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第24話 主人公の気分

「きゅうた……」


 五人のエルティアが姿を消し、一人に戻ったエルティアが呆然した様子で呟く。


 ベヘモスを拘束していたマナのロープも消え失せ、像のモンスターの巨体がズシンと力なく地面に倒れ込んだ。


「く……」


 ブルブルと震え出したエルティアは、その体からおびただしい量のマナを吹き出させた。


 周辺の小石や砂粒が浮き始め、エルティアを中心に渦を巻く。ブワリと長い銀髪が逆立つように浮き、立ち昇る青白いマナのうねりが洞窟の中を這いまわった。


 首を刎ねた眷属が、その蛇のようなマナのうねりに捕らえられ、ミシミシとその体を締め上げられてやがて消滅してしまった。


 バキン、と岩が砕ける音がした時、エルティアのマナが集束してまるで火柱のように立ち昇る。


「クウェイドーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 エルティアは憤怒の表情で倒れたベヘモスを睨みつけ、杖を頭上に掲げた。


「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!!!!」


 エルティアは、頭上に地上で使ったような巨大なマナの光球を生み出した。あんなものをぶっ放せば、こんな洞窟なんて一発で崩落だ!


『ストップストップストップ!』


 何者かが、エルティアの腕をつかんだ。


 エルティアがはっとして、その者の方に振り返るが、そこには首がない。


 その者の首は小脇に抱えられていた。抱えられた首から、焦ったような声色でエルティアを窘める。


『何してんだよエルティア様!俺ならちゃんと無事だから!』


「え……あ、あ」


 混乱しているのか、エルティアは要領の得ない生返事しか返せない様子だ。


 くそっ!何してんだよ!


「お前たち!いいからそこから離れろ!ぶちかますぞ!」


 俺は、インビシブルで透明化したままの状態で、エルティアたちに声をかける。あいつがいきなり首を刎ねられてちょっとビビったが、マナの状態は維持できている。いける!


 このまま瀕死の象の化け物を死体蹴りだ!


「――恐怖のメンヘラ幼女に撃たれ続けたこの超絶殺人魔法!いまこそぶっ放してやる!くらえ!――エクマハフォリア!!」


 魔法名を唱えた瞬間、手の平から白い閃光が輝き、体ごと揺さぶられるような衝撃と共に魔法が放たれる。


 体内のマナがごっそり削り取られるような感覚がして、膝から崩れ落ちかけるが、ここで倒れるわけにはいかない。


 俺の放った魔法は、白銀に輝く稲妻のようにベヘモスに迫り、その体に直撃する。


 ドオン!という衝撃音と共に、きらびやかな光の柱が、うす暗い洞窟の中に屹立した――








『気が進まない……』


「気が進もうと進まなかろうと、やってもらいますよ」


『ひでぇなあ、エルティア様……』


「頼むぞ、クソ人形」


『お前は黙れ。円盤全部へし折るぞ』


「なんだとてめえ!」


「自分同士で喧嘩はやめて下さい!」


 エルティアの変態部屋で作戦会議中の最中、俺と自立思考型魔導人形「ドール」が睨み合う。


 このドールは不気味なほど俺にそっくりで、行動や思考さえも完全に俺をトレースしているという。


 正直、こんな鬱陶しい口の悪い男が自分だということに軽いショックを受けたりもしている。同族嫌悪ということはよく聞くが、それと同じようなものなのだろうか。


「いいですか?とにかく、ドールには久太郎さんの身代わりを務めてもらいます。戦いの場では、久太郎さん本人はインビシブルで透明化して待機してもらうことになります。マナを練るのに専念してもらうためにです」


 気晴らしに教えてもらった透明化魔法を何かに使えないかと考えたところ、こういう運用方法が一番だと結論付けられた。まともな使い方がされてよかったです、などとエルティアはほざいていたが。


「俺はインビシブルで姿を消しながらマナを練っていればいいんだな?」


「そうです。ですが、インビシブルは不可視化魔法の中では下級なので、マナの気配を消すには至りません。ですので、ドールの存在を囮として、少しでも気取られるのを避けられるようにしたいんです」


『時間稼ぎ要員、萎える』


「頑張ってください。ちゃんとできたら頭をよしよしして差し上げますよ」


『よし、頑張る。俺の本気を見せてやるぜ!』


「俺が幼女にチョロイような感じになるからやめろよ!」


「良い心がけです。久太郎さんも見習っては?」


「ふざけんな」


 俺がジト目で見やると、エルティアはコホンと一つ咳ばらいをする。


「……ともかく、エクマハフォリアを使うのであれば、かなりのマナの精度と練度が必要となります。今の久太郎さんでも時間をかければそこまでもっていくことができるでしょうが……やはりその時間が問題となるでしょう。私が必ず守りきってみせますが、万が一ということもあり得ます。打てる手は打っておいた方がいいでしょう」


「俺が魔法の完成までにかかる時間は、今のところ三分ぐらい、だったな」


「そうです。久太郎さんにしては頑張った方ですが、正直、魔王の眷属との戦闘において三分というのはけっして短い時間ではありません。しかもあなたの場合、その場に立ったままマナを練るのに集中しなくてはいけない」


 俺はそう指摘され、頭をガリガリと掻いた。確かに、ちょこまかと逃げまどいながらマナを練る自信はない。


「いいですか?ダンジョンに転移後、すぐさまマナを練るようにして下さい。魔法の完成までにベヘモスをボコボコにしておきますので」


 そしてエルティアはクソ人形の方に顔を向けた。


「奴はドールを執拗に狙ってくるでしょうから、あなたは逃げに徹してください。いいですね?何があろうと、冷静さだけは失わないように」


 エルティアは、人差し指を振りながら念を押すようにそう言った――








「――なあんてこと言ってたのにな!」


 エクマハフォリアをベヘモスに放った後、呆然としていたエルティアに近づき、その頬をつついてやった。


「……」


 マナ切れで透明化が解けた俺の姿を見て、みるみる内にその顔を赤らめた。


「~~~~~!あ、あんなのを見せられて冷静でいられるわけ、ないです!」


 まなじりに涙を浮かべ、俺に抱き着いてきた。グスグスと鼻を鳴らしながら俺の腹を顔でグリグリしている。こんなところは、年相応の子供に見えるんだがな。


「まあ、何はともあれ、ちゃんと成功してよかったぜ」


 俺は、ベヘモスの方に目を向ける。


 魔法の効果は継続していて、純白の光の柱の中でベヘモスの体が地面に縫い付けられ、細かく震えていた。


 神聖波動魔法エクマハフォリア。


 光属性の派生である神聖属性の攻撃魔法だ。神聖属性は魔王の眷属には効果抜群だが、神からの祝福を受けた者にしか扱えない特別な属性らしく、実はエルティアにも扱えない。


 エルティアが俺に教えたのは、実際は光属性の波動魔法だったりする。


 完全には理解できていないが、なんでもただ属性が違うだけで、マナ振動波による攻撃という点でまったく一緒、だということだ。


 光属性を扱おうとすると自然に神聖属性が付与されるという俺の特性を知っていたエルティアは、魔核への攻撃が通りやすいという点も考慮してこの魔法を選択することにしたそうだ。


「お……魔法の効果が切れそうだ」


 白い光の柱が段々と細くなっていき、やがて消え失せた。後には、陥没した地面にうつ伏せに横たわるベヘモスの体だけが残される。ブスブスと煙を立て、ピクリとも動かない。


『やったか?!』


 などと、首なしクソ人形が分かりやすいフラグを立てにかかった。それと、どうでもいいけど、小脇に抱えられた自分の生首がしゃべっている光景はけっこうヤバイもんがあるな!


「おまっ!そういう分かりやすいフラグセリフはやめろよ!」


『分かっちゃいないな。もうそんなフラグなんて古いんだよ。これからは、さらに一歩進んで「やったか→やってた」がエンタメ業界では常識になる』


「まじかよ」


 ぐいぐいと自分の頭を首にくっつけながらそんな事をのたまう、不気味な生首人形の甘い見通し。


 ……だったらいいなー、なんて思っていた時期が俺にもありました。しかし現実は厳しい。


 エルティアが俺の服を強く掴み、真剣な声色でこう言ったのだ。


「……久太郎さん。今すぐマナポーションを飲んで下さい。そして、ここから離れて次を撃つ準備を」


 エルティアがそう言った瞬間、ベヘモスからおびただしい漆黒のオーラが吹き出し、ゆらりとまるで浮く様に立ち上がったのだ。そして、その体が突然変形を始め、四足の獅子のような体躯と大きな爪を持つ象頭の巨大なクリーチャーが姿を現した。


「やっぱりなーーーー!!!」


 よけいな事言うんじゃねーよ!クソ人形!


 俺はその場から脱兎の如く駆けだすと、腰に付けていたウエストポーチから消費したマナを全回復させるというマナポーションを取り出し飲み干す。


「ぐうっ!」


 まずい!という感じではないが、飲んだ瞬間に体にズシンと重い疲労感のようなものが襲ってきた。


 枯渇したマナを人為的に全回復させるというのは、かなりの荒療治らしく体に非常によくないとのこと。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。


 俺は十分に距離を取ったところで、荒く息をつきながらマナを練り始めた。ベヘモスは、長い鼻を不気味に動かしながら、その狂気じみた眼光でこちらを見ている。


 クソ人形の仕掛けのタネが割れた上に透明化魔法を使ったところで、マナの動きでこちらの存在は気取られてしまうだろう。


 だったら、エルティアを信じてここで最後の一撃への準備を整える!


「頼んだぜ……エルティア」


 準備が整うまで、およそ三分。


 この僅かな、そして長い時間を稼ぐべく、エルティアは俺を睨みつける巨大なベヘモスの前に立ちふさがった。


 マナポーションを飲み干しその瓶を投げ捨てると、凄まじい勢いでマナを練り始める。


 そのスピードはやはり俺の比じゃない。マナの活性化によってあっという間に銀髪化したエルティアは、恐ろしい大音声で咆哮しながら突進してくるベヘモスに対して杖をかざす。


「邪悪なる獣よ!深き愛の重みを知れ!――エクアスベヘナ!」


 突然、エルティアの正面、ベヘモスと背景の洞窟の姿がぐにゃりと歪んだ。そして次の瞬間、ドゴン!という空気が震える衝撃がしたかと思うと、ベヘモスが地面に叩きつけられ身動きが取れなくなってしまった。

 

 周囲の地面が次第に陥没していき、ミシミシとベヘモスの体が軋む音が聞こえてくる。


 見えない圧力で巨体を地面にめり込ませているベヘモスは、ひと際大きな咆哮を上げると漆黒のマナをその体から噴き出した。


「クロキイバラヨ、ツラヌケ――シルエドキルク」


「っ!久太郎さん!」


「え?――ぐはっ!」


 エルティアがものすごいスピードでこちらに飛んでくると、突然俺の腹にタックルをかましてきた。


 勢いそのままにエルティアとともにゴロゴロと地面を転がり壁に激突する。痛てえ!


「おい!エルティアいきなり何を――」


 後頭部を抑えながら文句を言おうとした時、俺は思わず息を飲んだ。


 エルティアの左腕からおびただしい血が滴り落ちていたのだ。


「お、お前」


「かすり傷です!いいから早くマナを練って!」


 エルティアは苦悶の表情を一瞬で隠し、すぐさま杖を支えに立ち上がると、ベヘモスに向かい合う。


 俺もベヘモスの方を向くが、目の前に光景に思わず目を見開いた。


 何本もの長い漆黒の茨が地面から生えていて天井を貫いていたのだ。先ほど俺が立っていた場所からも太い茨が突き出ていた。くそっ!エルティアはこれから俺を守るために……!


 いきなり、ドオン!という激しい音がして、壁からもその黒い茨が生え出てきた。ガラガラと音を立て、壁や天井から大小の岩が落ちてくる。


 まずい!このままじゃここは崩落するぞ!


「はぁはぁ……やってくれますね……まったく骨の折れる……!」


 エルティアは、荒く息をつきながら杖を構えた。体を覆う青白いマナの光が輝きを増す。


「二人の時間は甘く凍結する……!わが永遠をその場に閉じ込めよ!――エマクロニカ!」


 エルティアが魔法を発動したと同時に、怖さを感じるほどの静寂が辺りを包み込んだ。静寂、というだけじゃない。天井や壁から崩れ落ちた大小の岩石がピタリと空中で静止していた。


「こ、これは……」


「はぁはぁ……一定範囲内の物体の動きを止めています。生体には効きませんが時間稼ぎにはなるでしょう」


 荒い息をつくエルティアは、小瓶を取り出すとその中の液体を傷ついた左腕にかけた。イノシシのおっさんにもらった力水とかいう万能薬だ。これでとりあえずは大丈夫だろう。


 ホッと一息吐く間もなく、今度はベヘモスの周りに何匹もの眷属が再び現れた。小さな体を不規則に高速でバウンドさせ、様々な角度から俺を狙って突撃してきた。


「っ!――シルマハスクルト!」


 心象詠唱なしで咄嗟に撃ち出された複数の閃光の筋が、殺到してくる眷属たちを撃ち抜いていく。しかし、無詠唱の為に精度が下がったのか、二匹ほど討ち漏らしてしまい、それら眷属がこちらに高速で迫る。


「くっ!」


 エルティアは、白く輝く杖で一匹を刺突して跳ね飛ばし、もう一匹をマナのロープで絡め取って強引に横に薙ぎ、壁に激突させた。そしてすぐさま杖を高く掲げる。


「心を貫く愛の閃光!――シルマハスクルト!」


 再び同じ魔法を使って、二匹を確実に仕留める。しかし。


「ブモーーーーーン!」


 空気を震わせる咆哮が再びベヘモスから発せられた。巨大な前脚で地面をズシンと叩く。どうやらエルティアの魔法の効果が切れてしまったようだ。


 突然、ベヘモスは狂ったように頭を振り始めた。振り乱れる長い鼻がキラリと輝いたと思うと、空気を切り裂きながら何かがこちらに飛んでくる。


「!――マハフロスト!」


 咄嗟にエルティアが使った魔法が淡い黄色のバリアとなって俺たちの周囲を覆いつくし、正面から飛んでくる何かを弾いた。ガキン!と硬い衝撃音が耳に響く。


 ベヘモスから放たれるのは鋭利な刃物のような特徴を持つ衝撃波らしく、連発される衝撃波が着弾した壁や地面が半月状に抉れていく。怖すぎる。


 だが。


「久太郎さん!あなたが魔法を使う時、このマハフロストは解除しなくてはいけません!どうですか?いけますか?!」


 俺のマナの状態を見抜いたのか、エルティアがそう尋ねてくる。


「……いい具合に温まったぜっ……いつでもいける!」


 俺の言葉に、砂埃ですっかり汚れてしまったその顔を綻ばせるエルティア。改めて見ると、体の所々が傷だらけだ。


 ……中身はともかく、外見は小さな少女。そんな子をボロボロにした目の前の象の化け物と自分のふがいなさに心を燃やす。


「……エルティアをボコボコにしてくれた分、きっちり百万倍にして返してやる!いくぜ!」


 愛!これが愛なんです!とうるさいエルティアを無視して、俺はパスを激しく循環するマナに意識を集中し、突き出した両掌へと導いていく。掌が眩い白い光を放ち始め、その力の波動に心が高揚感に満たされる。


 ――心に因りて正しき理をもって現世に像を結ぶべし。事あるごとにエルティアが俺に言って聞かせる魔法の基本だ。今ならちょっとだけ分かる気がする!


「いいぞ!エルティア!」


 エルティアが頷き、防御魔法を解除した。エルティアがなおも襲いかかってくる衝撃波に対処するために杖を構えるのを横目に、俺は心象詠唱を始めた。


「……いたいけな小学生を傷物にしてくれたクソ事案野郎に鉄槌を!――エクマハフォリア!」


 俺の魔法が発動されようとした、その時。


『あぶ――』


「!?」


「久太郎さん!」


 突然、体が何かに押されてバランスを崩してしまう。体が横倒しに倒れかける体勢の最中、掌からエクマハフォリアが発動してしまった。


 まずい!と思った瞬間、右腕に激痛が走る。


「ぐわああああ!」


 そのまま地面に倒れ込んだ俺は、あまりの激痛に体をクの字に抱え込んだ。右腕に力が入らない。あまりの痛みに涙がにじんでくる。


 目から火花が出そうな激痛の最中、突然目の前に「俺の生首」転がってきた。


「!?」


『あーまたかよー』


「っ!……お、まえ……」


 涙がにじんでぼやける視界の中、目の前の俺の生首がニヤリと笑った。


『生きてるか?眷属が後ろからお前をザックリやろうとしてたから、とっさに助けてやったんだよ。感謝しろ。だけど……』


「……?」


 痛みで意識が朦朧とする中、俺の頭が誰かに抱えられる。


「久太郎さん!」


 俺の右腕に水のようなものが掛けられる感触がした。とたんに痛みがスッと引いた。おそらく力水だろう。違和感は残るが、傷はなんとか回復したようだ。マナ切れによる疲労感を感じながら、俺は体を起こす。


「大丈夫ですか?!」


 エルティアが俺の背中を支えながら顔を覗き込んでくる。


「あ、ああ。なんとかな。ベヘモスは……」


 ベヘモスの方に目を向ける。やはり……ベヘモスは健在だった。


 先ほどと同じように、魔法で生み出されたエルティアの分身たちがベヘモスを相手取って戦闘を続行していた。


「外した、か」


「……私のミスです。あなたの周囲にもっと気を配っていれば……。ドールがいなかったと思うとぞっとします」


 エルティアが唇を強く噛みしめ、悔し気にうつむいた。


「しょうがないって。必殺技を繰り出す時に邪魔をするようなお約束を守れないような奴を相手すると、な」


 よっ、と俺は立ち上がり、エルティアに手を差し出す。


「マナポーションをくれ。次こそぶち当てる」


 しかし、エルティアは首を横に振った。


「ダメです。マナポーションを一日に一瓶以上摂取するのは下手をすると命に関わります。残念ですが……ここは一旦出直しを」


「バカ言うなよ」


 俺はエルティアの提案を一蹴する。ここまでのエルティアとの戦闘を目の当たりにして、ベヘモスがどれだけ危険な存在なのかは嫌というほど分かった。


「悠長に明日まで待ってたら、どれだけ被害が出るか分かったもんじゃないだろ。お前だってずっとあいつの相手できるわけでもないだろう?」


「それは……」


 エルティアの苦し気な表情が物語る。ここで引けば、やはり多くの人間が死ぬことになるのだ。


「なら、やるしかないだろうよ。英雄的には、な」


 額に浮かぶ汗をぬぐいながら、そんなことを言ってしまう。


 こんなの、俺のキャラじゃない。恐ろしいのはイヤだし、痛いのも勘弁だ。すぐにでも逃げ出したいのに、俺はあんな化け物にまた立ち向かおうとしている。


 何なんだ、このテンションは。さっきの腕の怪我の後遺症で頭でもおかしくなったのだろうか?


「まあ、なんだ」


 俺は不敵な笑みを浮かべてしまう。空元気なのか何なのか、自分でも分からない。


「アニメの主人公のような気分を味わうのも悪くない、ってな」


 それを聞いたエルティアは、困ったような呆れたような、それでいてどこか嬉しそうに苦笑すると、マナポーションを取り出した。そして、それを俺の手にそっと手渡す。


「私の英雄クウェイド。……私はあなたを信じています」


 俺は頷くと、マナポーションを一気に煽った。



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