経営者として
道子さんとの電話の後、瑠璃と牡丹に声を掛けると、瑠璃の実家での自室へと案内された。
女の子らしい部屋だが、本棚にはラノベがびっしりと詰め込まれており、タイトルから瑠璃の嗜好をやすやすと想像出来るようになっていた。
世界有数の資産家のお嬢様のお部屋なのに、ここだけ場違い感が半端ない。
用意されたクッションに座り、瑠璃と牡丹を正面に見据える。
話の内容は分かっているのだろう、2人もじっと俺の目を見つめて俺が話し出すのを待っている。
まず、俺の方から謝らないとな……。
「瑠璃、牡丹、偉そうな事を言って済まなかった。ハーレムの主として正妻権限を停止するとか言ってしまったが、そもそも俺自体が瑠璃や牡丹に甘えてばかりだった。
何一つ俺がしていない状況で、2人に任せきりなのにも関わらず俺が2人に何か言う資格なんかなかったんだと気付いた……。申し訳ない」
そう言って頭を下げると、2人が慌てて俺を止める。
「止めて下さいアナタ!
……、私が基夫さんの時の苦い経験を活かせていなかった事が悪いんです。確かにアナタを私達の都合で振り回していた、それを今回の騒動ではっきりと自覚しました。
役員だ株主だと、舞い上がってしまいアナタの望んでいない事まで押し付けてしまったんです。
一言相談していれば良かったですね……」
「私もごめんなさい、度が過ぎてしまいました。どうしても優希さんを逃がしたくなかったというのが私の本音です。
……、私も瑠璃ちゃんの経験を間近で見ていたハズなのに、同じ事以上の事をしてしまっていました。でも、それは優希さんだからです。ハーレムの主が欲しかったわけじゃないの!」
お互い謝り合う俺達。それぞれ本音を言い合ういい機会かも知れない。
「俺にとってハーレムって、俺が中心だとかいうものじゃないんだ。みんながみんな、ハーレムの中心と言えばいいんだろうか……。
俺の為のハーレムではなく、みんな1人1人の為のモノだと思ってると言えば伝わるだろうか。だからこそ、誰かが辛い思いをするのは嫌なんだ」
俺が率先して作ったモノではないからこそ余計に、誰かの都合で誰かが振り回されるのは嫌だ。
俺の知らないところで俺を役員だとか、株主だとか、俳優にするだとか、どんどん話が進んでいるのに抵抗を感じていた。
身の丈に合わないステージに無理やり引き上げられている状況に、戸惑っていたんだ。
「この短期間で、フリーターという俺のお気楽な立場から社会的に責任が付きまとう経営者としての立場へと押し上げられた。そこに俺の意思とか、決意とかはなかった。
流された結果とはいえ、流された結果を受け入れるのであれば俺は自分で何かを学び、これからどういう視点で物事を考えなければならないのかと意識を変えるべきだった。
それすら2人に任せっきりで、立場を与えられたまま変わろうとしていなかったな」
「いえ、それは私達が悪いんです。言い辛いですが……、立場を用意するだけで、優希さんに何かしてもらおうとは、思っていなかったかも知れない……」
やはりそうか。俺が経営者としてのお飾りの椅子に座っていれば、瑠璃と牡丹としてはそれで良かったんだろう。
「でもアナタはスペックスの現状を見た上で、改善すべき点を提案して下さり、そして新たなサービスや大きなイベントの提案もして下さった。経営者としての資質はあります。
ただのお飾りで良いだなんて、私達は思っていませんよ」
そう言って瑠璃がほほ笑む。
でも、資質があったとしてもお断り屋という事業を進める力があるとは言えないんだよな。
今日賢一さんとの話の中で、俺はお断り屋業界の事を知らないままプレイヤーとして働いているのに気付かされた。
お断り屋業界の規模はどれくらいなのか、スペックスの年商はいくらなのか、売り上げに対する利益はどれくらいなのか、知らないどころか意識すらしていなかった。
経営者になりました、はいそうですかで止まってしまっていた。流されてそのままふわふわと浮いていただけなのだ。
「俺は経営者という立場を与えられた以上、スペックスとお断り屋業界が今どのような状況なのかを積極的に知っていこうと思う。経営者として何を知る必要があるのか、何を考えなければいけないのか、俺は全然分かっていない。
だから、色々と教えてほしい。よろしくお願いします」
頭を下げた瞬間、対面した2人が俺に飛び掛かるように抱き着こうとするのを手で止める。
勢いを殺し切れないで床に頭を打ち付ける2人。避難の声を上げている。
「何で止めるんですか!? 今の場面は抱き合って愛を確かめ合うところでしょう!?」
「そうですよ! 私達がどれだけ優希さん成分が足りてないか分かってるんですか!?」
そうやって自分達の欲望を俺に押し付けるのを止めろっていうのまでは伝わっていなかったようだ。
「こうやっていつも嫁達からのお誘いで事が始まるわけだけど、それも流されていると言っていい状況だと思うんだ。俺は1人で複数の女性を満足させられるほどの経験も自信もないから。
ハーレムだから3人4人が当たり前ってのも違うと思うしさぁ」
「それでも今私達はアナタを求めてるんです、たまたま私と牡丹のタイミングが合っただけでハーレムだから複数であるべきだという固定概念からではありません。
せっかくこうしてさらに分かり合う事が出来たんだもの、さぁ早く私達を抱きなさい!!」
大きく手を広げて待ち受ける瑠璃。興奮し過ぎて口調が変わっているぞ。
隣で牡丹も鼻息を荒くして頷いている。
さてどうしたものか。
このままいつも通り状況に流されて3人で愛し合うのもダメなわけではないのだが、何となくそれでは面白くない。
ギラギラとした目つきで俺を見つめる2人、ちょっと焦らしたい。焦らしてさらに煽りたい。
俺は大きく欠伸をしながら立ち上がり、瑠璃のベッドへと歩いて行く。
「さすがに今日は疲れたよ。ちょっと横にならせてくれ」
そう言って大きなベッドへ入り、横になる。
ため息を付きながらも、眼鏡を外して牡丹が隣に寝転ぶ。
おあずけをくらい、瑠璃は不服そうにブツブツ言っているが今は放置。
もぞもぞと寝返りし、少しずつ牡丹へと近付く。さも自然に当たったかのように身体に触れる。
俺の意図に気付いたのか、牡丹が俺の頭を優しく撫でて来る。瑠璃はまだ気付いていない。
掛け布団の中で、だんだん大胆になって行く俺の手付きを感じ、牡丹が甘い声を出す。
「あっ!! 何で私だけ除け者扱いなんですか!!?」
あ~あ、バレた。
瑠璃が勢いよくバッ! と掛け布団の中を暴く。乱れた服装の牡丹が俺に抱き着く。
「もう瑠璃ちゃん! 今は正妻の目を気にしつつ愛人と楽しむプレイでしょ!?
これじゃあ浮気がバレた修羅場プレイになっちゃうじゃない!!」
「えっ!? そうなの、ごめんなさい空気読めない事をしてしまって……。
ってそれじゃぁ私はただの脇役扱いじゃない! 浮気がバレてそのまま3人でプレイに路線変更よ!!」
まぁ結局いつも通りになるのでした、チャンチャン。
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