第12話 しっぽ、ゲットだぜ!
なんとも言えないやるせなさを感じながら、俺は崖を降りて次のポイントへと向かう。
ぶっちゃけ、登りよりも、降る時の方が時間が掛かってしまい、降り終わって崖の下でへばっていた頃には、すっかり日が高くなってしまっていた。
体中が痛い……腹が減った……。
やる気もテンションもダダ下がりの中、俺は次なる目標『ヒフキトカゲの尻尾』について調べる。
曰く、
『とかげポケ……モンスターのしっぽ。しっぽはもえてないよ。ヒフキトカゲのからだは、とてもかたく、ぶつりこうげきは、ききにくいからちゅうい。わざ:ひっかき、たいあたり、ファイアーブレス』
……エルティアのやつ、絶対遊んでやがるな。
画像を見ると、世界最大のトカゲとの呼び声高い、コモドドラゴンそっくりだった。これ、ヤバいやつだよね?
もうどうやってエルティアさんに泣きを入れたら許してくれるだろうか、などと真剣に考えていると、近くから何やら言い争いの声が聞こえてきた。
こっそりと木の陰から様子をうかがってみると、埴輪の顔のようにも見える奇妙な木製の仮面を付けた二人の子供が向かい合って立っていた。子供たちの肌は緑色をしていて、葉っぱで編まれたパンツと毛皮のベストを素肌に羽織っている。ここ、無人島じゃなかったのかよ。
「今日こそ、決着つけちゃるきに!」
「そっちこそほえずらかくなや!」
二人の子供は、懐からなにやら玉のようなものを取り出して、地面に投げつけた。
「「おまんに決めた!」」
ボンッと煙が上がったかと思うと、突然、獣のうなり声が聞こえてくる。
「ウホホホホウーーーーー」「シャーーーーーーー!!」
煙が晴れると、二匹のモンスターが姿を現した。一匹はゴリラ。他にコメントしようもないぐらいゴリラ感満載だ。そしてもう一匹の方。
それは、あろうことか例の「ヒフキトカゲ」だった。
「行け!タロウ!『ファイアーブレス』じゃ!」
片方の少年が命令を出すと、ヒフキトカゲは大きく口を開けて火炎放射のように火を噴き出した。
なんか、バトルが始まっちゃいました。
「ゴロウ!『やせがまん』じゃあ!」
もう一人の少年の命令にゴリラが腕を顔の前でクロスさせて炎を受け止めた。周囲に焦げ臭い匂いが立ち込める。ゴリラの毛が燃えてチリチリになっていた。ゴリラは一つ大きく鼻から息を吐いて、ドンと胸を叩いてふんぞり返った。
あ、でもなんか涙目になってる。本当にやせがまんしてるだけのようだ。
「ふん!ヒフキトカゲの炎なんぞいくら食らおうともゴロウには屁でもないわぁ!」
少年の言葉に、ゴリラがブンブンと顔を横に振っている。本当はかなりつらいようだ。
「次はこっちの番じゃき!ゴロウ!『ぶんなぐり』じゃ!」
ゴリラは全身の筋肉を膨張させて、大きく右腕を振りかぶると、物凄い勢いで拳を振り下ろす。動きが緩慢なヒフキトカゲの背中にもろに拳がぶち当たった。
トカゲ死んだ、と俺は思ったが、ゴリラの拳の下でクの字に体を曲げながらも、反動を付けてゴリラの体が浮くぐらいの勢いで拳を跳ね返した。
「はーはっはっはっはっは!エテゴリラの『ぶんなぐり』程度、うちのタロウには蚊が刺したぐらいにしか感じんわ!」
そういや、石板の説明にも物理攻撃が効きにくいって書いてたよな。
しかし、当のヒフキトカゲは、少年の方に顔を向けてブンブン顔を横に降っていた。ゴリラと同じく、やっぱりかなりつらいようです。
「よし!タロウ、『たいあたり』で一気にケリをつけちゃるぞ!」
ヒフキトカゲがぐぐっと前傾姿勢になったかと思うと、地面を後ろ脚で蹴って弾丸のような勢いでゴリラの胸元に飛んで行った。ゴリラはみぞうちあたりにモロにヒフキトカゲの体当たりを受け、もんどりうって倒れかける。
「ゴロウーーー!」
ゴリラの主人の少年が悲痛な叫びを上げたが、ゴリラは口から泡を吹きながらも倒れかけた体勢を持ち直して、胸元のヒフキトカゲの尻尾をつかんだ。体中の筋肉を膨張させて、ヒフキトカゲの体を持ち上げるとそのまま地面に叩きつける。
ドカン!
ものすごい衝撃音がして、土煙が派手に上がる。
「タ、タロウー!」
ゴリラは勢いそのままに何度もヒフキトカゲを叩きつける。しかし、勢い余ったせいか、握っていた尻尾がスポンとヒフキトカゲの体から抜けてしまった。
尻尾を引き抜かれたヒフキトカゲは完全にグロッキー状態。ゴリラの勝利かと思われたが、ゴリラもついに泡を吹いて仰向けに倒れてしまった。
「ゴロウ!」
「タロウ!」
二人の少年は、それぞれのモンスターの元に駆け寄って、手にした小瓶の中から液体をドバドバと二匹のモンスターに振りかけ始めた。
どうやらそれは回復ポーション的なものだったらしく、モンスターたちはよたよたとふらつきながらも、体の怪我自体は回復しているようだった。ゴリラの焦げたチリチリの体毛も、トカゲの尻尾もすっかり元通り。
すげーな、あの薬。
「ふん、どうやら今回も引き分けじゃの」
「まっこと、しぶといやつらじゃ」
二人はふっと笑いあって握手をすると、それぞれのモンスターを引き連れて別れていってしまった。
なにこれ?
「……なんだったんだ、あのポ●モンバトルもどき。っと、それはそうと……」
俺は少年たちが立ち去った後に残された、ヒフキトカゲの尻尾に注目した。
「あれ、もしかしなくても、目的の素材の一つの『ヒフキトカゲの尻尾』だよな……?」
俺はきょろきょろと辺りを見回して、誰もいないことを確かめると、尻尾にゆっくり近づいた。
「まあ、なんかよく分からんけど、とりあえずラッキーだったということで」
二十センチはあると思われるヒフキトカゲの尻尾を持ち上げると、やはりずっしりとした重みがある。
何はともあれ、素材ゲットだ。これで残すはあと一つ……
「ありゃ?なんじゃ、おんし、ニンゲンか?」
「!」
突然背後から声を掛けられ、俺はビクっと肩を震わせた。
恐る恐る後ろを振り返ると、さっきの少年が首をかしげながら立っている。そのすぐそばには尻尾がないヒフキトカゲが。
「ちぎれた尻尾忘れたきに、取りに戻ったけんど……おまん、それどうするがじゃ?」
埴輪のような仮面のせいで、少年の表情がうかがい知れない。首をかしげている様子がかなり怖い。
「い、いやあ。別に盗む気とかないんだ。これ、薬の材料になるっていうから取りに来ただけなんだけど……ひょっとして……ま、まずかったりした?」
「クスリ?タロウの尻尾がクスリになるがか?ふーん。まあ、ええがよ?タロウの尻尾は、すぐに生え替わるきに」
「い、いいのか?悪いな。そりゃ助かるよ」
少年は意外にあっさりと尻尾を持っていくのを認めてくれた。頭の後ろに手を組んで、こちらを大して警戒する風でもない。しかし。
「おい、タロウ。おまん、何興奮しとるがじゃ」
少年の隣にいるヒフキトカゲのタロウが俺の方をじっと見ながら、前脚と後ろ脚で土を掻く様にせわしなく交互に動かしていた。なんか、明らかに俺に敵意を持っているような雰囲気。
案の定、次の瞬間には急に前傾姿勢になり、後ろ脚を大きく蹴ってこちらに向かって体当たりをぶちかましてきた。
「うお!?」
「タロウ!?」
俺は咄嗟に身をかわし事なきを得たが、タロウが飛んで行った先にあった結構な太さのある木がぶつかった衝撃でえぐれてしまい、メキメキと音を立てながらドスンと倒れてしまった。
やばすぎるだろ!あの体当たり!
「お、おい!なんだよいきなり!あのトカゲなんとかしてくれよ!」
「わ、わかっちゅう!タロウ!おまん、どうしたがじゃ!やめんか!」
しかし、タロウは主人のいう事を聞かず、俺に向かってファイアーブレスをかましてくれた。
「やべえ!」
最近は常にプロテクトを張るように心がけていたので、直撃を受けても多少は耐えることができるかもしれないが正直心もとない。なので、ここは全力で回避させていただく。
迫る炎を横っ飛びして回避すると、前転してからすぐさま体勢を整える。
ファイアードッジの時も思ったが、俺は回避能力に関しては結構イケてる方なのかもしれない。逃げ足と回避は俺にまかせろぉ!というのはいかにも情けないんだが……
タロウは口元にゆらゆらと火を灯しながら次の攻撃の機会を狙っているようだった。このままでは黒こげにされちまう。
俺は腰に括り付けた風呂敷に差してあったナイフを抜き、刀身にマナを通す。それを見た少年が、慌てたようにタロウと俺の間に立ちはだかった。
「ニ、ニンゲン!ちくと待ってくれ!タロウは人を襲うような悪い奴じゃないんじゃ!」
「思いっきり襲ってるじゃねーか!いいから、大人しくさせてくれよ!俺だって人のペットに攻撃なんてしたかないよ!」
「わ、わかっちゅうが……ほ、ほれ!タロウ大人しくしや!」
少年が、のそりのそりと俺に向かって歩いてくるタロウの首にしがみついて動きを止めようとするが、一向に言う事を聞く気配がない。
「なんでじゃ!おいニンゲン!おまん、タロウに何かしたんじゃないがか!?」
「知らねーよ!というか、そんな火を噴く巨大トカゲに出会ったことなんて、これまでの人生で一度もねーよ!」
あ、そういえば、火を噴く巨大犬には出くわしたことがあったな……もうやだこの世界。
タロウは、少年を引きずるようにしてこちらに向かってくる。これはヤバい。尻尾も手に入ったことだし、ここはとっとと逃げ出すことにしよう。
そんなことを考えていると、少年が「あっ」と俺の方を見て声を上げた。いや、俺というより、俺の背後を見ているようだ。
「え?」
振り返ると、そこには大きく腕を振りかぶった、巨大ゴリラの姿が。
「いけえゴロウ!『ぶんなぐり』じゃあ!」
眼前に迫ってくる、巨大なゴリラのこぶし。
あ、死ぬ。
そんなことを思った次の瞬間、俺の意識はぷっつりと途切れてしまった。




