10話 魔法適性診断Sクラス級
前回の話は内容を途中から修正しました
魔王を倒してから10日が経った。
僕は今日、母に付き添われて、王立学院の入学前検診に来ている。
今日は、学校生活で必要な教科書や体操着を購入したり、身体測定を受けたりする。
そしてもっとも大事なイベント、魔法適性診断もある。
「エディの適性診断はどうなるかしら。ママ心配だわ。エディが天才だということが気づかれちゃって、攫われたりしたらどうしましょう!」
「はは……」
僕は若干、頬を引きつらせた。
魔法適性診断では、専用の魔道具を使って、魔法適性度が測定される。
その子の持つ魔法適性値と、習得可能な魔法が印字されるのだ。
そうやって個々の才能を測り、結果として出た数値によって、クラス分けがなされる。
王立学院のクラスは能力の高い順にわけられていて、数値の高い順に、A、B、C、D、E、Fクラスとなっている。
僕が狙うのは、当然Fクラスだ。
だけど、僕は最強賢者の能力を引き継いでしまっている。
普通に診断されると、とんでもない数値が出てしまうわけで……。
まあ、もちろん、対策はちゃんと練ってきているけどね。
僕は母に気づかれないよう、ポケットに入っている紙をそっと確かめた。
これがあれば問題ない。
「それじゃあエディ、いってらっしゃい。ママは入学手続きの説明会に行ってくるからね」
「うん。僕も頑張ってくるよ」
母に笑顔で手を振って別れる。
「ママどこ? ひっく、ママ……」
「わーっ! これなんの道具? 面白ーい! 俺に貸してよー!」
「きゃーっ! もう、男の子って本当に乱暴なんだから!!」
周囲のお子様たちがわいわい楽しそうにしている中、僕は粛々と身体測定、簡単な学力試験をこなしていった。
身長が平均よりも低いのは気になったけど……まあ成長期だからね。
誤差の範囲だ。うん。
そして、いよいよーー。
「はーい。魔力適性診断を受ける子たちはこっちに並んでね」
数人の子供が並んでいる列に誘導されて向かう。
魔力適性診断ではドーム型の魔法道具の中に、手を突っ込まさせられる。
そのまま数秒待つと、カリカリ音を立てながら機械が紙を吐き出す。
僕はひょこっと顔を出して、目の前の子の数値を覗き見た。
*********************
【新1年生 083番 G.ノートン】
魔法適性値:C’
習得可能魔法:土魔法(弱)、土魔法(中)、治癒魔法(弱)、痺れ魔法(弱)、痺れ魔法(中)、硬化魔法(弱)
*********************
よかった。
表記の紙は、昔とまったく変わってないみたいだ。
これなら考えていた方法で、うまく乗り切ることができる。
続いて僕の番がやってきた。
「E.ラドクリフ君。お願いします」
「はーい」
白衣を着た女の先生に指示されたとおり、魔法道具に手を突っ込む。
ひんやりするような、温かいような感覚が手のひらに伝わってくる。
それから数秒後……。
魔法道具はとんでもない長さの紙をはき出しはじめた。
「えっ!? どうなっちゃったの!? 紙が止まらないっ!?」
その様子に驚いて、教師が魔法道具に飛びつく。
*********************
【新1年生 084番 E.ラドクリフ】
魔法適性値:SSS
習得可能魔法:火魔法(弱)、火魔法(中)、火魔法(強)、火魔法(超)、水魔法(弱)、水魔法(中)、水魔法(強)、水魔法(超)、ーーーーー………………………………
*********************
「こ、これはいったい……!?」
「ロイス先生、どうされました!?」
異常を察知した他の教師たちが集まってくる。
わあ、予想通りやっぱり大騒ぎになったな。
*********************
風魔法(弱)、風魔法(中)、風魔法(強)、風魔法(超)、土魔法(弱)、土魔法(中)、土魔法(強)、土魔法(超)ーーーーー………………………………
*********************
「エディ君の診断結果が止まらないんです!! まさかこんな……こんなことが!?」
「落ち着いて下さい!! いや、しかしこれは……登録されているすべての魔法が出力されているんじゃないか!?」
「これは、学院始まって以来の秀才……いや、天才だ!! この子はAクラス……いや、特別にSクラスを作って、個別授業をしてもいいくらいだぞ!!」
教師たちの視線が、一斉に僕へと集まる。
他の子供たちも、興味津々という感じでわらわらと集まってきた。
「あの子どうしたの? すっごい魔法が使えるのかな?」
「僕よりもあんなにたくさん……!」
そろそろかな。
僕はすうっと息を吸って、無邪気な声をあげた。
「わあ! この魔法道具、壊れてるんだねー!」
「こ、故障……? でも、いままでそんなことは一度も……」
「いや、それしか考えられんでしょう! こんな数値を叩き出すなんて前代未聞ですよ!!」
教師たちがてんやわんやしている隙を突いて、僕は他の魔法道具に手をかざす。……ふりをした。
そしてすかさずポケットから、仕込んでいた紙を取り出す。
「ほら! 先生たち、見て! こっちの機械でやったら、こんな紙になったよ?」
*********************
【新1年生 032番 M.ラドクリフ】
魔法適性値:F
習得可能魔法:鈍足魔法
*********************
教師たちは顔をつきあわせるようにして、僕の紙を覗き込んできた。
「うわっ、これは……」
「すごい……こんな最低な数値は、ラドクリフ家の次男以来では!?」
そう。
これは正真正銘、Fクラスの人間のステータスだ。
というか、名前でわかる通り、これは僕の二番目の兄マックスのものである。
剣の才能に特化していて、魔法は得意ではない兄。
兄も6歳のとき、同じように診断を受けて、Fクラスに配属された。
いま僕が持っているのは、当時の兄が持ち帰ってきた紙だ。
混乱している教師たちが気付く前に、用紙をさっと引っ込める。
名前や番号が違うとバレないよう、敢えて騒ぎが大きくなるまで待っていた甲斐があった。
「いやあ、やはり故障だったんだな」
「大変だわ。この列の子達を他の列に移動させないと!」
そんなふうに言いながら、教師たちは忙しそうに散っていった。
「エディ君、ごめんなさいね。もう行っていいわよ。その紙はおうちに持って帰ってもいいからね」
優しそうな女の先生が、僕の数値を記録しおえると、すまなさそうに言った。
「うん! じゃあ持って帰ろうっと。先生、さようなら」
僕はほっと胸を撫で下ろし、再び紙をポケットに仕舞い込んだ。
助かったよ、マックス兄さん。
心の中で兄に感謝する。
うちのママがなんでも記念にとっておく人で助かった。
これで計画通り、魔法適性診断はクリアできたな。
よかったよかった。