シスコンな兄と辛辣な妹
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
ムスっとした表情のロリっ子が、俺・瑠璃・牡丹・紗雪の順番でお茶を出してくれた。
基夫さんの前にはお茶が置かれず、そして美代の分のお茶もなし。
お茶を配り終えたロリっ子は俺の右側から膝へと登り、向かい合わせの状態で抱き着くように座る。
そのサラサラの髪の毛を優しく撫でてやると、口角がわずかに上がった。
「……!? 姫子ちゃん? 何してるんだい!? 早くその男から離れなさい!!」
「嫌、私はハーレムのマスコット。お兄ちゃんの言う事はもう聞かない」
ここで姫子の登場かぁ、一気に2つの気になっていた事が解決してしまった。
1年前から基夫さんがスペックスへと送り込んだスパイの名は、橋出姫子だったという事か。
「何でだ! お兄ちゃんに協力してくれよ、今までも色々教えてくれてたじゃないか!?」
「もう嫌、優希が怪我した。私がもっと早く兄の事を伝えてたらこんな事にはならなかった。
ゴメンなさい……」
それこそひめのせいじゃないな。
俺もひめが何か企んでいるであろう事を分かった上で、ハーレムのマスコットにしようとみんなに言ったんだから。
さすがにトプステからのスパイだとは思わなかったけど。
「って事はひめはわざわざスペックスへスパイする為に、高畑芸能事務所に入ったのか?」
「そう、一応わた……、ボクは舞台女優。たまに劇とかに出てる」
それはそれですごい話だ。
ライバル店をスパイするように兄に頼まれ、ライバル店へ潜入する為に芸能事務所へ舞台女優として所属してからスペックスへと店付きアクトレスとして派遣される。
潜入するまでがすごく大変そうだったろうに。
ひめも苦労したんだろうな、こんな兄の為に……。
「こら姫子ちゃん! そんな恰好で座ったらスカートがめくれるだろう? はしたないから止めなさい!
ほら、こっちに来なさい!!」
あ、確かにスカートがまくれ上がって小さいお尻が見えている。
よし、見えないように手で押さえておいてあげよう。
「触るな! 俺の妹のお尻に触るなぁ~~~!!」
椅子から立ち上がり、床をダンダンと踏んで起こる基夫さん。
妹まで取られて踏んだり蹴ったりですね。
「ハゲ! うるさいっ!!」
ひめの叫びに基夫さんの動きが止まる。肩をぷるぷると震わせているようだ。
「私は私の好きなようにする。
もうハゲの言う事は聞かない。
ハゲは1人寂しく過ごせばいい。
もっともっと頭の毛が寂しくなればいい!!」
「髪の毛の話をするなぁ~~~!」
今度は机をバンバンと叩きながらヘッドバンギングするように怒り狂う基夫さん。
いくらシスコンっぽいこの人でも、妹であれ触れてはいけない話題を口にしてしまったようだ。
「ハゲはうるさい。
ああしろこうしろいっつもうるさい。
黙って育毛剤でも振ってればいい。
ハゲの言う通りにしたら優希がケガした。
ケガないと良かったのにケガあった!
優希はケガあった!!
ハゲはケガないのに!!!」
ひめが上半身だけ振り返りハゲを指差しながら責め立てる。余程鬱憤が溜まってたんだろうな。
可愛い妹に無理な頼み事をし続けてたらこうなるんだろうか。シスコンの癖に妹を手足の如く扱っていた報いだ。
興奮しているひめがバランスを崩さないように脇を抱えて支えてやる。
「姫子の身体に触れるなぁ~~~!!!」
ヘッドバンギングが加速する。
ハゲ呼ばわりと大切な妹を盗られた怒りから机バンバンが止まらない。
ハゲハゲと妹から呼ばれる基夫さんの奇行に、向かい合って座る全員の目線が注がれる。
主に耳が隠れるまでに伸ばされた茶髪。
先ほどから明らかに不自然な挙動をしている頭髪に、皆目が離せない。
擬音で例えるならば、カパッ♪ カパッ♪ といった具合だ。
カパッ♪ の間にチラリと黒い地毛が見える。まさに地毛チラ。
もう何の話をしていたのかすら誰も思い出せないでいる。
この場を支配しているのは彼の(机を)叩くビートと絶え間なく続くシャウト、そしてコーラスのように被せるカパッ♪ カパッ♪ のリズム。ヅラだけに。
この場はライブ会場さながらの熱気、オーディエンスはヅラリズムに合わせて頭を揺らす。
「姫子から離れろぉぉぉ~~~~!!!」
オ~オ~オ~! レスポンスも忘れない。
そして熱狂に包まれたライブ会場では必ずと言っていいほど見られる光景、演者による客席へのダイブだ!
ピンで止められているであろう地毛からの、反動を付けたダイブ!!
高らかに舞い上がったロン毛茶髪のヅラがパサッ、と瑠璃の頭へと着地を決める!!!
その瞬間、
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
いやいや、お前の元カレのだろ。そこまで嫌がるなよ。
瑠璃のシャウトを聞いてか、基夫さんのテンションが最高潮にマックス!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
机越しに瑠璃に掴み掛からんとばかりのライブパフォーマンス!! 迫力満点だっ!!!
紗雪が慌てて瑠璃の頭からヅラを汚い物のように摘み上げ、基夫さんの方へと投げ返す。
慌てて受け止める基夫さん。そしてそのヅラを抱き締めたままステージを走り去り、俺の背後のドアから姿を消した。
「一体何だったんですか……」
呆気にとられた牡丹がポツリと呟く。
反対隣の瑠璃は胸を押さえて苦しそうにしている。
「あれはカッパよ、私の元カレなんかじゃないわ……」
ライブの余韻に浸っているのか、絶賛現実逃避中のようだ。
「はぁ、最高のパフォーマンスだったな。さすが元Aランクプレイヤーなだけある。
どうして引退したんだろうな?」
「ハゲちゃったから」
ひめの呟きに、一同が大きく頷いた。
いつもありがとうございます。
たまにはこんな回があってもいいですよね?
誤字修正致しました。




