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第17話 復活

 あれ?ここはどこだ?


 ほの暗く青白い魔力照明に照らし出されたむき出しの岩肌。


 ひんやりとした空気につつまれたこの場所は、見渡す限り岩の壁でぐるりと覆われている。どうやらかなりの広さのある洞窟の中のようだ。


 なんでこんなところにいるのかと不思議に思いながらぼんやりしていると、耳元に焦ったような女の声が聞こえてくる。


「なにをしているんですかクウェイド!ぼんやりしないでください!」


 突然目の前に現れた大きな杖を構えた妙齢の銀髪美女がそう言ったと思うと、前方からドカン!と凄まじい爆音が聞こえてきた。


「ぐっ!?」


 爆風から身を守ろうと両腕を顔の前にかざした時、不意に俺は今の状況を思い出した。


 そうだ。今は戦闘の真っただ中なんじゃないか。それも魔王の眷属相手の気の抜けない戦いの最中だ。


 そうだった。何をぼんやりしてたんだ俺は。



「エルティア!俺はこれからマナを練る!他の皆と時間を稼いでくれ!」


 俺はそう指示すると、全身のマナを活性化させていく。少し時間をかけてじっくりマナを練らねばなるまい。なにせ相手は……


 俺は敵を見定めようと、キッと前を向く。しかしそこには。


「何をしとるか宮藤ぉおお!ちゃんとプロテクトかけんかぁ!」


 タンクトップ姿の変なおっさんがいた。


「ええええ!?」


 誰だよ!あれ!


 え!?いや、先生!?


 見覚えのある体育教師の姿に俺が混乱していると、隣からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「何をしてんのよ久太郎!私はもうとっくに練り終わってるわよ!?遅いわね!またあんたの負けね!」


 とか言いながら、すり鉢とすりこ木でなにやらごりごりとやっている女子高生。何してんだこいつ。


「久太郎!こいつは俺たちで!」


「足止めしてやるぜ!」


 メガネと亀頭型天パーのオタ二人が槍を手にしながらタンクトップおやじへと肉薄していく。


「謎の光スラッシュ!」


 メガネがそんな謎な技名を叫びながら武器を振り回す。すると突然おっさんの胸元と股間のあたりに斜めに光が走った。


 しかし何の効果もなかったようで、おやじはおもむろにメガネを張り飛ばし、そのままメガネは岩壁に激突してカエルのように伸びてしまった。


「くそう!これならどうだ!謎の湯煙ボンバー!」


 亀頭型天パーの頭の先からポッポッポッと謎の煙が断続的に撃ち出され始めた。どうでもいいが絵面が最悪!


 その撃ち出された謎の煙はおっさんの胸元と股間をこれまた意味なく覆い隠し、当然のことながらまったく効果がない。


 すぐさま反撃されて吹っ飛ばされた亀頭型天パーも、岩壁をピンボールのように跳ねまわり、最後にはメガネに重なる様に激突して昇天した。なにがしたいんだよ!お前ら!


「俺の仲間ってこんなのばっかだったっけ?!」


 何かがおかしい。いや、全部おかしいが、何がおかしいのかがよく分からなくなってしまう。


「クウェイド!」


 俺が混乱していると、背後から聞きなれたエルティアの声がして少し安堵する。


「マナを練るにはまだ少し時間がかかる!なんとか足止めを……」


 俺が振り返ると、そこには誰もいない。あれ?と思って視線を下げると、そこには愛らしい笑顔を浮かべた黒髪の少女がいた。手には赤い液体の入ったフラスコを持っていて……


「エ、エル……ティア、さん?」


 俺がゴクリと喉を鳴らすと、少女は満面の笑みを浮かべてフラスコを両手で捧げ持つ。


「お薬の時間ですよ?」


「う」


 うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!







 俺はハッと目を覚まして、ガバリと身を起こした。


 さっきまで見ていたのが夢だと分かってホッとため息をつく。夢見のせいか、全身にびっしょりと汗をかいていてジャージが肌に張り付き非常に不快だ。


 額の汗を袖で拭いつつ辺りをきょろきょろと見回すと、そこはエルティアの部屋だった……「例の」。


「……自分の写真やキャラ満載のグッズに囲まれながら寝るって……どんな羞恥プレイだよ」


 この意味不明の状況にげんなりしていると、ふと腰のあたりに違和感を覚えて布団をめくってみると……


「ああ……もう魔王なんてわりとどうでもいい……」


 とんでもないことをつぶやきながら俺にしがみついているエルティアがいた。


「なにしてんだ!この痴幼女!」


 ぺいっとエルティアを引き剥がしベッドの下に転がり落とす。


「な、何をするんですか!」


「こっちのセリフだ!いつも地味にとんでもないセクハラ仕掛けてきやがって!」


「セ、セクハラとか人聞きの悪い!私の超絶癒し空間に本物のクウェイドが寝ていることにテンションが上がってしまって、ちょっとだけくっついていただけじゃないですか!変ないたずらはまだしてませんしっ!」


「弁明にすらなってねえ!……てか、今、まだって言わなかった?お前」


 言ってません、と真顔で答えるエルティア。俺は深くため息をつくと、「で?」とエルティアをジト目で見やる。


「俺はなんだってこんなとこで寝てた?そこまでの顛末をまったく覚えてないんだが」


「魔力増強薬を飲んだとたんに気絶しちゃったので、寝かせておいただけですが」


「ひでえ!」


 薬飲んだだけで気絶ってどんだけだよ。その時の記憶すら飛んでるし。やっぱりヤバイ薬じゃねーか。


「毒か薬かって言われれば、どちらかと言えば毒に近いんですが……境目のギリギリのラインを攻めないと効果が限定的ですからね。何はともあれ、上手くいってよかったです」


「生死ギリギリのラインを勝手に攻められた俺の人権は?」


 俺は手を閉じたり開いたりしながら、マナの変化具合を確かめようとするが、いまいち実感がない。


「これ、本当にマナが強くなったのか?」


「元がアレなので劇的な変化というわけではないですが……それでも私たちの特訓に耐えうるだけの魔力総量は確保できたと思いますよ」


 エルティアはそう言って、いつぞやのリトマス試験紙を取り出してきた。


「さあ、これを咥えてみてください」


 俺は紙を咥えてしばらくしてから、色を確認してみる。前はくすんだ青色だった気がするが、今回は橙色に光り輝いていた。


「……どうなんだ?」


 紙をエルティアに差し出すと、それを見たエルティアは満足そうにうなずいた。


「よかったです。とりあえずゴミではなくなりました」


「微妙な評価だな!それ!」


 気絶までしてその程度の伸び率かよ。どんだけ弱かったの、俺のマナ。


「まあいいや。ちょっとは強くなったんならそれで――」


 そう言って俺がベッドから降りようとしたその時。


「――ぐっ?」


 床に足を付けようとしたはずなのに、踏みしめるべきものがそこにはなく。


 前のめりに倒れようとする体勢のまま、ぐるりと天地が逆さまになるような感覚が俺を襲い、俺はすっかり混乱してしまった。


 視覚と聴覚が遮断されて、暗黒の宇宙に一人放り込まれたような心持ちにされ、泣きたくなるような焦燥感が俺の胸をかき乱す。


(た、助け――)


 声にならない声を上げて、もがくように両手で宙を掻いた。


 ふと、何かが手に触れたような気がして、それを逃さないように触れた何かを胸に掻き抱くように引き寄せる。胸の中の何かの暖かな感触に俺は心底安堵した――


「き、久太郎さん……そ、そそそれはまだちょっと早すぎるというか……わ、私はいつでもウェルカムですが、さ、さすがに社会の常識的にどうなのかと思わくもないというかなんというか」


 突然元に戻った視覚と聴覚のせいで、今の状況を俺はすぐに正しく認識することができた。


 ベッドに座ったままの男子高校生が小学生女子を抱きしめている図。


 アウトアウトアウトぉ!


「何すんだこの痴幼女!」


「今回のこれは私のせいじゃないですよね?!」


 慌ててエルティアを離し、俺は汗ばんだ額を手で押さえた。妙な感覚はまだ少し残っている。なんだったんだ、今の……いや、ちょっと前にも同じようなことが……


「き、久太郎さん?少し顔色が――」


 エルティアが心配げに俺の顔を覗き込もうとした時、ふいに背後から妙な気配を感じた。


「っ!?」


 ぞくり、と背筋を気持ち悪いものに撫でられたかのような気分になり、思わずその気配のする方を振り返る。しかし、そちらには特に何もない……いや、俺のにこやかな笑顔が映し出されたポスターが貼ってある。


 これかよ。


 俺のポスターの方向から、妙にぞわぞわするような気配がするのは気のせいではない。退治しそこねたゴキブリにタンスの奥に逃げ込まれた時のような気持ちの悪い鬱陶しさを感じる。すげえな俺のポスター。


「久太郎さん……感じますか?この気配」


 見ると、エルティアがえらく深刻そうな表情で俺の腕をつかんでいた。


「あのポスターからだろ?やばいよな。我ながらこんな鬱陶しいポスターを見るのは初めてだ。今すぐ剥がして燃しちまおう」


「ポスターのせいじゃないですよ!ちょうどそっちの方角から気配がするというだけのことです。そしてこの気配は……」


 エルティアは、ぐっと表情を引き締めてこう言うのだった。


「ついに復活しましたよ。魔王の眷属の一人が。私たちの本当の戦いはこれからです」


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