異世界へ召喚されし勇者達、迷宮の入り口に立つ
時系列が一気に飛んでいます。
ご注意下さい。
「我が召喚に応え、この世界を魔王達の手より救うべく立ち上がった勇者達よ! 遂にこの日がやって来た!!」
500名を越すであろう勇者と呼ばれた者達が、思い思いの格好で壇上に立つリヒューズ王国第一王女の声に耳を傾ける。
勇者と呼ばれるに相応しい、重厚な鉄の鎧を装備した者。
動きやすいようにか、際どい水着姿で豊満な肉体を見せつけるようにその場で跳ねる者。
真っ赤なドレス姿に、網タイツとピンヒールを合わせた者。
『1ねん1くみ いしや ちさと』というゼッケンを付けた体操服姿の者。
黒を基調とした着物姿で統一し、存在感を示す集団。
皆、首元に同じデザインの金色に光るネックレスをしている。
第一王女の話を静かに聞いてはいるが、今か今かと待ちきれない様子でそわそわする者も多く見られる。
「これから皆に挑んでもらう迷宮には4体の魔王が潜んでおり、魔王へと続く道中にはボス部屋と呼ばれる場所が存在する。
また、ダンジョンへ入ってからは魔王の眷属たる魔物達がそなたらの前に立ちはだかる。
どれも勇者達の力の源泉たるネックレスを奪わんと、襲い掛かって来る事だろう」
勇者達が自分のネックレスを握り締める。これを失ってはダンジョンから生きて帰って来れなくなる。
真っ白なドレス姿。長く伸ばされた銀色の髪の毛は風に遊ばれて宙を舞う。
大きな銀色の杖を掲げ、第一王女は勇者達への言葉を続ける。
「つい先ほど入った斥候からの情報では、神出鬼没である魔王サタンの存在が確認されたとの事である。奴は決まった根城を持たず常に居場所を変える、故に神出鬼没。
彼の者の姿を捉えたならば、悪い事は言わぬ。すぐに来た道を引き返す事を勧める」
ざわつく勇者達。魔王サタン襲来に対する動揺か、それとも歓喜か……。
聳え立つダンジョン、未だ閉ざされたままのその入り口を見つめ、不適な笑みを浮かべる勇者達。
「モンスターは言葉巧みにそなたらを誘惑する事であろう。しかしその誘惑を振り切って、上へ上へと歩を進めよ!
最上階にいるであろう魔王の誘惑を見事振り切りこの世界を救った勇者には、伝説の秘宝『指名したプレイヤーとの1日デート券』を褒美として授ける!!」
うおぉぉぉ~~~! 勇者達が吠える。地面を踏み鳴らし、自らを鼓舞するように叫ぶ。
「なお、デート費用はこのリヒューズ王国が持つ! 遊園地デートに行きたいか!?」
うおぉぉぉ~~~!
「日帰り温泉旅行へ行きたいか!?」
うおぉぉぉ~~~!!
「1本のポカルを2人で分け合いたいか!?」
うおぉ……、「それはアンタでしょう!」 と口々に野次を飛ばす勇者達。
コホンっ、と咳払いをして第一王女が続ける。
「とにかく! 何があってもネックレスをモンスターに渡さぬよう、しっかりとお断りしつつ上を目指しなさい。
さて、これより出陣する順番を決めるべくくじを引く。ネックレスにはめられた宝石の種類で4つの班に分けられているのはすでに承知であろう。くじをここに!」
トコトコと、第一王女と同じく銀髪に真っ白なドレス姿の第二王女が小さな箱を持って壇上に上がる。
歳の頃は15・6ほどか。第一王女よりも小柄である第二王女が、整った顔を無表情のまま第一王女へと箱を向ける。
「それでは第一班を決める。
第一陣は……、アメジスト! 紫の宝石がはめられたネックレスを持つ勇者達よ! そなたらが第一陣である。
ダンジョン突入は今より15分後、先にお手洗いを済ませておくように」
喜びの雌叫びを上げる者、ため息を付き悔しがる者、トイレへと急ぎ走って行く者。様々な反応の中、第一王女は続けてくじを引いて行く。
「続く第二陣はアクアマリン。第三陣はエメラルド、最終陣はルビーである。青・緑・赤の宝石がはめられたネックレスの持ち主は今しばらく待機。観戦用の魔道モニターの前に椅子を用意しているのでそちらへ移動するように。
こほんっ。
此度のダンジョン攻略を支援してくれている宮坂製薬様よりポカルやその他飲料を提供して頂いているので、必要な際は各自ブースへ受け取りに行って下さい。宮坂製薬様、ありがとうございます」
またも勇者達が「世界観を大事にしろ!」 「ポーションとか言い方があるでしょう!」 などの野次を飛ばす。
「え~、事前に説明がある通り、このダンジョンは入れ替え制ではなく随時追加投入制となっている。第一陣が想定よりも早く人数が減った場合、予定を前倒しして第二陣の突入を開始する為、あまり遠くへは行かないように。
屋台で売っている飲食物はダンジョンの中への持ち込み禁止、必ずダンジョン突入前に食べ切るか飲み切るかしておくように。また、ゴミは指定の場所へ捨てて下さい。
手荷物はコインロッカーへ入れておいて下さい。貴重品は必ず携帯するように。
ダンジョン内の写真撮影は構いませんが、動画撮影は禁止です。発見次第失格とさせて頂きますので、ご協力をお願い致します。
あ、SNSへ投稿の際はハッシュタグ『リアルダンジョンなう』を付けて下さいね」
第一王女が手元の羊皮紙を見ながら注意事項を読み上げて行く。
そしてペコリと頭を下げたすぐ後に、王女達の後ろにある巨大な魔道モニターが明滅し、あろう事か魔王サタンの姿が映し出された。
「フハハハハハ! 愚かなる勇者達よ、このダンジョンへ足を踏み入れたが最後、無事にお断り出来ると思うなよ!!」
キャーーー! と勇者達より黄色い声が発せられる。魔王サタンの魔法に当てられたのか、中には顔を赤くする者までいる。
「我の居場所を特定した者達は魔界の饗宴でもてなしてやろう。
我を見つける事が出来るかな、フーハハハハハハ!!」
しかしこの魔王、ノリノリである。
キャーキャーと叫び静まらない勇者達に、第一王女が呼び掛ける。
「気をしっかりと持つのです、選ばれし勇者達よ! そなた達はただ上を、最上階を目指すのです。
ダンジョン内に置かれた案内看板を辿って、魔王サタンのライブ会場へ行ってはいけませんよ!!」
「ライブ?」 「え、紗丹君が歌うの?」 「え、マジで?」 「そう言えばスペックスにゲリラライブの告知ポスターが貼ってあった……」 「デートを取るか、初ライブを取るか、それが問題だ……」
第一王女の声掛けにより一層動揺を見せる勇者達。
そこへ、それまで沈黙を保っていた第二王女がポツリと独白する。
「ライブは第四陣突入後以降。いい席を取るには早めに会場に向かった方がいい」
ざわつく会場がシーンと静まり、勇者達が互いの様子を窺い合う。
同じ選ばれし勇者とはいえ、パーティーではないのだ。協力などせず、場合によっては襲い来るモンスターへの生贄にする算段まで持つ者もいるだろう。
伝説の秘宝はそれほどまでに彼女達を魅了する。しかし、普段は断られる事しか出来ない彼女達がモンスターからの誘惑を断ち切る事が出来るのであろうか……。
未だ心づもりが出来ていない勇者達に対して、さらに煽り追い立てるような第一王女の発言。
「魔王4体と魔王サタン、合わせて5体の魔王達であるが、もちろん伝説の秘宝も5名分しか存在しない! 魔王は一度討たれると復活するのに1年掛かる。
そしてもう1点!! 伝説の秘宝を用いて指名出来るプレイヤーは重複を禁ずる。
つまり、先に魔王を倒した勇者と同じプレイヤーは指名出来ないのでそのつもりでいるように」
うおぉぉぉ~~~!!! 再び勇者達が足を踏み鳴らし肩をいからせ、今か今かと士気を高めている。
「それでは……、先遣隊として王国より招集されしネックレスにダイヤモンドがはめられた勇者達よ!
突入の時間である。前へ進み出よ!」
ゆっくりと第一王女の前へ進み出る5人の勇者達。
1人は全身を黒のラバースーツで包む者、まるで女スパイのような出で立ちの勇者。
1人はやや紫みを帯びた鮮やかな青の着物姿の妙齢の勇者。
1人はオフィス街からそのまま転移させられたようなスーツ姿の勇者。
1人はテンガロンハットを被ったカウガール姿の勇者。
1人は現実世界では有り得ないようなピンク色でタイトスカートのナース服姿の勇者。
5人が壇上前で跪き、第一王女の命を待つ。
「そなたらは天が選びし勇者の中の勇者! その働きには大いに期待している。
後に続く者達の為に道を拓き、皆を導くのだ!!」
「何で第一陣の前に突入するのよっ!?」 「え、プレちゃんの管理人以上にVIPな人達なの?」 「ポカルのシール集めて応募したけどかすりもしなかったわ」 「あれ? でも当たりは3人だけじゃなかった? 5人いるけど……」 「スペックスの自販機に当たりが入ってたらしいよ」
5人の勇者達がダンジョンの入り口前へと移動する。
空には魔導ヘリコプターが旋回し、魔導カメラで会場を撮り、魔導モニターに上空からの映像が映し出される。
魔導ワイプには魔導アナウンサーが魔導実況しており、魔導生放送で魔導報道番組にて魔導生中継されている。
『もう間もなく朝の10時になるというところ、先遣隊として当選した5人のアクトレスがダンジョン入り口に移動しました。もう間もなく、もう間もなくダンジョンの入り口が王女殿下お2人の手によって開けられようとしています! 今、お断り屋業界の歴史の1ページに、リアルダンジョンという一大イベントが記されようとしています!!
何で私は会場にいないのか!? 何で空から実況なんてしているのでしょうか!!?』
『橋内さ~ん、しっかり仕事して下さいよ~。それにしても夏川さ』
魔導モニターの画面が切り替わり、ダンジョン入り口が映し出される。
入り口の両サイドに王女達がそれぞれ立ち、目を閉じて魔法の杖を両手で掲げて呪文を唱えている。
その姿を遠慮なくバシバシ魔導スマホで撮影する待機中の勇者達。すぐに魔導SNSに魔導ハッシュタグ付きで魔導アップされる。
そんなイベント開始数分前。イベント運営本部にて宮坂三姉妹がずらっと並んだモニターを確認しながら指示を飛ばす。
『モンスター並びに魔王の皆様、もう間もなくダンジョン入り口が開かれます。所定の位置について待機して下さい』
『繰り返し通達します、体調不良者を発見次第すぐに本部へ連絡する事。プレイの可能性があったとしてもとりあえず連絡を先にする事を徹底して下さい』
「いよいよアナタの立案したリアルダンジョンが始まりますねっ!!」
興奮した様子の瑠璃が、魔王姿の優希に抱き着く。
「あぁ、ここまで長かったな……。ちょっと寝ていいか?」
かなり疲れた様子の優希。先ほどのハイテンションはどこへ行ったのか。徹夜明けのナチュラルハイだったのであろうか。
「ダメよお義兄ちゃん! ライブの前にも出番があるんだから」
紗雪がモニターから目を逸らさずにそう言って、さらにダンジョン内へと指示を出す。
「昨日のリハーサル、遅くまでやっていましたもんね。それで今朝のドッキリ企画の為に早起きして、アクトレスに追いかけ回されて……」
牡丹が優希の頭を撫でて、心配そうに顔を覗き込む。自分が今朝の大食堂での企画を立てただけに、優希の様子を心配しているようだ。
「あの企画はいらなかったぞ、牡丹。かくれんぼじゃない、あれは鬼ごっこだ……」
瑠璃に抱き着かれたまま、優希は目を閉じて意識を持って行かれそうになっている。
「ほらお義兄ちゃん! 夏希と姫子ちゃんの呪文がそろそろ終わるわよ!!」
そしていよいよ、長い準備期間をもって用意された大型イベント、お断り屋協会主催『お断りリアルダンジョン』の入り口が開かれる……!!!
しかし、しかし!!
長い準備期間に何かあったのか、どのように問題を克服して行き、今日この日を迎えたのか、今しばらく説明が必要である。
優希と嫁達のイチャイチャした日常、初めての夜、奴隷の成り上がりはあるのか……。
他に嫁は増えるのか、優希の俳優業は如何に。ライブで歌う曲は!?
お断り屋協会主催イベント『お断りリアルダンジョン』へと続く様々な物語に触れてから、本当の入り口は開かれる……。
次話より時系列を一気に戻します。
ご了承下さい。




