さゆと2人で
11/1 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
自分のアパートに戻ってすぐ、夏希から連絡が入った。
「もしもし、お疲れ様」
『お疲れ様、今大丈夫?』
「おう、今自分のアパートに1人だ。色々あって瑠璃と牡丹と距離を取る事にした。
もうすぐ紗雪が1人でこっちに来る予定」
『え、何でそうなったの?』
簡単に今日あった事を夏希へと報告する。
『傷は大丈夫なの!?』
「ああ、痛かったけどそこまで酷くはないな。CM撮影の時までに内出血が引いてたらいいんだけど」
撮影となったら男でも化粧するだろうし、目立ちはしないと思うけど。
『そうそう、CM撮影の日取りが決まったよ。3日後だって。今のCMがあとひと月しか放送されないから、かなり急だけど』
本当に急だな。その日は元々オフの日だから俺は大丈夫だが。
『瑠璃さん達から聞いてないの? 連絡は行ってるはずだけど』
「今日あんな事があったから伝えそびれたのかもな。じゃあ次に夏希に会うのはその日か」
『ううん、実は明日の午後だけオフになったから会えるかなぁと思って電話したの』
ほう、なかなか嬉しい事を言ってくれる。もちろん会えるとも。
「明日は予約が入ってるけど、それが終わったらいつでも大丈夫だ。
その……、言い辛いんだけど紗雪も一緒でも大丈夫か?」
やっぱそれは気になるな。
本当なら夏希だけと付き合っていたかも知れないんだから。夏希としても心境は複雑だろう。
『優希、今さら気にしなくてもいいんだよ。2人で会えるのも嬉しいけど、私は別に嫌じゃないから。あの3人がいたから今の優希がいる、そう思ってるから大丈夫』
そう言ってくれて助かるよ。
と、このタイミングでインターホンが鳴る。
「紗雪が来たみたいだ。明日の予定を3人で決めるか」
『そうね、いいよ』
通話したまま紗雪を部屋へと上げる。
夏希と明日会う説明をし、通話をスピーカーにして何をするか相談する。
「優希の仕事が終わるのは夕方でしょ? なら3人で買い物に行きましょ!
夏希と一緒に服を見たいな」
『服かぁ、最近ゆっくり買い物してなかったし、いいかも』
「じゃあその後にどこかでご飯を食べる流れで。
あっ! 優希の仕事が終わるまで2人で先に買い物行こうよ。その後に優希が合流したらいいじゃん」
何故か俺抜きで会う方向に話が進む。
いやいいんだけどね、いいんだけどハラハラする。まだこういう状況に慣れていないんだなと自覚する。
そう言う意味では今すぐTop Statusのオーナーに会うべきじゃないのかも知れない。付け入る隙がないとも言えないしな。
2人の話が纏まったようだ。
『ごめん、今から雑誌の取材だからもう切るね。また明日』
「おう、忙しそうだけど頑張ってな」
「明日楽しみにしてるね~」
よく考えたらアパートには食べる物が何もない。
と言う事で今日も外食する事になった。さゆの車でよく友達と行くと言うレストランへ向かう。
「自分の車がないってのも考え物だな。いつもさゆに運転させるのはちょっと申し訳ない気になるよ、男としては」
「そう? あたしは彼氏を乗せてるって考えたら楽しいけど」
手を繋ぎながらって、運転しにくくないんだろうか。本人から繋いで来たからいいか。
そんな事を考えていると到着したようだ。
「ご予約の宮坂様ですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
小洒落たイタリアンレストランに入ると、当然のように個室へ案内される。
いつの間に予約を入れたんだろうか。
「アパートへ行く前に予約してたんだよ。冷蔵庫の中身はこないだ片したでしょ」
なるほど、用意がいい事で。
野菜にアンチョビを付けて食べる前菜、カボチャの冷製スープ、ジェノベーゼのピザ、パスタはボンゴレビアンコとか言うヤツをさゆが頼み、それぞれシェアしながら食べる。
全部美味い。個室だから誰の目も気にせずゆっくり食べられるし、マナーもうるさく言われなくていい。
「こうやってお料理をシェアしながら食べるのってイイね、あたしだけの恋人って感じ」
そう言ってテーブルの下で脚を絡めて来るさゆ。あ~んとパスタを寄越すのでカプリとかぶり付く。
「えへへ~」
楽しそうで何より。
「今日は優希を独り占めぇ~」
「明日は夏希がいるからな」
「それはそれで楽しみだけどね」
その感覚がよく分からんな。
表情に出ていたのか、さゆが続ける。
「女同士好きな人を取り合うってのは結構聞くけどさ、好きな人を共有するってなかなかないんだよ。優希がいない時にあれこれ話するのも楽しいよ? あたし達は姉妹だから余計にね。
だから夏希とも仲良くしたいと思ってるよ」
独り占めもいいけどね~と続けるさゆ。
男では分からん感覚なんだろうと理解するしかなさそうだ。
デザート。イタリアンではドルチェと言うそうだが、さゆが食べたい物を3つ頼み、それぞれを一緒に食べる。
ジェラートにズコットにトルタピストッキ、一緒にエスプレッソを注文する。
ジェラートは知っていたけど、その他の2つはすぐに忘れてしまいそうな名前だ。美味しかったとだけ覚えてはいるだろうけど。
個室で会計を済ませる。
さゆがまたブラックカードを切ろうとしたが、今回は俺が支払うと申し出て、現金で支払った。
結構お高かかったが、たまには自分でも払っておかないと出してもらって当然になるのが嫌だったからだ。
同い年の女の子に出してもらって当然になってしまうのは、ヒモ的な何かに成り下がる気がして抵抗がある。
瑠璃や牡丹とはまた違う、さゆに対しての感覚だ。
「あれ? 紗雪ちゃんデート?」
「あぁ~、見られちゃったかぁ~」
その割には嬉しそうな声。
大学の同級生だという男女に会った。こちらもデートで外食に来ていたらしい。
食事が終わりちょうど今からドルチェで一息というタイミングという事で、同席してお喋りタイムになった。
デートでこの店を選ぶって事は、この2人もお金持ちの家の子なのだろうか。
さゆも友達とよく来ると言っていたが、庶民が気軽に来れる価格帯の店ではないと思うんだけど。
「こないだ紗雪ちゃんが振った先輩がさぁ、紗雪ちゃんが悪い男に騙されてるって言いふらしてたらしいよ?」
「あぁ、車でチューしてるところ見られたんだよねぇ~」
「うわマジで!? 振った相手の目の前でチューしたらダメだろ……」
「たまたま見られてたんだよ、ねぇ~」
ねぇ~って、俺に振るなよ。
「お2人は外でチューしたりします? 俺からする事はないのでどんなモンなんか分からないんですよね」
「いやいや私達は外ではしないよ。紗雪ちゃん初彼氏だからって弾け過ぎなんだよ。スマホの待ち受けも優希君にしてるしさ。しかも寝顔だし」
いやいや初めて聞いたんですけど!?
さゆを見るとテヘペロしてやがる。いつ撮った……!?
「あ~、優希君顔真っ赤になってる~、いいねいいね~」
「良くないよ、ほらもう出ようか。優希君スマン、この2人高校から一緒だからノリが女子高なんだよ。男の俺らではついて行けない感じになるから、今日はもう解散にしようぜ」
思わぬ助け船がありこの場から脱する事が出来た。
仕事では何とでも切り抜けられるつもりではいるが、プライベートで普段のお付き合いがある関係での会話においてはなかなか上手く持って行く事が出来ないもんだな。特に自分以外の友達とかの場合は。
「じゃあ私達これからホテル行くから、バイバイ」
「何で言うんだよ!?」
向こうの彼氏も苦労しているようだ。
レストランの入り口で2人と別れ、俺達は駐車場へと戻る。
車に乗るとさゆが、こちらを向いてニヤリと笑う。
「私達も、行く?」
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