トプステへの道中
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
スペックスビルからTop Statusの入っているビルまでは10分程度なので、三姉妹と俺と合わせて4人でぞろぞろと歩いて行く事になった。
右腕を瑠璃、左腕を牡丹に掴まれ、両肩をスリスリされながら非常に歩きにくい。先ほどまでCM撮影していた事もあり、周りの目が気になる。
紗雪は俺達の少し後ろを歩いており、今は正妻権限を発動せずに姉2人を好きにさせているようだ。
「今回の話し合いである程度先の見通しが立てば、スペックスビルへ帰って来てもらえますか?」
「私からもお願いします、優希さん」
左右から懇願されながら考える。今回の話の落としどころとしてはどこなのだろうか。
すんなりと株を売ってくれるとは思えない。
基夫さんがスペックスの要求通り株を売れば、筆頭株主の座からは降ろされる。自分の思い通りの経営が出来なくなるだろう事は基夫さんも承知の上のはず。
その上で交渉に当たろうというのは、それ以外に話があるか、それとも本当に株を売ってしまってもいいと考えているか。
株を売ってもいいと思っているという事は、自分の作った会社の経営から外されても構わないという事と同義だからなぁ……。
両腕にぐいぐいと大きくて柔らかくて温かい感触が押し付けられる。
少し前の俺ならドギマギしたであろうが、今ではハイハイと流す程度になってしまった。大分今の状況に毒されて来ているな……。
俺が返事をしない為か、瑠璃が足を止めて俺の顔に手をやり、じっと目を見つめて言い放つ。
「私に不満があるならハッキリと言って下さい!」
「いや、不満とかではないんだけどな」
「じゃあ何なんですか!? これは俗に言う放置プレイと言う状態ですか!!?」
道端でそんな事を大声で言うなよ、そう言うところだよマジで。
「瑠璃にとってハーレムって何なんだ? それについて考えたか?」
「……、はい。私にとってハーレムとは私の心の在り処。その中心にアナタがいて、私達がアナタを支える。
私はそう思っています」
そうだろうな、でも俺はそうは思ってないんだよ。だからそこらへんの考え方の違いでその他の人間がしんどい思いをする事になると思うんだよなぁ~。
その事をそのまま伝えれば、瑠璃の正妻でありたいという願望そのものを否定する形になってしまいそうで危ういところだ。
今牡丹に同じ質問をするとどういう返答が来るのか、気にはなるが瑠璃の手前聞くのは止めておこう。
それよりも瑠璃に少しだけ掘り下げて話しておいた方がいいかも知れない。
「瑠璃、今のハーレムは俺の理想のハーレム像とは違うんだ。俺と瑠璃のどっちの考え方が正しいかなんて分からないけどさ、それでも俺も早く瑠璃の元に帰りたいと思ってるよ。
だから、今後どうすればみんな楽しくやって行けるかを考えよう」
誰かの考えの元に作られたハーレムに、みんなが付き合わされるような形にはしたくない。
瑠璃が作ったハーレムに俺が引き込まれた。俺が望んでハーレムを作ったわけではないから。
それは主が誰であってもいいハーレムなのか、誰が入ってもいいハーレムなのか。
瑠璃はそうは思ってはいないだろうが、基夫さんをハーレムの主にしようとした経緯がある。
結果基夫さんは瑠璃から離れる事になったのは知っているが、もし瑠璃が基夫さんでないとダメだと思っていたのなら、そう簡単に瑠璃が主を手放すだろうか。
手放すという表現がすんなりと出て来る事から、やはりハーレムの真の主が瑠璃であると俺も思っている証拠だな。
このハーレムの存在意義って一体何なんだろう。
「私が思っているハーレムの在り方と、アナタが思っている在り方とが違う……、ですか」
「瑠璃ちゃん、それについてはみんなで話し合った方がいいかも知れないわ。紗雪ちゃんも夏希も交えて。姫子ちゃんも含めた方がいいわね。
瑠璃ちゃんはみんながどう思っているか、正妻の立場として聞いておいた方がいいと思う。みんなの思いを纏めるのも瑠璃ちゃんの役目だもの」
牡丹の発言に、今まで黙って聞いていた紗雪も口を開く。
「お姉ぇの理想だけで作ったハーレムだからね。お義兄ちゃんがこれからどうして行きたいのか、じっくりと聞くいい機会かもよ」
2人も思うところがあるようだ。
瑠璃は自分の理想に真っ直ぐ突っ走り、周りが見えなくなるタイプだから、この2人もきっと自分と同じ意見に違いないと思い込んでいたってのもあるんだろうな。
三姉妹は仲がいいから、余計にそう思っていたのかも知れない。
が、もう三姉妹だけでなく夏希とひめがハーレムに入っているのだ。ただの構成員としてではなく、1人の妻・嫁と考えると瑠璃の考え方を一方的に押し付けるのは違うだろう。
それに、俺もそれは望んでいない。このままではいずれハーレムは崩壊する。
ハーレムなんてモノは世間一般から見れば異質な存在なのだ。
俺や夏希なんかはつい最近までハーレムなんて日本では有り得ないと思っていた。ひめにもその常識があるだろうし、その常識を持っている限りどこかで歪みが出て来るはずだ。
嫁同士仲良くしたいなんてのはみんながハーレムを心の底から受け入れていないと出来ない事だろうと俺は思う。
だからこそ誰かが我慢するような状況を作るべきでないし、自分には合わないなと思ったのならハーレムに束縛してはならないと思う。
その感覚が瑠璃にないのなら、説明して理解してもらう他ないだろう。
俺は夏希がハーレムなんて耐えられないと言うのなら、恐らく悩んだ末に夏希1人だけを選ぶだろう。
それを瑠璃は恐れているはずだ。
だから夏希がハーレムに自ら歩み寄った際にあれだけ喜んだのではないだろうか。
紗雪のように、仲のいい友達が出来た。牡丹のように可愛い妹が出来た。そんな感覚とはまた違う想いが瑠璃からは感じられる。
俺に固執しているのか、それともハーレム自体に固執しているのか。
瑠璃は俺が瑠璃1人だけを選んだとしたら、どんな反応をするんだろうか。
牡丹と紗雪の言葉に返事出来ないでいる瑠璃の頭をポンポンと撫でる。
上目使いで捨てられた子犬のような顔をしているその唇に軽くキスをする。
「とりあえず今日はどう立ち回れば上手くトプステが買収出来るか、だ。
その話は後回しだ。いいか?」
瑠璃がコクリと頷いた。
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