作戦会議
11/2 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
Top Statusオーナーである基夫さんとのアポが夕方6時半からの予定なので、その前に経営陣としてオフィスで作戦会議を開く事になった。
俺が個人的に三姉妹の父親である賢一さんへと連絡を取り、スペックスビルへと来てもらった。
もちろん賢一さんも基夫さんの存在を知っており、詳しく説明をする必要なく要請に応えてもらう事が出来た。
オフィスに瑠璃・牡丹・紗雪、相談役として賢一さんが集まり、作戦会議が始まった。
牡丹がソファーから立ち上がり、書類を手に話し出す。
「ではまずトプステオーナーである基夫さんの現状報告についてです。
現在はプレイヤーとしての活動はしておらず、経営者として手腕を発揮されています。ですが経営はあまり順調とは言えません」
「何か明確な理由は分かっているのか?」
賢一さんは監査役としてスペックスに関わっている。通常、監査役は会社の会計が正しく行われているかどうかを見極め対外的にそれを保証する立場であり、経営方針について口を出す事はない役員である。
しかし三姉妹と俺は、大企業グループの経営者としての経験を元にした意見や指摘を受けたいので、率先して発言をしてくれるのは非常にありがたい。
「はい、スペックスに対する嫌がらせのような乗り換えキャンペーンであったり、割引券を配って集客するという営業方法が原因と考えられます。
料金を安くすれば売り上げは伸びますが、利益率が下がるので儲けが少なくなります。その結果薄利多売のような状態になり、経営を圧迫しているように見受けられます」
牡丹が持つ資料はトプステがスペックスに送り込んだと思っている二重スパイからの情報を元に作成されたそうだ。
基夫さんの経営方針をあまりよく思わない従業員がトプステ内部に多数おり、その者達に働きかけて内部資料を流してもらったそうな。
「まぁ嫌がらせかどうかは別として、ライバル店のお客様を呼び込もうとするのはよくある事だ。そこはとりあえず置いておこう。
先に瑠璃が提案したという買収案を聞こうか」
賢一さんから話を振られ、次は瑠璃が立ち上がり説明を始める。
「単純にうちの傘下に入らないか持ち掛けました。リアル迷宮の企画内容を伝え、今から業界トップと2位との間で連携を図ってさらに業界全体の規模を大きくする為だと説明しました。
嫌がらせや優希君の引き抜きに関しては何も伝えず、トプステの発行済株式を最低でも34パーセント欲しいと申し出たところ、詳しく話を聞きたいと」
「基夫君を経営から排除したいのなら34パーセントでは足りないぞ。現在の株主構成は把握しているのか?」
「基夫さんの保有率が55パーセント、その他は3社の投資会社が保有しています。
基夫さんから34パーセントの株式の譲渡を受ければ、筆頭株主になる事が出来ます。
さらに、事前に3社全てのベンチャーキャピタルへ株式を譲渡してほしいと打診しており、前向きに検討したいとの返答を受けています」
賢一さんの質問に牡丹が答える。
この内容の話を聞かされても俺にはよく理解出来ないが、簡単に言うと基夫さんから34パーセント、そしてベンチャーキャピタルから残りの45パーセントの株式を譲り受ければスペックスが79パーセントの株式を保有する事になる。
そうなったらスペックス単独の提案で代表取締役である基夫さんを解任する事が出来るようになるといった内容だ。
牡丹が入手したトプステの決算書から、赤字経営でないにしろ借り入れや利益率の低さから、そう遠くない未来に倒産の危機に陥るだろうと分かったそうだ。
そしてもちろんその予想は投資のプロであるベンチャーキャピタル各社も把握しており、過度な割引をしている現状を改善するよう再三要求しているにも関わらず、未だ業務改善していない基夫さんに対して不信感を抱いているそうだ。
そこに来てのスペックスからの株式を買い取りたいという申し出で、ベンチャーキャピタルとしてもありがたい提案だったのだろう。
「でもそれってスペックスが買収に動いてるぞって基夫さんへ情報が回ってる可能性はないの?」
紗雪の疑問も当然だと思う。
ベンチャーキャピタルも株主に変わりないし、トプステの経営を改善させてもっと儲かる企業に作り替えたいと思っているかも知れない。
「ベンチャーキャピタルは少しでも配当が多く出るように、株を少しでも高く売れるようにと考えるのが仕事なのよ。ここ最近トプステは配当が少ないし、そろそろ損切してでも株を売り払おうと考えているところにスペックスから株を買いたいって話が来た。
株なんてものは欲しいって言う人には少しでも高く売ろうとするものなの。いらない人には何の価値もないけれど、欲しい人はその株に価値を見出しているから欲しいと思う。
じゃぁどれだけ出す? って少しでも値を吊り上げようとするのよ。今頃いくらで提示しようかと会議しているんじゃないかしら。
基夫さんに連絡しても、うち以上の金額を提示出来ないだろうからする意味ないでしょうね」
そういうものなのか、よく分からないが瑠璃が言うのだからそういうものなのだと受け止めておこう。
となるとこの会議の焦点はそこではないんじゃないだろうか。
「何で俺が株式の売買交渉の場に呼ばれたのか、そっちの方が話し合いが必要じゃないか?
基夫さんは何て理由で俺を呼ぶように言ったんだ?」
「すみませんアナタ、それが詳しく聞けなかったんです……」
「瑠璃が直接連絡したのか?」
瑠璃が頷く。
瑠璃に俺を同席させるよう言った基夫さんの真意は、やはり瑠璃とよりを戻したいからなのだろうか。
俺がいる前で瑠璃に何を語るつもりなんだろう。
「何にしても、株をいくらで取得出来るかによって今後のトプステの経営方針が変わる。
このままリーズナブルな雰囲気で続けるのか、それともスペックスの別館にしてより高級な雰囲気を売りにするか。それはトプステがいくらで手に入るかによって変わる。
俺としてはそれくらいしか言えんな」
賢一さんはあくまで経営についての視点で語る。
トプステを安く買えれば価格を抑えた営業が出来るが、高く買ってしまえばその分お客様の利用料金に反映しなければ元が取れなくなる。
嫌がらせや俺に対する引き抜き工作への反撃だとは言え、一企業としては損を出しては元も子もない。
私怨で動く経営者は経営者として失格なのだ。まさに基夫さんは経営者としてはあるまじき経営をしている事となる。
「そろそろ時間です。お父さん、お付き合いありがとうございました。とりあえず向こうの出方を見て、改めて助言をお願いする事になるかも知れません」
「まぁそうだな。今回の対面で全て話が終わるとは思えん。話が終わったらうちに来るといい。
優希、風呂入るぞ風呂」
風呂好きだなぁこの人は。
まぁどうなるかは分からないが、トプステへ向かう事にしようか。
いつもありがとうございます。




