第四話
あれから使い魔たち――主にナイトドール――に宥められ我を取り戻した俺は新たな野望を胸に最初の目的地でもある街道近くの野営地を目指していた。
ちなみに、使い魔美少女たちが言っていたわがままを大まかに説明するなら、町で一緒に買い物をしてみたい。とのこと。
それを聞いた俺は即座に承諾。
美少女二人と買い物デート(野望)をするために、可及的速やかにリンデに向かうことにしたのだ。
納品? 知らない子ですね。
【帰って風呂に入ると言い出した時は焦りましたが、正気に戻られてよかったです】
とどこか安堵した感情を纏わせて、念話を飛ばしてくるナイトドール。
今はもう森からは出ているので、召喚した使い魔たちは俺の影に潜らせている。
「仕方ないだろ? あんな愛らしい存在に出会ってしまえば、誰だってあーなる! これは必然だ」
【……なるほど。閣下はああいった容姿であれば……】
「なんだ? まさかお前もゴスロリに変身するのか?」
【いえ、我々の使命は閣下の守護です。あの姿では機能性や利便性に欠けてしまします。それに庇護欲をくすぐる姿では閣下がうるさそうですから】
「うるさい、ってお前……」
そう言われて、なんとなく気になったので想像してみよう。
庇護欲をそそる美少女騎士たちに守られる銀髪の美女――絵的には悪くない。……いやむしろ最高だと言い切れる。だが、それは第三者から見た感想だ。いざ当事者となれば話は変わると思う。
なのでもう一度、我が肌色の脳みそを唸らせる――。
――美少女騎士の背を見ながら指示飛ばす俺…………これはこれでアリだな。と思った瞬間。
『あらあら……幼気な少女を盾にして。見ないうちに随分とお偉くなったものですねぇ……アナタ?』
と凛とした椿ちゃんの声が聞こえ、いろいろ想像して興奮していた頭が一瞬で凍り付き、体が跳ね上がる。そして条件反射の如く、背筋を伸ばして――。
「いえ! これには深い事情がありまして――」
言い訳もとい弁解をしようと思った矢先、クスクス、と小さな笑い声が響く。
辺りを見渡すが人影はない。探知魔法を放つが椿ちゃんらしき反応はない。
それがわかると段々と落ち着いてきて、声も笑い声も実際に聞こえたわけではなく、念話だと気付く。
それにあの笑い声はクレアの声だ。
ではあの椿ちゃんの声は……。
「もしかして、クレアか?」
【申し訳ございません。つい出来心で……似てましたか? 奥様に――フフフ】
「似てるってもんじゃなかったぞ……ゾクッとしたわ」
ふー、と息を吐いて安堵する。
いるわけがないとわかってても、椿ちゃんの存在力は世界を超えても色褪せないのだなと思い知った瞬間であった。まぁ椿ちゃんの反応がなかっただけでちょっと気になる反応はあったが、今は――。
「クレア。つい出来心でも、椿ちゃんの真似は危険だ。てか椿ちゃん知ってんのか?」
【知っていると言えば知っていますね】
「? どーゆうこと?」
【実際にお会いした事がある、と思うのですが……うっすらと言いますか。はっきり思い出せないのです】
「それでよくあれだけ再現できたな。本気で椿ちゃんが世界を超えてやってきたのかと思ったよ」
【それは『影映し』を使い、それを少し工夫して再現いたしました】
「工夫?」
【ええ。『影映し』は本来、対象としたモノの影から姿と能力を読み取り、自分のモノにすると言った能力ですが、今の私たちはそれ以外にも記憶を読み取り、より完璧な再現が可能になりました】
なるほどねー。その【影映し】を使って俺の記憶を読み取って椿ちゃんを再現したと。
それからいろいろクレアから話を聞いたが、彼女たちは今の姿、状態になった事で、能力の幅が広がったりしたようだ。
新しく能力が増えたとは違うらしいが、聞く限りじゃ進化じゃね? と思うが……。
ただ、ほかの使い魔に比べ、すんなりとそれらが出来る様になったのは何故だろう?
ナイトドールなんか結構時間が掛かったようだったが……。
そこまで考え、ふと疑問が浮かんだので聞いてみる事にした。
「ちょっと聞きたいんだが……クレアたちってマリオネットアサシンでいいんだよな?」
【いえ、違いますよ】
おっとまさかの否定……。
ではなんなのか? と聞く前にテレサが会話に割り込んできた。
こう、プリプリ怒ってます! て感じで。かわええなぁ畜生!
【クレア姉様だけずるいです! あたしも主様とおしゃべりがしたいのに!】
【もう! テレサったらそんなに大きな声で……でもそうね。先ずはお仕事を片付けてしまいましょ? その方がゆっくりお話しできるわよ?】
【むー。わかりましたわ。……でも! 次はあたしが懇切丁寧にちゃんと、主様に私たちの事をお教えする番です! お胸の大きさにクビレの細さ! ちょっと恥ずかしいけどお尻の大きさも! でも、大きさや細さは言葉じゃ伝わりにくいから……それは主様とお風呂をご一緒した際、改めて! そして直に!!】
お、おお? おおお……マジか! 美少女の! お風呂で身体測定開催の予感!?
【もう……お好きなさい。ではマスター。私たちは為すべき事を成してまいります】
【行ってきます! 主様!!】
「お、おう! 安全第一によろしく」
とやれやれと言った感じのクレアとお転婆系元気っ子テレサに繋がっていた魔力線が切れ彼女たちが俺の影から離れていくのを感じた。
今更ながら説明するが【念話】とは魔力で相手と繋がり頭の中で会話する魔法だ。
その相手と繋がってる魔力を俺は魔力線と呼んでいる。
【念話】はゲームにもあった魔法だが、この世界でゲーム感覚で使うととんでもない事になる。とまぁ説明は後日詳しくするとして……。
クレアたちが離れた理由であるが、この先の野営予定地に感じた反応の確認行ったのであろう。
妙な反応があったからなあそこに。でも危険性はそう高くないと思う。
だからといって気を抜くつもりはない。最低限の警戒はちゃんとしとく。
これ大事――と自分に言い聞かせた所でナイトドールが話しかけてきた。
【閣下? 彼女たちの線が急に切れたのですが……なにしたんです?】
「何もしてねぇよ! わかってるだろ!?」
【まさか……そんな……。幼女相手に……? 無理やり繋がろうとし――】
「おい! やめろ!?」
【駄目ですよ! 閣下のアレを彼女たちの中にぶちまけるのは。いくら使い魔だからとはいえ、幼い姿をしてる彼女たちには酷と言うものです】
「言い方!?」
【閣下は念話の制御ができませんからね】
「……うるせっ。で、お前らは行かなくていいのか?」
【我々は護衛ですから、離れるわけにはいきません。それに……彼女たちをどうこうできる存在ではないようですし。問題ないでしょう】
と断言するナイトドールから、クレアたちがなんのか知ってるような口ぶりってか気配を感じた。
ほんとは彼女たちから聞きたかったが、気になるのでこいつらに聞いてみる事にする。
さて、ナイトドールからいろいろと聞いて見たところ、彼女たち――クレアとテレサは『ワルプルギスの双子人形』と呼ばれる使い魔に進化したようだ。
この使い魔については概要だけは知っている。
目的の野営地までもうちょい距離があるので向かいながら順を追って、ここまで起きた使い魔の変化――主にクレアテレサについて整理及び、俺なりの考察をしてみよう。
先ずは進化だな……。
なにせ、この世界にきて50年ほど経ったが、使い魔の存在というか、状態? それがゲームみたいに進化するなんてことはなかったからな。まぁほかの使い魔たちの成長を見れば、それって進化じゃね? とも思わなくはないが……それはゲームが現実になった事で起きた現象だと俺は考えている。
ゲームのだった頃は『ここからここまで出来ますよ、これ以外は無理ですよ』と言った感じで制限があった。いわいるゲームルールとかゲームシステムだ。
だが、こちら――いわいる異世界という現実に来たことでそれらはゲームから現実となり『ここからここまでは出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。これ以外は無理かもしれない、けど無理じゃないかもしれない』てな感じに曖昧なモノへと変化した、すなわち可能性が多岐にわたって増えたと俺は人身の経験を踏まえて考えている。
ゲームだったら、GM――制作側が用意した可能性しかないのだ。
中にはそれらを上手く使って制作側の意表突くような可能性を叩きだすプレイヤーもいるが……そういうのはだいたい、すぐ修正される。
ここですごく気になるというか、引っかかるモノがあるんだが……それはいいや。
とにかくだ、使い魔たちがゲームではあり得ない成長するのは、こじつけもいいとこだがそういう風に納得している。
で、問題というモノではないが、クレアとテレサだ。
進化ですよ? 成長とかじゃなくで別種に存在が変化というか変質したんですよ?
これは驚き!! てな思いですよ……まぁゲームで進化システムあったんだけどね。
こっちにきてまさか進化するとは思わないじゃない?
メタモルフォーゼですよ!
だって黒ずくめで顔も性別もわからんダークサイドにどっぷり浸かったような風体が、いきなりゴスロリ美少女ですよ? まさに超進化、メタモルフォーゼ。
なんだろうね。プリっとキュアな前のめりな魔法少女か!? って思ったもの! 胸アツだよ!
……いかん思考がまたヘブンでシャングリラになりそうだった。
その、なにが言いたいか、それはこの世界に進化すら肯定されたって事だ。
成長はまだわかる。だってこの世界で生きてるんだもん。成長ぐらいはさせてもらえるでしょう。
が、進化はちょっと違う気がする。だってそれはこの世界に元々いた生命が長い時間と経験を生かし得られる特権だと俺は思う。
俺を含め使い魔だのなんだのは、ようは余所者だ。
俺はこの世界に選ばれて来ただの、俺が特別だからこの世界に来ただの思っちゃいない。
理由はあるだろうが。
世界がそう在れと一から肯定し作り上げたモノ中にいろいろ余計なモノ引き連れて来てしまった。
と俺は考えたからこそ、最初はかなりはっちゃけやらかしてきたけども、その後はちょい隠者生活しながら異世界ライフを楽しんでたのだ。
それがクレアとテレサの変化を見てちょっとゾクッとしたよね。
これらについては考えても答えが出なさそうなのでここまでにして、お次は『ワルプルギスの双子人形』について、俺が知ってる情報と考察だ。