空手の先生は同級生シチュ
11/4 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
朝になり、さゆに起こされる。もっと普通に起こしてほしい……。
朝からまたイチャイチャして怠惰な寝起きを満喫。
二度寝してからシャワーを浴び、昨日帰りに買った菓子パンをかじって支度をする。
「じゃあ私は大学が終わったら夏希と合流するから。仕事終わったら連絡してね」
「了解、一応オフィスに顔出してから連絡するよ」
「あの2人がすんなり送り出してくれるかな?」
「正妻とのデートだって言って黙らせるよ」
スペックスビルまで車で送ってもらい、さゆと玄関で別れた。
受付カウンターに行き、お客様情報と設定要望を確認していると、姫子がトコトコと歩いて来た。
「よう、おはよう」
「おはよう、昨日はバタバタしてた?」
ひめも昨日の事が気になるらしい。
今日からハーレム加入だと思ったら家に帰されたわけだからな、そりゃあ気にもなるだろう。
「ああ、ちょっとトラブルでな。もうしばらく今まで通りで頼むよ。万が一ひめにも危害が及ばないとも限らないしな」
「大丈夫?」
無表情ながら心配そうな顔をするので、頭を撫でて安心させる。ひめの真意を探るのはもうちょっとお預けだな。
さて、本日1発目のプレイオーダーだ。
・アクトレスとプレイヤーの関係と役柄:大学時代の同級生で、今はお互い別々の家庭で子育て中。
・二人がいる場所:プレイヤー演じる男が経営している空手の道場。子供達もそこに通っている。
・アクトレスへのお断り方法:身分の差で彼女の両親から引き離されて泣く泣く別れた2人。久々に再会した2人だが、今はお互い子供がいる。未練が心の中に残っているのを再確認してしまったアクトレスに対し優しくお断りして欲しい。
やけにリアルな設定だな。アクトレスの実生活での状況のような気がする。これは上手くお断りしないと、アクトレスの生活に支障をきたす可能性がある。
最近異世界だ裏オプションだと非日常的なプレイが多かったので、気合を入れて向かおう。
ひめに連れられて衣装フロアで空手の道着に着替える。
高校の授業以来だな。空手を習っていたわけではないので、黒帯を締めるのは初めてだけど。
それにしてもあれか? ひめは俺専属の案内嬢なのだろうか。相変わらず当たり前のように手を繋がれて、学校フロアにある道場区画へ移動する。
ひめと別れ、道場へ入るとすでに上品そうな奥様が正座をして待っておられた。
「すみません、お待たせ致しました」
「いえ、今日はよろしくお願いしますね」
促されて対面に正座する。プレイに入る前に詳細な打ち合わせをするようだ。
「私には14歳の娘がいて、あなたが演じる英一さんには同い年の男の子がいる。私は政略結婚だから未だに英一さんに対する想いが消えていない事に、再会して気付くの。
その想いを、上手く消そうとして下さる?」
消そうと、という点が少し気になるが、その役柄は18である俺に務まるのだろうか。むしろ娘さんの方が俺は歳が近いんだけれど。
とりあえず指名を受けているからにはアクトレスとしては問題ないのだろうと受け止める。その他詳細な設定をお聞きして、プレイが始まった。
まずは俺からのセリフだ。
「2人きりで会うのは止めましょうと言ったはずですが……」
「ええ、でも娘がお世話になっているんですもの。これからもお会いする事はあるはずでしょう?」
2人が再会した後、2人きりでは会わないでおこうと決めた後にまた会いに来たというプレイだ。
「あなたのご両親からキツく言われているんです。お金を渡されて引っ越しまでしました。
それなのにこうして会っているのがご主人やご両親に知られたら……。子供達の関係もありますし」
「主人はあなたとの関係を知らないのよ。主人の手前、私の両親は何も言えないはずよ。
会ってお話をするくらい、いいでしょう?」
何も悪い事をしているわけではないと、その表情から気持ちを察する事が出来る。
でも、悪い事を考えていないのならば、このプレイの必要性がなくなる。
アクトレスは日常に何かを抱えているのだろう。
「奥様が亡くなって、ずっとお1人で過ごして来たの?」
「ええ、息子と2人で男同士何とかやってます。親父の道場を継ぐ為にこちらへ戻って来ましたが、まさかあなたの娘さんが通っておられるとは思ってもみませんでしたよ」
つつっ、と座った姿勢のままこちらへと近付くアクトレス。
プレイ内容が事実に基くのならこの人は40歳前後なのだろうけれど、その容姿はとてもその年齢を感じさせない美貌を保っている。
「私はあなたのご実家だと分かった上で娘を通わせていたの。いつかまた会えるんじゃないかって。実家だもの、私から遠ざかる為に引っ越したとは言え、いつかは帰って来るはず。そう思ってもう10年近く経ったわ。そしてやっと再会出来たのよ。
私の気持ち、分かって下さる……?」
妖艶、その表現がぴったりなその表情。思わずゴクリと喉を鳴らす。
妻を亡くしてからずっと1人で息子を育てて来た英一は、このお誘いをお断り出来るのだろうか。
「申し訳ないですが、あなたは道場の門下生の親御さんです。昔の事とはいえ、こうして2人で会っているのを知られたら私の立場がなくなります。
どうかご容赦下さい」
正座をしたまま床に手を付き頭を下げる。そのままずいっと後ろに下がり、距離を取る。
頭を下げたまま無言でアクトレスの出方を待つ。
「……、そんな事で私が引き下がれると思うの? 若い時の思い出は綺麗なままなのよ。事実よりも美化されていると言ってもいいかも知れない。
でも久しぶりに見たあなたは当時そのままだった。お腹も出ず、歳も感じさせない姿勢、髪の毛も白くなっているでもなく薄くなっているわけでもない。
……、正直に言って失望したかったわ。やっぱり思い出は思い出だと思い知りたかった。でもあなたは22歳の頃のままよ。むしろ貫禄が出てさらに素敵になっていたわ。忘れられるわけないじゃない!!」
距離を詰め、抱き着かれた。
マズい、この人はお断りされるつもりなんてない。どうやったら断られないかをシミュレーションしているように感じる。そして実際に本人にそれを試すつもりなんじゃないだろうか。
ここで完膚なきまでに断っておかないと、この人の実生活に支障を来す可能性がある。
どうやって断ればいいだろうか。
「これ以上されるのならば、私の方からご主人へお話します。場合によっては娘さんも道場を辞めてもらう事になるかも知れません。さすがに私もそんな事はしたくない。
どうか、今日のところはお引き取り下さい」
過去に恋愛関係にあったのなら、これくらいの線が妥当であろうか。
未だに抱き着くアクトレスをやんわりと解き、再度距離を取る。
アクトレスが小さくため息を付き、分かりましたと呟いた。
「今日のところはこれで失礼します。2人きりじゃなければ、いいのね?」
そう確認するよう言葉を発し、道場から出て行った。
え、クーリングタイムなしですか……?
程なくしてひめが迎えに来た。やはりアクトレスはそのままお帰りになったそうだ。
ご機嫌そうな様子だったとひめは話すが、それはそれで怖い。何かあるんじゃなかろうか。
受付カウンターへ戻ると、いつも忙しくてすれ違いになる信弥先輩を発見。これからご予約のアクトレスと店外プレイらしい。
受付嬢にプレイ終了の報告をすると、内容を聞いた信弥先輩が少しびっくりしていた。
「その方、本当に子供がいる設定でプレイしたのかい? 珍しいね……」
「珍しいとは? 俺はこの方のお相手は初めてなんだけど」
いやね、と訝し気な表情で語る信弥先輩によると、あの方はどんなプレイヤーに当たろうがずっと同じ設定を繰り返しプレイする事で有名なアクトレスだそうだ。
大学時代に好きだった人と、自分の両親に引き離されるという設定。
別れの最後に、必ずまた会おうと言ってプレイが終了する。そんな設定を何十回も繰り返していたそうだ。
「それが急に少なくとも15年後? くらい時間が飛んで今日の紗丹とのプレイだろ?
実生活で何か動きがあったのかも知れないね」
信弥先輩の話、そして今日のプレイ内容がアクトレスの事実に基くのであれば、彼女の生活において何かが起こる。そんな予感がしてならない。
俺は上手くお断り出来たんだろうか……。
悪役ヒーローの今後の展開を予想出来るシチュ回でした。
悪役ヒーローも合わせましてよろしくお願い致します。
活動報告の方も覗いて頂ければありがたいです!
優希がプレイヤーとしてアクトレスの欲望をお断りする事で上手く解消出来たのかどうか、上記作品を覗いて頂ければ分かります。
そんなん読んでる暇ないよ、という方へネタバレすると、とんでもない事になってしまいましたとさ。




