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第三話


 なんだ……これ……。


 声を上げるなり俺に抱き着いてきた少女……しかも二人!!

 咄嗟に受け止めて、落ちないように支えてしまったが、大丈夫だろうか? こう犯罪的な意味で――そこまで考え、ハッとする。

 何も問題ないじゃん! 今の俺は女! しかも美女! 美少女じゃん!!

 それに、だ! 飛びついてきたってことは俺を抱きしめたいって事だろ? 現に俺の首元をぎゅって腕を回してるじゃん! 頬ですりすりとかしてんじゃん――ああ。


 なにこれやばい……すべすべで……ぷにぷにで……ひんやりとして…………あっ、いい匂いがする。


 ……やばい……すごい……あとやばい――――……いかん! 脳が蕩けてた!!


 まだダメだ! 気をしっかり持つんだ俺!! ここで惚けてしまったら勿体ないぞ!

 なんだっけ? ……そうだよ。抱きしめる、って事は、それすなわち! 抱きしめられたい、って事だろ!?

 ここでどこぞの主人公みたいに『おいやめろ!』とか 『あれ? 君たちは?』だとか、『とりあえず、落ち着いて一旦離れてくれるかい?』とかなんとかそれっぽいセリフを言って、この()()()()()()()()()()、て状況を早々に終わらせたりはしない!!

 俺ならこうする、と強く妄想していたあの壁の向こうの光景。それが今まさに、俺の触れることのできる世界で広がっているのだ。


 ならば――俺が為すべき事はただ一つだ!!


 よしここはあえて、シンプルにいこう。天ぷらとかステーキとかでも、まずは塩でいけって誰かが言ってた!

 



 まずは二人を地面に立たせようとゆっくりと膝を曲げる。

 支える腕に力が入り過ぎないよう慎重に。

 その際、思いのほか自分の体が強張っていることに気付く。

 緊張故か、流行る思い故か、俺にはわからない。

 大丈夫だ! この世界に来て何度も困難を乗り越えてきたじゃないか! その時と同じように冷静に、慎重に、確実に、こなすんだ!! ――と自身を鼓舞する。


 地面に足が着いたのであろう。温もりと冷たさが俺の首筋から離れ、やがて俺の目に彼女たちの顔が映り込む。

 その表情は不思議そうに、でもどこか不安げにも見えた。

 だが、彼女たちは依然、俺の首元に腕を添えながら、はみかみつつも笑顔を浮かべていた。

 その笑顔を見て加速し始めた思いと気持ちの手綱をしっかりと掴む。決して離さぬよう気合を入れる。

 いつまでも見ていたい、という思いを振り切り、目を閉じる。

 それから大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出し、腕を左右に大きく広げる。

 そして――彼女たちを包む!

 壊れぬようやさしく、強くするのは気持ちだけ!! 狙いは腰!! 決して外さん!!!

 寸分たがわず狙い通りに触れた腰。その瞬間、脳髄から脊髄に衝撃が走る。


 なんだ……これは!!? ドレスの形状上、細さは見て取れた! だが、触れて感じるこの細さはなんなんだ! そしてしっかりと伝わる女特有の柔らかさ! いや……それだけじゃない? ――――……その下に感じるのは……しなやかなさ!? 


少女の姿をしていても彼女たちは女であると強く感じていると――()()()聞こえてきた。


「――」

「――」


 右と左の耳に届くそれぞれ異なる愛らしい声色。だが……含まれた色は愛らしさだけでない!

 確かに感じた艶やかさ。それと同時に彼女たちから、()()()()()()()()()()()()()()()が伝わってきた。


 最初は力が入りすぎ、痛さや息苦しさから漏れたのかと思ったが、それを感じ、ある確信が生まれた時俺は――……。


 抱きしめられ、抱きしめる事に狂気乱舞していたが、頭の片隅には冷静さは残っていた。

 だが、右と左の耳に届いた小さくか細い艶声、それから声を発する際、僅かに漏れたであろう吐息と熱。

 それらを聴き、感じた時、その冷静さ――いや余計な思いは消え失せた。


 走馬灯のように流れ、浮かび上がる記憶。


……いつか見たアニメ……体を洗う描写……ローアングル……足の裏……足の指の間に手の指を差し込み揉み洗う。浮かんでは流れて消える。それら。


 そして湧き上がる形容詞し難い興奮―――――……俺の中で『足の指モミモニー』と名付けたそれが強く呼び起こされた。

 



 気付けば俺は彼女たちに背を向け、使い魔たちに声を張り上げていた。


「総員! これより直ちに帰還する!! 帰還したのち、俺は彼女たちと入浴する!! これは決定事項であると同時に最優先事項だ!!! これを阻む存在は如何なるモノであろうが全て排除だ!! 遠慮はいらん! 全力で叩き潰せ!!」


 驚き慌てたような気配漂わせて、ナイトドールが質問してきた。


「い、いきなりどうしたんですか? 閣下」

「ん? なんだ貴様。異論するなら言葉を良く選べ。内容次第では消し飛ばすぞ」

「――っ!」


 どうやら俺の本気が伝わったようだ。

 ナイトドールを一瞬、体を跳ねらせ後ずさったが、すぐに姿勢を正して――。


「とりあえず、閣下……落ち着きましょう。再度確認ですが、今回はリンデに依頼物を納品しに向かわれるんですよね?」

「俺はこの上ないぐらいに落ち着いているぞ。それと確認内容についてだが、それは、もはや過去の話だ! 今は一分一秒でも早く家に帰って、彼女たちと風呂に入り、『足の指モミモニー』を決行するのが今の俺の最優先事項だ!」

「え? 足の指?」

「モミモニー、だ」

「あ、はい。まぁそれは今回の仕事が済んでから存分に楽しまれればよいのでは? それに納品を済ませないと報酬がもらえませんよ?」

「は? 言われんでも存分に楽しむわ! あと、そんなはした金どうでもいいわ! 今! すぐ! 帰って! 風呂に入るんだ! OK!?」

「……」


ごちゃごちゃうるさいナイトドールを黙らせ、その顔を睨め付ける。

とその時、一瞬ナイトドールの目線が俺から離れたような気がした。目線と言ってもフルフェイス型の兜で、しかもスリットの奥も真っ暗で中身が一切見ないんだが。あと若干微量な魔力も感じた。


 それに気を取られていたら、両手に柔らかな感触が伝ってきた。

 何事か、と驚いていたら彼女たちが俺の手を握って目の前に。しかも各々俺の右手と左手を小さな両手で包み込んで。

 それから彼女たちは俺の顔見上げて愛らしい声で語り掛けてきた。


「マスター。私たちはマスターが下さった、命令――使命を果たさなければなりません」


 そう最初に語り掛けてきたのは俺の右手を握る髪の長い少女――クレアだ。

 だが、それだけ言うとクレアは顔を俯せしまった。

 クレアの言葉を引き継ぐように左手を握る少女――テレサが続ける。

 ちなみに髪の長さはテレサより短い、あと二人とも髪の色は濃い青だ。

 

「そうです。マスター……私たちの存在理由は愛しいマスターの願いを叶える事。確かにお風呂ご一緒するのは考えただけでも心が躍る思いですが――それでも私たちはマスターが最初に下さった使命を果たしたいのです! それに……」


 とテレサまで顔を俯せてしまう。なにこれ? 湧き上がる罪悪感が凄いんですが……。

 そんな彼女の肩にそっと触れるクレア。

 そして、クレアは彼女を労わる様に優しく語りかける。


「いいのよ……テレサ。それは私も同じ。だからそんなに自分を恥じなくてもいいのよ」

「クレア姉様……」


 見つめ合う二人。まるで姉妹愛溢れる劇を見ているようだ。


 妹を優しく慈しむ姉。その姉の優しさと気高さの心打たれ感動する妹。

 マリア様(俺)の目の前で広がる純愛――マリア様(俺)は見ていますよ……。

 

 そんな風に二人に見蕩れていると、クレアがこちらに顔を向ける。

 その顔に浮かぶ表情に一瞬気圧されそうになる。

 なにか、強く決心した――そう覚悟完了と言った表情だ。


 思わず喉がなる。

 その小さな口から一体どんな言葉が飛び出すのか、と思うとひんやりとした恐怖が背筋を撫でた。

 こちらの覚悟が決まる前にクレアが――。


「マスター……使い魔である私たちがこのような思いを抱くのは恥ずべき事、いけない事と重々承知しております。ですが……新たな力を手に入れた今、この想い、この願いが以前より強く大きくなってもう……抑えきれないのです! ですから! どうか……私たちの願い――いいえ、()()()()を聞いていただけませんか――」



 それから彼女らが語った。わがままと言うにはあまりにも細やかな願いを。

 女の子……いや女性なら誰でも町に出かければしたいと思うだろう。そんなわがまま。

 しかも、それを俺と一緒に楽しみたい、とまで願ってくれた。

 

 俺は自分を恥じた!

 小さな女の子の細やかな思いにすら気付かず、己の欲望を最優先してしまった自分に!

 だが、それと同時に、こんな俺と一緒に楽しみを分かち合いたいと言ってくれた事が嬉しくてたまらなかった。

 恥と嬉しさに打ちのめされてる俺に追い打ちをかけるように、彼女たちは寄り添い手を取り合う。

 指を絡ませ強く握り合う二人。互いの目を見つめ、小さく頷き合うと――――

 

 「「おねがい……マスター」」



 愛らしくも儚い二重奏を聴いた俺は天を仰ぎ、叫んでいた。

 何度も何度も繰り返して叫んでいた。









 噴き出す想い、湧き上がる想いを世界にぶちまける様に――――。

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