買収交渉の本題
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
「さてどうしたものか……、今日はもう帰るか?」
ちょっともうどうしようもない気がする。
カッパは帰って来ないし、瑠璃は動揺したまま何も話さないし、俺もちょっと眠たい。
「困りましたね、どうしましょうか……」
牡丹もちょっと疲れた顔をしている。
知り合いの変わり果てた姿を目の当たりにし、瑠璃ほどではないにせよショックを受けているのかも知れない。
「姫子、ちょっと見て来てくれないか? まだこのビル内にいるかどうかもハッキリしない状態で俺達がここにいるのもおかしいしな」
「……、嫌」
ひめはそう言って俺にしがみついたまま離れない。
ずっと隠していた事がやっと伝えられたので、もう遠慮なく俺と一緒にいられるようになったからだろうか。
その姿を見て、牡丹が背中を撫でて話し掛ける。
「ひめちゃん、もう大丈夫よ。あなたが優希さんと一緒にいたいと言うのなら、私達はあなたを歓迎します。あなたはハーレムの一員です」
「ありがとう……」
ひめの目から涙がホロリと流れ落ちる。
バンッ、勢いよくドアが開かれ、茶髪でロン毛の基夫さんが戻って来た。
タイミングの悪い人だ。またひめが不機嫌そうな顔に戻る。
「待たせたな、話を続けよう」
「「「「「ヴフッゥゥゥゥゥ!!!!」」」」」
笑ってはいけないお断り屋24時かよ! こっちは何の話してたかすっかり忘れてたわ!!
「うぐっ……、とにかく話の続きだ……」
「話って何の事? お姉ぇに対する嫌がらせの話? お義兄ちゃんの奴隷の話? うちのマスコットの話? ねぇねぇ何の話???」
攻めるなぁ、紗雪。煽りのプロみたいだ。
瑠璃は下を向いてぷるぷるしてるし、牡丹は買収の話をいつ切り出すかタイミングを窺っているようだし、この流れは早めに変えておいた方が良さそうだ。
早くケリ付けて帰りたい。
「基夫さん、話が頭からズレていたので戻したいと思います。改めて言い辛い話ですが、スペックスはお断り屋業界をさらに活性化させる為に大規模なイベントを開催したいと思っています。その為に業界トップ2であるトプステと手を組み、激しく攻めて行きたい。基夫さんはトプステの株を手放す事で泥を被る事になるかも知れませんが、基夫さんに損をさせるつもりは毛頭ありませんので、どうか気を抜いて、ツルっと平な頭で聞いてもらえませんか?」
「帰れぇぇぇ~~~!!!」
ケンカッパやい人だ。
さ、帰ろう帰ろう。各々立ち上がり、基夫さんに背を向ける。
「姫子ちゃんはここに残りなさい!」
「お断りします」
いいお断りを見せてもらいました!!
さ、帰ろう帰ろう。
「待ってくれ! ……、分かった。すまないがもう一度掛けてもらえないだろうか」
そこまで言われたら仕方ない、ゆっくりと話の続きをするとしようか。
皆が椅子に座り直し、基夫さんと向き合う。
ちなみにひめと美代は俺から見て斜め左の面に椅子を用意して、そちらに座っている。
「俺が持っているトプステの株を売ってほしい、という話だったな」
「いや? 基夫さんが持っているトプステの株を買ってほしい、という話ですよね?」
もはや売ってほしいという状況ではない。
別にこの人にわざわざ頭を下げてまで株を買わなくても、この店をスペックス傘下に引き入れるのは難しい事ではない。
「牡丹、もし今トプステがお断り屋協会から除名されたら何が起きる?」
「はい、プレイヤーデータベースとアクトレスデータベースへのアクセスが遮断され、営業自体が出来なくなります。無理に営業する事も不可能ではないでしょうが、それは店全体で闇営業をしているようなもの。お断り屋協会としては全力を挙げて抗議する事になるでしょうね」
と、いう事だ。
もはや基夫さんに後はない状況。株を手元に持っていたとしても、すぐに紙切れ同然の価値しかなくなるのだ。
頭を下げてでも買って下さいと言わざるを得ない状況で、基夫さんはどう出るのだろうか。
プレイヤーの後輩として、ぜひ勉強させてもらいたい。
「……、それは圧力を掛けて株を売らなければならないように仕向けているようなモノじゃないか。株の不正取引の強要として公正取引委員会に訴える事が出来るはずだ」
「基夫さんはご自分が今までして来たスペックスへの嫌がらせについてはどう説明するおつもりですか? それとは別に、契約を交わしているにも関わらずデータベースの使用料等を会社の帳簿を不正に改竄した上で誤魔化していた事も、しっかりと投資会社に説明が出来ると仰るんですね?」
瑠璃がお断り屋協会トップとして基夫さんへ質疑する。
基夫さんはトプステの会計収支を誤魔化して、お断り屋協会へ支払うべきシステム使用料等を実際に払うよりも低くなるよう不正な処理をしていたそうだ。
もちろん投資会社をも欺いている。
本来出るべきだった配当金の金額を考えると、どこも怒るだけでは済まないだろう。
牡丹が二重スパイから手に入れた証拠の数々を押えている為、言い逃れは出来ない。
それでも基夫さんは強気な表情を保ったまま、内心の動揺を隠して状況の打破を試みる。
「それで? その証拠を警察へ持って行くのか? 不正をしていたのはトプステだから、スペックスが株を売るよう脅迫しても問題ないとでも言うのか!?」
「警察に訴えて何になると言うのですか。私達が訴える先は税務署です。不正に利益を減らして申告していたのなら脱税という事になります。追徴課税では済みません。過少申告加算税もしくは重加算税を支払わなければならない。それだけのお金が手元にありますか? 帳簿外に移したキャッシュが残っていればいいですが、海外の不動産バブルで消し飛んでいたら払いようがないんじゃないですか?」
牡丹の眼鏡がキラリと光る。
チェックメイトのようだ。基夫さんから勢いが消失し、力なく椅子にもたれかかっている。
どうやら不正に会社のお金を懐に入れ、その金で投資して大損したらしい。
何でそんな事をするのか。自分の金じゃないから博打的要素のある大勝負に挑み、案の定負けたというところか。
正しい金額で納税しろ、罰金払えと税務署に言われても、お金はすでに手元にない。となると、資産を売ってでも金を作らなければならない事態となる。
基夫、アウト~!
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