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賭場

帝営労務協会の窓口係員の話をまとめよう。


イスタタウンには、昔から小さい賭場がある。


賭け事が合法かというと…まあ王国法的にはグレーだ。小規模なら見逃されるが、大きな賭場は悪い組織を呼び込むため領主によって排除される。


さて、この町の賭場についてだが、ずっと細々とやっていたようだ。だが最近事情が変わった。賭場の主人が王都で流行りの遊戯盤を大量に買ってきたのだ。これを賭場に置いたところ、人気が出て売り上げは飛躍的に伸びた。


前町長が亡くなった頃であり、賭場の主人は調子に乗って手を広げるかと思いきや…、彼は分を弁えていてた。手に入れた大金で賭場を畳んで健全な喫茶店にしようと考えたのだ。


主人は資金管理と経営指導を労務協会に依頼した。ここではそういう仕事も引き受けているのだ。そして細かい話を詰めに労務協会の担当が

賭場を訪れたところ事件は起きた。


客としてきていた砂漠都市の魔法使い達と帝国貴族が賭けの払いに関して揉め、その争いに労務協会を巻き込んだのだ。


「解決策が見いだせないまま、10日以上経過しています。今日もうちの職員の半数は話し合いの為、賭場にむかっているんです。」


 係員は淡々と話すが、話し方に張りが無い。この町の支部は小規模だし、一連の騒動の影響で彼女にかかる負担も大きいのだろう。


「その帝国貴族というのはやはり?」


 俺が尋ねると、係員は頷いた。


「ええ。ザイノルド子爵です。これまでも尊大ではありましたが、今回は…無茶苦茶です。道理も何も無く、ただ自分は金を払わないとだけ主張して。」

「ああ、子爵のほうが賭けに負けた側なのですか。」

「はい。それもあって魔法使い達も強気に出ています。元々砂漠都市の方は帝国貴族を恐れていないというところもありますが。」

「ふうん。労務協会はどのような形で巻き込まれているのか、もう少し詳しく。」

「『賭場が非合法だったから主人は喫茶店にしようとしているのだろう。ならば、賭けそのものが無効だ!責任は主人と労務協会にある!』とか『こちらが帝都で一言伝えれば、協会に厳しい監査が入るのだぞ!』などが子爵の言です。一方、魔法使いのほうは『労務協会は貴族と関係ねえんだろ?だったらはっきりこいつの言っていることはオカシイと断言してくれ。賭場を潰すのは、俺たちに支払いがあってからだ。それまでは座り込みだ!』といったかんじですね。」


 俺はうーんと唸った。


「僕なら即座に賭場から撤退しますね。」

「私どもも普段ならそうします。ですが、以前から協会の一部の者が賭場に出入りしていたことが問題をややこしくしていまして…引けないのです。」

「だいたいのお話は分かりました。僕が様子を見に行ってきましょう。こちらが求めている人材もそこにいるようですし。」

「左様ですか!」

「確実に対処できるという保証はできませんけどね?」

「ええ、理解しています。」



 労務協会の建物を出て、件の賭場を目指す。


横を歩くラナーがちくりと嫌味を言ってきた。


「結局、王子が諸問題の根源ということですか。」

「…関係があることは認めよう。でも、悪いのは僕じゃない。悪くないけど、自分のケツを拭きに行くような気分がしないでもない。」


 ジャンは子爵のことが気になるようだ。


「例の盗聴用の仕掛けといい、何がしたいのでしょうな、ザイノルド子爵は。」

「意図は分かんないけど、行動に『焦り』がみえるね。」


 そんな話をしながら、賭場まで近づいたところで、肌がチリチリする感覚に襲われた。ジャンとラナーも同じように感じたようだ。


「空中の魔素が励起している。誰かが大きめの魔法を使ったようだ。」

「賭場かな?」

「でしょう。急ぎますか。」


 三人で走り出す。道行く人々も異常を感じたようでざわざわと騒いでいる。魔素の異常に気づけるのは、魔法の才がある者だけだ。人間のおよそ6割が魔法の才を持っていると言われているから、この辺りの半数以上の人が魔法が使われたことに気づいたはずだ。


ちなみにジャンは土、ラナーは火の魔法の才を持っている。けれど二人とも魔力量が少なすぎて魔法は使えない。二人のように才があっても魔法が使えない者を『無呪の者』と呼ぶ。実は魔法の才を持っている人間の8割が『無呪の者』だったりするのだ。


路地の曲がり角を左に折れると、薄汚い建物の入り口から水が大量に溢れてきていた。蝶番が壊れて流れてきた扉には水色の三本の横線。じゃあ、ここが賭場なのだ。


「こりゃあ近づけないな。」


 俺が呟くと同時に、入り口から人間が流れてきた。小太りの中年男。濡れてぐちゃぐちゃになったカツラ、高価であろう上着。少し賭場から流されたところでなんとか立ち上がり、咳をして気管に入った水を吐き出している。。


俺は水を避けながら、その男に近づいた。


「ザイノルド子爵ですね?」

「ゲホっ!なんだっ…ゲホッ!おまえは…いや、ゲホッ、あ、あなたは、ゲホゲホっ!見覚え…そうか、第三王子の!」

「はい。ファルク・アレイマル・サビアです。一昨年の王城での茶会でお会いしましたね。」


 ザイノルド子爵はようやく息が整ったようだ。


「ああ、そうだったような…いや、それどころではないのだ!ファルク殿!あの無法者どもを逮捕してくれ!!」


 子爵の指し示した先、賭場の入り口からはボディビルダーのようなマッチョ集団がずらずらと外に出てきた。彼らの着ている砂漠用の長衣が筋肉ではちきれそうだ。その中のリーダーらしき鷲鼻の男が目を細めて子爵を睨む。


「無法者はあんただろう、ゲホノルド子爵。」

「ザイノルドだっ!…ゲホッ!」


 俺は鷲鼻の男に問う。


「あなた達は?」

「俺たちゃ、砂漠都市スィダラの魔法使いだ。俺は代表のフウク。」


 まじか。外見とのギャップが凄いな。


マッチョ集団に続いて外に出てきたのは、小柄でげじ眉の若い男。


「お客さんがた!勘弁してくれ!店を壊さないで下さい!」


 鷲鼻男が鼻を鳴らす。


「俺たちの水魔法は指向性があるからな、被害は最小限だろう?そもそも、賭場の主人のあんたがきっちりこいつにルールを守らせれば話は早いんだ。」


 賭場の入り口から外の様子を伺っているのは、協会関係者だろうか。だとすれば、関係者勢ぞろいだな。


「えー。皆さん!取り敢えず『王子の』僕に話を聞かせてくれませんかね。よし、中で話をしましょう。さあ、ゲホノルド子爵も。」

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