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【書籍化】6歳の賢者は日陰の道を歩みたい  作者: 斧名田マニマニ
2章 闇の支配者、誕生
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17話 滅ぼせるけど、どうする?

「いまの力は、エディ様の魔法ですよね……?」

「お姫さまの力だよ。僕は魔法でサポートしただけ。それより……」


 気絶していると竜人たちと、グースカ眠り込んでいる護衛たちを見る。

 この場にいる面々は、僕と姫以外伸びてしまっている。

 さて。どうしたもんかな。


「この書状は私が持っていましょう」


 護衛が持っていた密書を、姫は鎧の内側に仕舞った。


 もし戦を止めたいのなら、確保できた時間で次の手を考えないと。

 僕は思考を巡らせつつ、姫の気持ちを改めて尋ねてみた。


「お姫さま、どうしたいとか希望ある?」

「き、希望ですか? えっと……エディ様。私は……」

「やってみたいことがあるなら教えて」


 姫は迷うように視線を動かした後、躊躇いがちに話しはじめた。


「――人狼と竜人が衝突し、潰し合うような形になれば、我が国だけでなく人間側にも被害が生じます」

「うん。そうだね」

「私はメイリー国の姫として、なんとしても戦争を止めなくてはなりません」


 最後の言葉には、姫の強い意志が滲んでいた。

 彼女はメイリー国の姫として、責任を放棄して逃げ出すつもりなんてさらさならないのだ。

 となると、僕も付き合わないといけないよね。

 さすがにこの状況で、一人だけわれ関せずというわけにもいかない。


「でも、人間の力では竜人にも人狼にも敵わないよ。僕の魔法にも、魔力量の範囲内という制約がある。実際もう、魔力量はあと180しか残っていない。どうする?」

「そ、それは……魔族たちと話し合いをすれば……」

「どっちの種族も人間を見下している。話を素直に聞いてくれるとは思えないな」


 事実とはいえ、ちょっと意地悪な言い方だろうか。

 姫の瞳に浮かんだ強さが揺らいでいないのを見て、僕はホッとした。

 そのぐらいで心が折れるような人ではないのだ。


「たとえ相手が聞く耳を持ってくれなくても、武力に訴えるのは最後の手段にしたいのです。まずはこの書状を利用して、話し合いの場を設けたいと思います」


 姫は、懐に入れた密書を鎧の上から押さえた。


「姫の考えは素晴らしいと思うよ。ただ、今の僕たちには交渉材料なんて何もないでしょ? なんの勝機もなく話し合いしたって戦争を止めてくれるわけもないよ」

「相手が望むこと、避けたいことを知らない限り、交渉は出来ません。戦争を止めるためにまず、竜人たちの望みを知るべく話し合います」


 相変わらず真っ青で震えている。

 だけど、その目は真剣だ。

 揺るぎない信念のもと、その手段を選んだというのなら、姫の考えに乗ろう。


「……そうだね。僕もその線で賛成だ」

「エディ様……」

「お姫さま、滅ぼすっていう手もあるよ?」

「え!? ほ、滅ぼす!?」

「うん。手段を選ばないのならね。魔王の時のように僕が1発魔法を放って、壊滅させちゃえばいいだけだもん。でもそれをしたら、魔族たちに対する人間側からの宣戦布告と見なされちゃうよね。戦を止めるためにとった行動で、世界戦争を引き起こすことになるなあ」

「そ、それはいけません……!」

「魔族を壊滅させちゃえば、人間だけの安全な世界になるって考えもできるよ」

「いいえ。魔族が危険な存在だと決まったわけではありません。人間にもさまざまな考え方の人がいて、それは魔族も同じです。だからこそ我々は、争いで相手を制するのではなく、話し合って互いを理解しなければならないと思います」

「さすが世界平和を求める王様の娘!」

「世界平和など絵空事だと思いますか……?」


 僕は無邪気な子供の顔で笑って、ふふっと首を傾げてみせた。


「難しいことはわかんないよ。だけどお姫さまならきっと出来るんじゃないかなー」


 結構、無責任なひと言を放ってしまった自覚はある。

 だけど不思議なことに、クラリス姫はなぜかそれに勇気づけられたらしい。


「はい! エディ様がそう言って下さるなら、百人力です!」


 姫の笑顔があまりに眩しくて、思わずドキッとした。


「僕が言うならって……」

「私はまだあなたと会ったばかりですが、あなたはいつも正しいことを言っています。そのあなたが私を信じて下さるのであれば、怖くなんかありません!」


 姫の真っ直ぐな言葉が気恥ずかしい。


「……変な、お姫さま。こんな子供相手にさ」

「ふふ、そうですね。でもなんだか私はあなたを、子供だと思って接することができないのです」


 少しだけ頬を染めてクラリス姫が笑った。

 やっぱり、君は変なお姫様だ。

 抜けてるようで、どこか鋭いんだもの。


 ――そのとき、竜人たちの一人が唸り声を零した。

 リーダーのように振る舞っていた、一番体格のいい男だ。


『う……』


 目を覚ましたのか。

 姫は僕を見て頷くと、その竜人の元に歩いていった。

 もう彼女の体は震えていない。


『……な、なんだったんだ……今の攻撃は……っ!』


 竜人は、ぴたりと口をつぐんだ。

 姫の剣先が、彼の喉元に突きつけられたからだ。


『あなたたちの主を一時間以内にここに連れてきなサーイ。必要最低限の護衛のみ許可します。従えないようであれば、他のお仲間の命は保障しまセーン』

『くそ……人間ごときが竜人様に命じるだと……?』

『さあ、早く決断して下サーイ。その首が斬り落とされる前に』

『くっ……』


 竜人は歯噛みしながらも、馬に乗り、元来た道の方へ走り去っていった――。

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『幼馴染彼女のモラハラがひどいんで絶縁宣言してやった』
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【あらすじ】
一個下の幼馴染で彼女の花火は、とにかくモラハラがひどい。

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「颯馬先輩、ほーんと使えないですよねえ。それで私の彼氏とかありえないんですけどぉ」
「わかった。じゃあもう別れよう」
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そう決意した途端、何もかも上手くいくようになり、気づけば俺は周囲の生徒から賞賛を浴びて、学園一の人気者になっていた。
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