表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
2章 闇の支配者、誕生
19/32

19話 執着の正体を見破る

『ねえねえ、竜人さん』


 クラリス姫と族長が話している隙に、こっそり竜人族たちの間に紛れ込む。

 族長をここに連れてきた竜人は、僕を見て、ぎょっとしたように体を揺らした。


『なんで人間のガキが俺たちの間にいんだよ!』

『まあまあ、落ち着いて。それより族長さんって、いつもあんな感じなの?』

『あ!? あんなってなんだよ!』


 竜人が怒鳴るたび、耳の奥がキーンとなる。

 ガラが悪いうえ、怒りっぽいというのが竜人族の性質なのだ。

 しかし族長はただ短気なだけじゃない。

 僕が気になっているのは、別の点。

 時折、目の焦点が合わなくなったり、その際にやたらと興奮する態度のほうだ。


『族長さんさっき、「あれを手に入れる」って言ってたよね。そのときの態度、変だったよ。なんだか周りが見えてない感じでさ』


 族長は、違和感を覚えるほどの執念深さを見せていた。

 それがどうにも引っかかる。


 だから敢えて話題に出して、竜人たちの反応を見てみようと思ったんだけど……。


 直前まで威勢のよかった竜人たちは、言葉に詰まってお互いの顔を見合わせた。

 その反応だけでも十分答えになっている。


 なるほど。

 あの族長の態度は、彼らにとっても異様なものだったわけだ。


『偉い人って、あんなに簡単に取り乱さないよね?』

『まあなー……。確かに最近の族長は妙なところがあるな……』


 僕の振りに、竜人のひとりが乗ってきた。

 やりとりを聞いていた他の竜人たちはぎょっとして、慌ててその男の肩を掴んだ。


『お、おい……。なにガキの口車に乗せられてんだよ』

『だって気にならなかったか? 族長、「あれ」の話題が出ると、ちょっと様子がおかしくなるよな?』

『そ、それは……。魔王が死んで、俺たちを護るのに必死なんだろうよ……』


 やっぱりキーとなるのは、『あれ』と呼ばれるものの存在か。


『竜人さんたちは『あれ』が何か知ってるの?』

『それは……ん? おい、坊主。おまえ人間のくせに、なんでそんなに流暢に竜人語を喋れるんだ』

『え!? あ、そっそれは、本で読んだんだ!』

『そのぐらいで人間に俺たちの言語が習得できるわけねえだろ!』

『ははは。何回も繰り返し読んだからかなー』


 疑わしいものを見る目で睨まれている。

 危ない危ない。

 好奇心を感じると、つい子供らしく振る舞うことを忘れてしまいがちだ。


『で、でも女騎士さんも、竜人語がぺらぺらだよ?』

『あの女は語尾がおかしいだろ! それに比べて、おまえの発音はネイティブを疑うぐらいいい。はっ、もしやおまえ……!』

『な、なに?』

『竜人族に育てられた人間のガキなのか!?』

『あははーどうかなー。って、ああっ! そんなことより、族長さんとお姫さまが大事なお話してるよ! ちゃんと聞かなくちゃ!』


 これ以上突っ込まれても厄介だ。

 僕は強引に竜人たちの関心を逸らした。


『そもそもなぜこのタイミングで、人狼族と戦争を始めようなどと思ったのデスカー? これまではお互いに干渉し合わぬよう協定を結んでいたのデスネ?』

『人狼どものことは、もともと気に入らなかったんだ。ただわざわざ潰し合うのも馬鹿らしかっただけでな。しかし状況が変わった。魔王のやつが突然、『あれ』を残して死んじまったからな!』

『『あれ』とは一体なんなのデース?』

『武器だ。――爆薬だよ』


 ああ。

 そういうことか。


 人狼と竜人は、どちらも火に弱い種族だ。


 だからこそ僕は、先ほどの戦いで火魔法を選んだ。

 恐らく魔王も、力の強い二種族への牽制材料として、爆薬という武力を保持していたのだろう。

 あの魔王には大した部下もついていなかったみたいだし。

 足りない兵力を爆薬で補っていたというところかな。


 二種族がお互いに干渉してこなかったのは、勢力が対等だったから。

 だけど、どちらかが爆薬を手に入れてしまえば、その均衡なんてあっさり崩れる。


 戦争をするまでもない。

 爆薬を手に入れた方が、事実上の勝者だ。


 となると『あれ』と呼んだ爆薬の存在に対し、族長が異様な執着を見せるのも納得できる。


『あれを手に入れるんだ! 俺たちが! 俺たちがーッ!! あの爆薬を手に入れるうッ!! 何が何でもなああああッ!!』


 唾をまき散らして絶叫する。

 族長の額には青筋が浮かび、見開かれた目は血走っていた。

 突然、喚きはじめた族長を前に、姫も竜人たちも息を呑んで固まってしまった。


 やれやれ。

 執着してるからって、この豹変っぷりの理由にはならないよね。

 まるで禁断症状に見舞われた者のような興奮の仕方だし。


 やっぱり、これは――。


 疑惑が確信に変わる。

 顎を引いた僕は、誰にも気づかれないように口元だけに笑みを浮かべた。

 ちょっと面白い展開になってきたかも。

 なんて考えていることが姫にバレたら、大目玉だ。


 なんとか状況を楽しんでいる気持ちを引っ込める。

 さてと――。

 姫は気づいているようには思えないし、僕だけで対処しようか。

 となると、まずは族長とふたりきりにならないとね。


 僕は口内でサッと詠唱すると、森の中に風魔法を巻き起こした。

 ガサガサと不自然に揺れ動く木々。

 それを指さして、怯えた声を上げる。


『わあ! な、なに!?』

「エディ様!?」


 自作自演だとも気づかず、クラリス姫がサッと僕を背に庇う。

 ごめんね、お姫さま。

 心の中で密かに謝罪して、さらに演技を続ける。


『ねえ、あっちの方に何かいたよ! 人狼さんかな……』


 僕はその言葉に合わせて、さきほど発生させた風魔法の位置を動かした。

 これで生物が移動しているように見えるだろう。


『ほら! 逃げていく!』

『くそ、本当だ! ――族長、追わせてください!』

『ああ、人狼だったら生け捕りにして連れてこい』

『はっ!』


 竜人たちは嬉々として手綱を引くと、森の中へ向かっていった。

 姫は単純な竜人たちと違い、対処に悩んでいる。

 ここに留まるべきか、様子を見に行くべきか。

 もし本当に敵が辺りをうろついているのであれば、護衛たちが眠っているこの場所には近づけるわけにはいかない。

 でも姫が様子を見に行けば、僕がここで敵とふたりきりになってしまうもんね。


「見てきていいよ。僕はここで族長さんと待ってるから」


 姫の近くに寄り添った僕は、声を落とした人間語でヒソヒソと囁きかけた。


「そんな……。エディ様一人を置いていくなど……」

「その方が助かるんだ」

「え……?」

「僕、族長とふたりで話したいことがあるから」

「……! まさか……今の気配も、エディ様が……?」


 僕が無言で笑みを作り、姫が察することができるよう視線で訴えかけた。

 想いが届き、姫がごくりと喉を鳴らす。


「分かりました……少しお傍を離れます」

「うん。いってらっしゃい」


 ひらひらと手を振って彼女を見送る。

 森に分け入る直前、姫が心配そうにこちらを振り返ったので、口の動きだけで「大丈夫。負けないよ」と伝える。

 姫はしっかり頷いて、前に向き直った。

 そして彼女の姿も森の中に消えた。


 これで予定どおり、族長とふたりっきりになれた。

 弱い風魔法だって、使い方によっては役に立つものだ。


『ねえ族長さん。僕、少し考えてることがあるんだ』

『ああ?』

『族長さんは一族の皆を護るために、人狼さんと戦いたいんだよね。それで、人狼さんを倒すには、爆薬が必要なんでしょ?』

『そうだって言ってんだろうが! 俺は、爆薬を手に入れるんだ!!』

『だったら僕、いいこと思いついたんだ。一族のみんなを護るのが目的なら、人狼さんが爆薬を手に入れなければそれで済むんだよね』


 族長がぴくりと頬を動かす。


『なに……?』

『爆薬が全部なくなっちゃえば、戦う理由もなくなるはずでしょ。だったらあの爆薬、火をつけて消し飛ばしちゃおうよ』

『ああ……!?』

『爆薬がなくなれば一件落着だよ』

『なくなる、だと……? 許さん……許さん!! 許さんぞ!! あの爆薬は俺が手に入れる!! 俺のものにするんだ!!』

『ふうん。種族の安全よりも、爆薬を手に入れる方が族長さんには大事なんだね』

『手に入れる……何が何でも……俺は、俺は』

『犠牲を出して争うより、お互いに放棄するよう話し合うべきなのに。それなら双方に被害が出ないし、族長としては戦うよりもよっぽど重要な手段だと思うけど』

『俺はあれを手に入れるんだああッッ……!』


 族長の額にびきびきと浮き上がりはじめた血管に似たもの。

 細かい紋様のようなそれは、族長の体に直接刻まれた魔法陣だ。

 その魔法陣の隆起が、竜人の脳の辺りまで伸びているのをしっかり確認する。

 僕はぺろりと唇を舐めた。

 証拠を手に入れたぞ。


『族長さん。やっぱり爆薬を欲するよう、暗示をかけられてるんだね』

『ぐ、がああああああ! あれをぉおお! あれをぉおおお!!』


 頭を両手で押さえて、雄叫びをあげる族長には、僕の声が届いていない。

 爆薬と聞くと、理性を失う暗示魔法のせいだ。


 だとすると、問題は誰がそんな暗示魔法をかけたか。

 頭の片隅で犯人を推理しつつ、族長との会話を続ける。


『冷静に話し合うには、あなたに掛かった暗示を解かないとだめみたいだね』

『黙れ! 黙れ黙れ黙れええええええええっ』

『いまなら竜人の下っ端もいないし、護衛も寝てる。――こそこそ誤魔化さずにやれるから楽だよ』


 当然、最初からそのつもりで、姫や竜人たちを追い払ったのだ。


『さあ、族長さん。その濁った眼を覚まさせてあげるね』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました!
こちらもよろしくお願いします( *ˊᵕˋ )

『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
https://ncode.syosetu.com/n0844gb/

【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

毎日えげつない言葉で俺を貶し、尊厳を奪い、精神的に追い詰めてきた花火。
身も心もボロボロにされた俺は、ついに彼女との絶縁を決意した。

「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
「ひあっ……?」

俺の人生を我が物顔で支配していた花火もいなくなったし、これからは自由気ままに生きよう。

そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
しかも、花火とは真逆で、めちゃくちゃ性格のいい美少女から、「ずっと好きだった」と告白されてしまった。

って花火さん、なんかボロボロみたいだけど、どうした?
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ