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第23話 死地

 転移した先は、周囲が岩壁に囲まれた洞窟の中だった。


 一般的な体育館よりも広いといった印象で、天井も薄暗いためにいまいち判別できないが、かなりの高さがあるようだ。


 銀座ダンジョン。その最奥の広間であり、先日ベヘモスと初めて対峙した場所だ。


 エルティアは、地上戦でベヘモスにある程度のダメージを負わせた時点で、ここにあいつが逃げ込むことを予想していた。


 それは過去幾度も重ねたベヘモスとの戦闘の教訓から導き出された必然の帰結なのだそうだ。


 それはつまり。


「ブモーーーーーーン!」


 ベヘモスの咆哮が空気を震わせ、その衝撃だけで崩れた一部の壁面からパラパラと破片が落ちている。規格外の力を持つ者には、この広間はあまりに狭く、脆い。


 この狭い空間こそがベヘモスの活路なのだと、エルティアは言っていた。


 ベヘモスの固有アビリティは絶対物理耐性。


 つまり、巨大な岩に押しつぶされようが、洞窟の崩落によって生き埋めになろうが、一切のダメージを負わないということだ。


 エルティアのような転移魔法の使い手ならそれだけでは脅威とはなり得ない。


 だが、俺のようにそんな高等魔法を扱えない者にとっては、この場所が戦闘の舞台だというだけで十分な脅威になり得るのだ。


 結果、やはりというか当然というか、ここでの戦闘の負担はエルティアが大部分を担うことになる。


「いいですか?!これからはこちらも手一杯になります!全ては作戦通りに。余力を残そうなどとは決して思わないようにして下さい!」


 言い終わらない内に、エルティアが再びマナを練り始めた。俺もそれに続き、慎重にマナを練り始める。


 しかし、敵が悠長にマナが練り終わるのを待ってくれるわけがない。


 すぐさま、ベヘモスが危険な殺意を体中に滾らせながら、こちらにその獰猛な爪を振り下ろさんと突進してくる!


 ――俺はエルティアに提案したことがある。


 ベヘモスと直接対峙する前、つまり転移前にマナを完全に練るだけ練ってから転移して、すぐさま必殺の魔法をぶち込めばいいのではないかと。これができれば、エルティアは瞬間移動ができる高火力砲台として無双できる。


 だが、それは却下された。


 不可能ではないが、実用的でないというのだ。体内のマナが極限まで活性化された状態で転移魔法を行うと、高確率でマナ酔いというような症状に襲われるのだそうだ。まともな戦闘を行える状態でいられないらしく、それはエルティアでさえ例外ではない。


 魔導師は敵前で「マナを練る」という危険な行為をせざるを得ず、その無防備の状態を、本来は前衛職がフォローするというのがセオリーなのだが、ここには俺という足手まといしかいない。


 つまり、エルティアは魔導師でありながら、自分自身と俺とを守る前衛の役割をも担わなくてはならないのだ。


「やらせるわけないでしょう!」


 エルティアが、白く輝く杖を盾にするように掲げ、ベヘモスの爪をその巨体ごと食い止める。その小さな体のどこにそんな力があるのか分からないが、一時はベヘモスの突進を止めることができた。


 しかし、その体力差はいかんともし難い。ベヘモスは筋肉が膨れ上がった剛腕でもって、エルティアの小さな体を跳ね飛ばした。


「くっ!」


 殺意の赤い眼光を湛えたベヘモスは、矮小なるオタのはかない命を無慈悲に刈り取らんと、上段から爪を袈裟懸けに振るおうとする。


「っ!させないと言っているでしょう!」


 その爪は、ひ弱な高校生の命を蹂躙する前にピタリと動きを止めた。


 見ると、エルティアから伸びる幾本ものマナのロープが振り上げられたベヘモスの右腕を絡み捕らえていた。


 しかし次の瞬間にはそのロープを掴んだベヘモスが乱暴に振り回し、小さなエルティアの体を洞窟の壁面に叩きつけた。さらに無造作に別の壁面へと繰り返し叩きつけ続ける。


 ドカンドカン!という激しい衝撃に洞窟が震えた。


 頭の上にパラパラと岩の破片が落ちてくる中、叩きつけられるエルティアの様子を目の当たりにさせられた俺は、思わず頭に血が昇りかけるが、エルティアの言葉を繰り返し思い出して辛うじて自分を抑える。


 時を待て。その瞬間に全てをぶつけられるよう、深く、速く、マナを練るんだ。


「ブモーーーーーン!」


 腕を絡めとっていたマナのロープが消えたのを見て取ったベヘモスは、すぐさまターゲットを、離れた場所に移動していた「俺」にシフトする。エルティアが稼いでくれている時を使って、距離を取り続ける。今はそれしかできない。


「ワレ、ネガウ。スベテヲヌリツブス、クロキホノオ――シルエドボロス」


 ベヘモスの周囲に幾つもの黒い炎が現れる。当たり前だが、その一つ一つが人を軽く蒸発させることができる程の威力を持っているはずだ。それどころか、一発でも周囲の壁にでも当たればこの場所が崩落しかねない。


 ベヘモスはその黒い炎を周囲に向かって放った。あまりに無造作に。しかし、一発は確実にか弱いオタにターゲッティングしているところがいやらしい。おもわず背中がヒヤリとする。


「出でよ純愛の幻影!――ウルシルマギス!」


 詠唱の声が聞こえた次の瞬間、銀髪のエルティアが「俺」の前に突如として姿を現した。


「!」


 驚くべきことに、それと同時に別の「五人のエルティア」が現れ、まき散らされた漆黒の炎それぞれの前に立ちはだかった。そしてさらに。


「「「「「「鉄壁の愛!――マハドーマ!」」」」」」


 その全てのエルティアが、マハドーマをその身にまとった。そして、殺到する黒い炎のことごとくをその身に受け、無効化してしまった。


 銀髪で現れたエルティアたちの様子を見て、思わずゴクリと喉を鳴らした。


 あれだけボコボコにされてほぼ無傷。


 しかもあの銀髪状態であるということは、エルティアはあの攻防の最中でも常にマナを練り続けていたということだ。


 それがどれだけ規格外であるかは、今の俺なら分かる。自分なら立ち止まったまま、しかもかなり集中しなければとてもではないが練ることはできない。


 六人のエルティアは間髪いれず、次の攻撃へと移るためにベヘモスの周囲に素早く移動する。


「捕らえます!」


 そして、それぞれからマナのロープが放たれ、それによってベヘモスの体をがんじがらめにした。


「「「「「「全てを灰塵に帰す焦熱の電撃!愛しき人を害さんとする愚か者を焼き尽くせ!――エクバハエギナ!」」」」」」


 バチバチン!と凄まじい電熱がマナのロープを伝い、捕らえられているヘベモスを襲った。


 バチバチバチバチバチバチィ!


 眩い閃光を放ちながら、ガクガクと四肢を痙攣させるベヘモス。全身から黒い煙を上げ、やがてマナのロープに捕らわれたままガクンと膝を落とした。周囲に焦げ臭い匂いが充満する。


「久太郎さん!今です!」


 一人のエルティアが大音声で俺にそう指示を飛ばした。


 き、来た!つ、ついに俺の出番だ!


 マナは練り終わっている。魔法のイメージもバッチリだ。後はきちんと手順を踏めば……大丈夫だ!やってやるぜ!


 マナのロープに拘束され、力なくうなだれるベヘモスを見やり、活性化している体内のマナを意識した。


 活性化したマナの流れは、激しい奔流となってパスを巡っている。その流れに逆らう事なく、徐々に両手へと導き、集中させていく。


 後は……正しく魔法をイメージする!


「轟け!恐怖の幼――」


 心象詠唱を始めた時、それは起こった。


「……ダ、モン」


 ベヘモスがかすかに何かを呟いた瞬間、どこからともなくピンク色のモンスターが突如として姿を現す。


「あ……」


 小さなピンク色の象。愛らしい姿のそのベヘモスの眷属は、その長い鼻を目にも止まらぬ速さで横薙ぎに振るい、あっという間に「俺」の首を刎ね飛ばした。



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