プレイヤーVSプレイヤー
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
トプステの一室へと通される。
ソファーが置いてあるような応接室ではなく、会議室のような部屋で話し合うようだ。
俺達は横一列に座り、基夫さんが来るのを待つ。
またもや瑠璃と牡丹に挟まれるような形での着席。紗雪は瑠璃の右隣に掛けた。
瑠璃だけ構ったのが悪かったようで、牡丹が少し不機嫌そうにしている。
書類の確認をしながらも、眉間に皺が寄り、時々ぶつぶつと独り言を発するので、他の2人に分からないようご機嫌伺いをする。
「僕も寂しいんだよ?」
小さな声で呟けば、それはもう一瞬でお姉ちゃん顔になり鼻息をフンスフンスさせている。
机の下で手を握ったり何だったりしていると、背後のドアが開き誰かが入って来た。
「おっと、ノックもせず申し訳ない。仲のよろしい事で」
耳が隠れるほど伸ばされた茶髪、神経質そうな目つき。この人が基夫さんか。
会議用テーブルの向こう側へと歩き、基夫さんの入室と共の起立した俺達に何も言わず椅子に座る。
「あぁ、どうぞ掛けて。今さら改まる間柄でもないしね」
俺達が座ると、俺を見て基夫さんが机に肘を付いた状態でニヤリと笑った。
「君が紗丹君だね。どうも、俺は橋出基夫、瑠璃の元カレだ。聞いてるかな?」
「ええ、伺ってます。僕は希瑠紗丹です。基夫さんのプレイヤーネームは何と仰るんですか?」
分かりやすい挑発をしてくるな。まずは俺に突っ掛るつもりなんだろうか。
基夫さんは腕を組み、椅子に浅く掛けてこちらを見つめる。
「プレイヤーは引退してね、もうプレイヤーネームを名乗るつもりはない。
経営者ってのは忙しくてな、お客様のお相手をしている暇なんてないんだよ」
ほう、それは随分な言い方だな。
もうちょっと別な言い方をした方がいいと思いますよ、社会人として。
「君達は俺の送り込んだスパイにまだ気付いてないみたいだが、俺の妹もなかなかに優秀だったようだ。
何かの足しになればと思って1年もスペックスで働かせたけど、紗丹君が入ってから送られて来る情報はどれも役に立ったよ」
妹……? 確か牡丹が二重スパイとして使っている2名はどちらも男性だと聞いたはずだが。
牡丹を見ると小さく首を振っている。牡丹が把握していないスパイが別にもう1人いるという事か。
「瑠璃さんは基夫さんの妹って人に会った事あるんですか?」
あえて敬語で瑠璃に話し掛けてみる。何が重要な手掛かりになるか分からない。
瑠璃に敬語を使う俺に基夫さんがどうリアクションするかも、この場では大事な情報になる。
「……、いえ。妹さんがいるってのは聞いた事あるけど、会った事はないわね」
よく耐えた瑠璃。
ここで他人行儀がどうのこうの言ったら本当に正妻から引きずり下ろすところだったぞ。
「ふん、わざとらしいやり取りは必要ないぞ紗丹君。いつも通り呼び捨てでいいじゃないか。別に俺に気を使う必要もないしな」
俺達の日常会話を聞いている人物か……?
いや、もしかしたら美代があえて漏らした可能性もあるな、まだ情報が少ないので判断が付かない。
「そうですか、そこまで筒抜けとは困りましたね。もしかして美代さんからの情報ですか?」
ここは素直に聞いてみよう。分からなければ聞けばいい。
もちろん素直に教えてくれるかどうかは別の話だが。
「……、順調とだけ聞いていたが、どうだい? この場で返事を聞かせてくれるかな?」
「あれ? 気付いていませんでしたか、彼女はトプステからスペックスへ寝返ったんですよ。そもそも僕がトプステに引き抜かれて何をするんですか?
あなたは瑠璃に対する嫌がらせの為でしょうけど、俺は別にプレイヤーをどうしても続けたいってわけじゃないんだ。スペックス以外でプレイヤーとして続けて行こうなんて思わないんで」
ちょっとこちらからの煽ってみようか。さてどんなリアクションをするんだろうか。
目を見開きおでこに皺を作る基夫さん。何か表情に違和感があるな、何でだろう……。
「そうかい、彼女を引き込んだつもりか。ならば今ここに呼んでみようか。直接聞けばどちら側のスパイなのか良く分かるだろう。
念の為ここに待機させておいて良かったよ」
そう言ってスマホを操作する基夫さん。
メッセージを送りこの場に美代を呼ぶつもりらしい。
程なくしてノックの音が聞こえる。基夫さんが入室を促すと、みみが入って来た。
「……、そのカチューシャは何のつもりか分からないが、とりあえず現状を報告してもらおうか」
みみの頭にはうさ耳のカチューシャが着けられている。
ドアの前で立ち止まり、基夫さんの言葉通りに現状を報告する。
「はい、引き抜きの話とは別にハーレムの現状を目の当たりにしました。
スペックスオーナーである瑠璃さんと一緒にショッピングへと出掛けて食器や寝具等を購入し、いつ私のマンションにハーレムの皆様が来られても良いようにと準備をしておりました」
へぇ、瑠璃と2人で買い物に行ったのか。
あ、だからあの時オフィスに誰もいなかったのだろうか。
「……、何故ハーレムが君の部屋に来る事になるんだ?」
まだ理解出来ていないようなので、俺からみみに声を掛ける。
「みみ、座っていいぞ」
「はい、ご主人様」
そう言って俺と牡丹の間にある隙間まで来て、床に正座をするみみ。
左手でみみの頭をヨシヨシしてやる。嬉しそうな表情の奴隷ちゃん。
そして信じられないモノを見るかのような表情の基夫さん。
「で、みみを引き込んだつもりの俺に対して何かあるのか?」
ぐっ……、と喉を詰まらせたような顔で俺を見る基夫さん。
何かおかしいんだよな、この人の顔。何なんだろう。顔の皺は動くのに全体的に動いていないというか、妙な感じがする。
でも何がおかしいのかハッキリとは分からない……。すげぇ気持ち悪い。
「ま、まぁ元々彼女に対してはスパイの役割を期待していたわけではないからな、何の問題もないよ。
そもそも紗丹君をうちに引き抜こうなんてのは形だけだからな。もし君が乗り気になったなら、瑠璃ちゃんが動揺するだろうと思っただけだし」
その発言から小者臭がして、急にやる気がなくなってきた。
コイツ大した事ないわ。わざわざ4人も5人も呼び付けておいて自分の醜態を晒すだけかよ。
「うちの主人に怪我を負わせておいて、その言い草はないでしょう」
静かに瑠璃が怒っている。感情のまま怒鳴りたいのを抑えつつ、元カレの目を睨み付けている。
「怪我? そんな報告は聞いていないな。すまないが詳しく聞いてもいいかな?」
「基夫さんが紗丹君の引き抜きを依頼した事で、美代さんがヤクザの事務所に連れて行って無理矢理引き抜きに応じさせようとしたんです。
結果、顔やお腹を殴られ蹴られして怪我してしまいました。もちろん美代さんの独断なのでしょうが、使用者責任がないとは言えませんよ」
牡丹もいつもよりも厳しい口調で基夫さんを責める。
でも使用者責任と言っても、ヤクザを使ったのはみみのせいなんだから、それで基夫さんを非難するのはちょっと難しいと思うぞ。
「そんな事があったのか……、しかしよく無事に帰って来れたな」
「俺のお客様にその組が所属する上部組織の姐さんがいらしてね、連絡したら事態を収めて下さったんだよ」
そう言って、俺は基夫さんの顔を見てニヤリと笑う。
「まさか、ここ最近の変な客はお前の差し金か!?」
「さぁ? 何の事か分かりませんね」
俺が直接何かしてくれとお願いした事なんてないからな。たまたまじゃない?
さっきも黒塗りの車が何台も停まってたな。ビルに入るのちょっと躊躇うくらいの雰囲気が出ていた。あ~怖い怖い。
「それにしても来客だっていうのにお茶の1つも出て来ないのね。どうなっているんだろうこの会社は」
紗雪がさらに煽る。
攻め時だからな、それくらい言ってもいいだろう。別に本当にお茶が欲しいわけではないが。
「……、それは失礼したね、紗雪ちゃん。なら妹にお茶を持って来させよう」
そう言ってまたスマホでメッセージを送る基夫さん。
先ほど話題に出た、スペックスへと送り込まれたという妹もこの建物に待機していたさせていたらしい。
劣勢にも関わらず、ニヤニヤと俺達を眺める基夫さんの表情から、かなり経営陣に近い部署へ送り込まれたスパイなのだろう。
俺はスペックスの事務方とあまり接点がないから、多分会っても驚かないと思うけどな。
そう言う意味では瑠璃や牡丹にダメージを与える存在なのかも知れない。
控えめなノックの音が聞こえる。
さぁどんな人物が入室して来るのか。確認する為に俺は後ろを振り向いた。
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10/17誤字修正 顔のお腹を殴られ蹴られして → 顔やお腹を殴られ蹴られして
Twitterにて誤字報告頂きまして修正致しました。ありがとうございました。




