話 エディVS竜人の族長

 ********************

 名前:エディ

 レベル:10<制限中>

 職業:賢者

 体力:100

 魔力量:150

 魔法:火魔法(弱)、風魔法(弱)、闇魔法(超)、眠り魔法、探知魔法、調査魔法、転移魔法(自)、転移魔法(他)

 魔法能力値:204531<転生ボーナス>

 *********************


 攻撃魔法を撃てる回数は、あと五回。

 十分だ。


『ちょっと痛いけど、我慢してね。大人なんだから』

『ふざけるな! 目障りな餓鬼めッ!』


 族長はそう吠えると、握り拳を地面に叩き込んだ。


「うわっ……!」


 衝撃によって抉れた地面が、土砂を噴き上げながら割れてゆく。

 僕は慌てて後ろに飛躍したが、子供の足ではそう上手く回避できない。


「ととと……」


 すごいな。

 まさか、パンチで地面を割るとはね。


 とてつもない一撃を見せつけられ、さすがの僕も驚いた。

 しかも今のって警告だろ?

 手加減してあれって……。

 はは。いいな。面白い。


『さっさと引け、小僧ッ!』

『手加減してくれたのに、ごめんね。それはできないよ』

『まだ俺に立ちはだかるというのか!』

『うん。あれを族長の手に渡すわけにはいかないからね』


 僕は敢えて族長を挑発した。

 このまま戦闘に持っていきたい。

 ただ対峙しているだけで、彼の隙を突くのは不可能だからね。


 族長の表情がどんどん歪み、目がつり上がっていく。

 いいぞ。もっと来い。


『くそがああッ! あれを取り上げるつもりなら容赦しないぞ……! あれをッ! あれは、俺のものだああああッッ!』


 全身の鱗を震わせて咆哮した族長が、僕に向かって突進してくる。

 巨大な大剣を難なく振り回している。

 重い鎧までつけているのに、動きにまったく鈍さがない。


 さすがだね。

 戦闘種族竜人族の長だけある。

 僕には到底真似できない戦闘方法だ。


 族長が迫りくる。

 森の木々がざわめくほどの地鳴りがする。


 無敵な状態じゃなく、能力を制限された子供っていう縛りの中で戦うのも、案外面白いかもしれないな。

 僕は少し楽しくなってきた。


 さあ、どうする?

 力の差は歴然としている。

 真っ向から受け止めるのは不可能だ。

 これが前世なら、防御魔法で対処していたところだけど。


 いまの僕に、防御魔法は使えない。

 何か別の手段を――。


『死ねえええええええええッ……!!』


 振りかぶられた大剣。

 叩きつけるようにそれが下ろされる。

 その一瞬先に、僕は風魔法を族長に向かって放った。


『ぐ、ぐううううううう……ッ!?』


 風圧をもろに喰らって、族長の動きが止まる。

 このまま完全に吹っ飛ばされるかな?


『ぐ……おおおおおおおおおお! おおおっ、おおおおおおおおお!』


 おっとー。はは。持ちこたえるんだ?

 族長は僕の魔法を耐えきって、更なる一歩を踏み出した。

 僕の間合いに彼が踏み込んでくる。


『大したものだね、竜人の族長。でも……』


 残念。

 僕の魔法はあくまで加減したものでしかない。

 少しだけ魔力を増幅させると、族長はとうとうバランスを崩し、後ろに吹っ飛んだ。

 悪いけど、受け身を取らせはしないよ。

 だらだらと遊んでいられるほど魔力量に余裕はないし。


 吹き飛ばされた族長の身体を、今度は上空から風魔法で追い込む。

 唐突に増した落下スピード。

 いくら戦闘慣れしている竜人族でも、とっさには対処できなかった。


『ぐあッッ……!!』


 顔面から地面に倒れ込んだ族長が痛々しい呻き声をあげる。

 巨大な体からは完全に力が抜けてしまった。

 ひどい痛みに襲われているのだろう。族長は起き上がることすらできずにいる。


 さて、この隙に――。


 僕は続いて、眠り魔法を発動させた。

 ただし今回は族長を眠らせるのが目的ではない。

 というか、眠り魔法ぐらいじゃ魔族は眠ってくれないしね。


『おおお、おおおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!』


 案の定、族長は眠るどころか、地面を転がりながら咆哮をあげはじめた。

 まるで何かに抗うみたいに、必死な形相で顔を掻きむしる。

 族長の顔や頭には、浮き出た血管がミミズのように動き回っている。


 眠り魔法は状態異常耐性を持つ魔族には効きにくい。

 だけど『この用途』としてなら、しっかり効果を得られる。

 この用途とはつまり、暗示魔法の解除のことだ。


 呪いを解除する方法は二通り。

 解除魔法をかけるか。

 別の状態異常魔法をかけるか。

 後者の場合、状態異常が上書きされて、先にかけられたものを打ち消してくれる。

 状態異常魔法をぶつけるだけで魔法が上書きされるのは、前世で実証済みだ。


『ぐっあああああああああっああああああああああああああ……あ……』


 暴れ回る皮膚の中の隆起が、だんだん鎮まっていく。

 僕が黙って見守っていると、族長はゆっくりと地面に倒れ込んだ。


 近くにしゃがみ込んでその目を覗くと、ちゃんと視線がぶつかった。

 赤茶色の瞳にしっかりと彼の意思を感じる。

 これでもう大丈夫だ。

 暗示魔法は完全に解除できた。


『……俺は……一体、何を……』


 仰向けになった族長が、空を見上げたままぼう然と呟く。

 憑き物が落ちたような表情を見て、こっちも少しホッとした。


『すっきりしたみたいでよかったよ。族長さん』

『竜人族の長を倒すとは……。おまえのような魔法の使い手に会ったのは初めてだ……』


 族長が地面に倒れたまま僕を見上げてくる。

 彼の眼差しの中には、戦う前まで虫けらを見下すような感情が蠢いていた。

 それが今は消えている。

 ただただ圧倒されたというような顔のまま、族長が僕に問いかける。


『……小僧。貴様、何者だ?』


 僕は肩を竦めて軽く笑ってみせた。


『僕はただの子供だよ。もうすぐ魔法学院の一年生になるんだ』

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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