ハーレムは誰が為に
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
当然のように身体を美少女メイド紗雪にシャワーで流してもらい、そのまま湯舟に浸かっている俺の隣へと座る瑠璃。何か言えよ。
瑠璃も紗雪も口を開く事なく、マーライオン的なモノから流れ出るお湯の音だけが聞こえる。
何で俺が気まずい思いをしないといけないのか……。
「はぁ……、今日の事で何か話したい事があるのか?」
瑠璃に問い掛けると、今まで天井を見つめていた目がこちらを向く。
俺の目を見つめ、少し考えてから瑠璃が口を開く。
「はい、実はハーレムについて考えてみろと言われ、そして今日の基夫さんとの再会で、私は自分の考えていたハーレム像が世の男性の喜ぶそれとは違うのだろうかと思うに至りました」
「それがまず違うと思うぞ。男ならば誰もがハーレムを望むだろう、その考えが違う。基夫さんはただ1人、瑠璃さえいればそれで良かった。さっきそう言ってたよ。俺もその想いは理解出来る。
男なら綺麗で可愛い女性達に囲まれるのが嬉しいんでしょ? ってのがズレているんだよ」
俺も基夫さんも、ハーレムを望んでいたわけではない。
ハーレムに組み込まれようとしたところから逃げ出した基夫さんと、流されて何となく状況を受け入れた俺。
違いを挙げるのなら、1人の女性を愛していたかどうかだろうか。
もし俺がその時点で夏希と付き合っていた過去を思い出していれば、決してハーレムを受け入れる事はなかったと断言出来る。
そもそも思い出していれば夏希と離れ離れにはなっていなかっただろうし。
「可愛くて綺麗な女性に囲まれるのは嬉しい。でも全員の想いに応えられるか、というのは別問題だろう。
特に俺のような特別自分自身に自信を持っているわけではない男。そして1人の女性に認められたいと突っ走って来たような男もな」
「基夫さんが、私に認められたいと思っていた、という事ですか……?」
まだイマイチはっきりと理解が出来ていないようだ。
どう言ったら伝わるだろうか。すばりと切り込んだほうが分かりやすいか?
「じゃあ瑠璃、俺が抜けて基夫さんがハーレムの主に交代するとする。
今までのように同じくハーレムは続いて行くか?」
「あり得ません! アナタ以外の人をハーレムの主にするなど、絶対に無理です!!
まさか私達の愛を疑っているんですか!?」
「いやいやいや、俺は全く疑ってないし、俺の事を好きだと思ってくれている事はよくよく分かっている。
ただ、それが基夫さんの時にもそう思っていたか、という話だよ」
今俺が誰か1人を選んで、そしてその人と2人でどこか遠くへ逃げたとしたら。
瑠璃は間違いなくどこまでも追い掛けて来るだろう。絶対に逃がしてくれないと思う。
けれど、自分から逃げ出した基夫さんを追い掛けなかった当時の瑠璃は、今の瑠璃と何が違うと言うのだろうか。
歩いて10分の場所にライバル店を作って待っていたじゃないか。瑠璃が1人で迎えに来るのを。
「基夫さんは私の前から去りました。スペックスもまだ大変な時期でしたし……。
そうですね、何故私は基夫さんを追い掛けなかったんだろう……」
そうだな、まずそれを突き詰めて考えなければならないと思う。
そして自分がどれだけ3人に酷い事をしようとしていたのかを自覚するべきだ。
「その時の瑠璃にとって一番大事だったのは、基夫さんか?
スペックスか?
それとも、ハーレムか?」
「…………」
「大学で声を掛けて来たのが基夫さんでなくとも、プレイヤーになってほしいと頼んだか?
4人でのデートを申し出たか?」
「旦那様……」
「家具は黙ってろ」
「いいのよ紗雪……、確かに私は基夫さんを見ずに自分の思い描くハーレムに当て込める人物かどうかを重きに考えていたのかも知れません。
それは……、基夫さんに大変失礼な事ですよね」
「それだけじゃない。自分すら好きでもない基夫さんへ、牡丹と紗雪を差し出そうとしたんだ。
分かるか? 基夫さん含め3人は好きではない者同士くっ付けられ、ハーレムごっこに付き合わされそうになったんだ。
牡丹も紗雪も乗り気ではなかった。基夫さんが誠実な人だからこそ、自ら身を引いてハーレムをなかった事にしてくれた。
基夫さんではない別な人間だったなら、牡丹と紗雪の心はズダズタになっていたかも知れない」
ハーレムという瑠璃の願いを推し進めた結果、基夫さんは離れて行った。
誠実な人だからこそ、その常識外れな発想に付いて行けなかったのだろう。
「だから俺には最初から3人で囲い込んで来たわけだ。そう簡単に逃げられないように。
3人もいれば誰かしら俺のタイプに引っかかるだろう。女社長の正妻に秘書の愛人、そして義理の妹はメイド。合わせて6つのキャラを用意して、誰かが気に入られればハーレムは成る。
本当に俺じゃないとダメだったのか? 誰でも良かったんじゃないか?」
あえてキツイ言い方をする。別に非難してハーレムを解散させたいわけではない。
これからの認識を変える為、多少は罪悪感を刺激しておいた方がいいだろう。
「スカウトの時、俺がどこの店に所属しているか確認していたけど、俺に彼女がいるかどうかについては触れてないよな?
俺が女性経験がないと言うまで、気にもしていなかった」
瑠璃と紗雪の様子を見る。
瑠璃は風呂の水面を見つめており、紗雪は無表情な中に少しの焦りを感じさせるような表情。
2人とも何も言わないので続ける。
「彼女がいた事がないと言った時、3人とも驚いていた。つまり、3人は俺に現在彼女がいるかも知れないという可能性を感じていたわけだ。
それでも関係ないと、3人同時に俺に迫った。
もしあの時、俺に夏希という恋人がいた場合、何が起こっていると思う?」
お断りに次ぐお断りの嵐、多少腕力に訴えてでもホテルの一室から逃げ出していただろう。
当然ハーレムうんぬんなんて話も聞かず、こいつら頭おかしいと決めつけて……。
2人は目を逸らして黙り込む。
「俺と夏希の仲を知っている今だからこそ、そうやってもしもの話を想像する事が出来る。
でも、あの時は恋人がいるかどうか知ろうもとしなかった。いたとしても、どうにでもなると思ってたんじゃないか?」
顔を歪める2人。そうだよな、心当たりあるよな~?
「3人は嬉しい事に俺を気に入ってくれた。そして瑠璃はハーレムを作りたかった。どうしても俺にうんと言わせたかった。
でも……、そこに俺の意思はあったんだろうか?」
答えは返って来ない。
つまり、それが答えだという事だ。
ハーレムの主になってくれ、私達の勇者になってくれ、結婚してくれと言われても、俺にはピンと来なかった。
複数の女性とお付き合いをする事が、俺の人生にあるとは思っていなかったのだから。
そりゃあ男であれば誰でも妄想するだろう。けれど、妄想と現実は違う。
その生活がいつまで破綻せずに送り続けられるのか。終点はどこにあるのか。考えれば切りがない。
そう、基夫さんのような根が真面目な人は特に思い悩むだろう。
「プレイヤーになる事は了承した。でも、スペックスの取締役に株主、そしてお断り屋協会も。
確かにサインしてハンコを押したのは俺だ。でも何の説明もなく俺に肩書を与えたのは何でだろうな?
自分の旦那が、ハーレムの主が、ただのフリーターでは見栄えが悪いからじゃないのか?」
「そこまでよ、ゆう!!」
バンっ! と浴室のドアが開き、入って来たのはバスタオル姿の牡丹お姉ちゃんだった。
いつもありがとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。
10/21 誤字修正 1人の女性に認めれたいと突っ走って来たような男もな → 1人の女性に認められたいと突っ走って来たような男もな
ご報告感謝致します。




