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イノシシがトラックと衝突したら

イノシシがトラックと衝突したら~その3~

作者: くろきし

その1とその2も気が向かれましたらご覧ください。

ご覧にならなくてもお話はわかるかと思います。






猪太郎は偶然人間を助けるような形になりトラックに轢かれて命を失った雄イノシシであったが、自称愛と美の慈悲深い女神により異世界への転生を果たす。


その身体は、毛深く分厚い胸板に長い手足は雄々しく引き締まり、りりしく整った顔に艶やかで硬い黒髪をした人間の身体となり、今、光に包まれ新しい世界へ降り立たんとしていた。




女神の目の前から光の残滓を残し消える猪太郎。


やり遂げた気分で微笑んだ女神は転生させた魂を迎えるために作った異次元を閉じようとして、ふと、あることに気づいた。




「あれ…もしかして、私…あの者に服を着させていなかったんじゃ…?」
















そこはある大陸で大きな勢力を誇る、この世界を作った神々の中の一柱である男神をあがめる神殿。


大きな男神の像の前で、三人の女性たちが熱心に祈りをささげていた。




老いた現聖女と、二人の次代聖女候補。




次代の聖女候補の二人はまだ若く、10代半ばとみられる


一人は可憐で美しく華奢な身体に光にとけるような淡い金髪。けぶるようなまつ毛に縁どられた瞳はうるんだような湿り気を帯び、庇護欲を誘う。


もう一人は伸びやかに伸びた長身に女性にしては広い肩幅、意思の強そうな太い眉と強い眼差し、かなり毛量は多いが艶やかな黒髪で、ごっつい…いや、とても健康そうであるという印象を与える。

ややもすると金髪の少女の引き立て役のように映るかもしれない。






金髪の少女は、幼いころに神殿に預けられたのだが、とある高貴な血筋の落とし種と言われている。


そのためか周囲の者が彼女を慮り、また彼女もそれを当然だと受け止めるようになるのは仕方のないことであったかもしれない。


神の教えを理解し忠実に守ってはいるものの、実行するのは自分ではないと思っている節がある。


『皆さんがしてくださるんでしょ?』


ふんわりと微笑んでそう言われて断れるものはこの神殿にはいなかった。


いかにも聖女然とした容姿と態度に幼いころから彼女を次代聖女に祭り上げて裏から操ろうと画策する権力者の後ろ盾もあり、彼女が次代聖女で間違いないであろうというのは公然の秘密である。




黒髪の少女もまた幼いころに田舎の神殿のひとつに預けられた。冒険者であった両親が大きな仕事に挑む前に預けられたのだが、そのまま両親は帰らぬ人となり、神殿預かりの身となって今日まで精進してきた。


健康な身体に朗らかな性格で他の孤児たちの姉や母のような立ち位置で皆の世話を焼き、また、冒険者であった両親の面影を追ってたびたび見学に訪れていた辺境警備隊の稽古にいつしか加わるようにもなっていた。


身体を動かすことばかりを好むように見えて神官の説法も熱心に聞き、神学にも興味を示し神の教えに心酔するうちに現聖女の目に止まり、聖女候補として本殿に上がることとなった。






静かに祈りをささげる三人の前、男神の大きな像の前に突然光が現れた。


それは段々と人の形をとり、その光が収まった場には一人の男が三人に対して後ろを向く形で現れた。




艶やかで硬そうな黒髪は肩を超えた辺りまであり、その毛先は左右の僧帽筋の狭間まで届く。


素晴らしい広背筋が続き、脊柱起立筋から引き締まった大臀筋と大腿二頭筋に至る辺りで三人はふと我に返り視線を発達した三角筋まで戻した。




3人の清らかな聖女の前にさらされる猪太郎の肉体美。




その完成された肉体美を見て、これは神の御使いに違いないという考えに至ったのは老聖女だった


彼女は自らのあがめる男神におのが人生をささげていた。


幼いころから神殿にある神像に祈りをささげてきた。


彼女にとってその像はすべての理想。


そしてその像は、とてもとてもマッチョだったのだ。


神はマッチョである。正義はマッチョの元にある。


だから神像の前に輝く光とともに現れたマッチョは神の御使いなのである。




感動に紅潮した老聖女の斜め後ろで、ただ目を見開く金髪の少女。


清らかに神殿で過ごしてきた彼女が初めて目にする異性の裸身に呆然としてしまっていた。




その隣で、神像のように雄々しく広い背中の猪太郎を見て黒髪の少女は老聖女と同じく彼を神の御使いと思っていた。


その背中は彼女に遠い記憶の中の父を思い起こさせた。


彼女が修めた神学の記述の中に聖女は男神の娘であり伴侶であり僕であるとあった。


娘であり僕であるために日々努めてきた自覚はあるが、男神の伴侶たる資格は己には無いと黒髪の少女は思っていた。


隣にいる金髪の少女こそ、男神の伴侶たるにふさわしい、と。


ついに男神が次代の聖女を、金髪の聖女を迎えに来たのだと思い、黒髪の少女はうつむいてしまった。




そこで振り返る猪太郎(全裸)




まっすぐと黒髪の少女の元に向かうと


「顔を上げろ、強く美しい女よ」


と黒髪の少女の頬にそっと手を添えた。


まさか己の前に御使いが立つとは思っていなかった黒髪の少女は混乱しながらその顔を上げた。

黒曜石のような御使いの瞳に自分が映っている、彼女がそう思うと同時に神の御使い、猪太郎はまた光に包まれ、その場から消える。


黒髪の少女の頬にぬくもりと、その胸に恋慕にに似た感情を残して。


この出来事は、御使いの来訪としてこの神殿で後々の世にまで言い伝えられる事となる。


この事がきっかけで黒髪の少女が御使いに選ばれた聖女として新しい聖女となる。

彼女は生涯を男神の娘であり僕として捧げた。ただ伴侶としての役割だけは固辞し続けた。


金髪の少女も、御使いの肉体美に心酔し、御使いに選ばれた聖女のように自分もなろうと筋トレを開始。

健全な肉体に健全な魂が宿り、改心。

黒髪の聖女を支える頼もしい存在に。


以降、この神殿の信者には筋トレが推奨され、屈強な神殿騎士団を産み出し、後の世の大陸を揺るがす魔物のスタンピード~大量発生~においてめざましい活躍を見せることとなる。









神殿から光となり消えた猪太郎は、また女神のいる空間に呼び戻されていた。


転移先の猪太郎を確認したら全裸でしかも男神を崇める神殿に降り立っているではないか、これはまずいと気が付いて、慌てて呼び戻したらしい。




「なんで男神の御使いみたいに言われてるのよっ!あなたを転生させてこの世界に連れてきたのはこのわたくし、愛と美の慈悲深い女神なのよっ!」




とキレる女神。そんなことは猪太郎の知ったことではないのだが。


でも良い娘を聖女に選んだと、自分が与えた能力のお陰だと自画自賛を始める女神。


猪太郎は振り向いた瞬間に、女神に与えられた能力のひとつ《鑑定》を発動させていたのだ。


『素晴らしく健康な身体に美しい毛皮、あれは良い子を生むに違いない。』


女神が望んだ鑑定とは違う使い方をしていたわけではあるが。







女神から着る物と装備と、追加で人間として生活する上での最低限の常識の知識を与えられた猪太郎。


今度こそ、彼の異世界生活が幕を開ける。





多分。






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