お暇乞いもそこそこに
11/1 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
うさぎちゃんが着替え終わったので、これ幸いとソファーから立ち上がる。
「そこの女、あんたの名前と歳だけでも聞かせてもらっとくよ」
「はい、宇佐美美代、24です」
怯えたままの表情で、うさぎちゃんもとい美代が頭を下げる。
「今回は紗丹君に助けられたね、もし紗丹君を裏切るような事があれば……、分かっているだろうね?」
低い声をさらに低くドスを利かせ、美代を睨みつける。ひっ、と小さく声を漏らし、またもコクコクと美代が頷く。
その顔を確認した後、道子さんが部屋の扉を上げて外へと促す。
俺達が部屋から出ると、事務所中の怖い男達が一斉にこちらを見る。美代が怯えて俺の左腕を抱え、身体を隠す。
「お客さんがお帰りだ。外まで送って行くからあんた達はここで待機」
「「「「「へい!!!!!」」」」」
美代がブルブルと身体を震わせている。
あんなに強気だった癖に。俺なんかここに連れて来られた時からずっとそんな感じだっつーの。よくこの事務所でヤろうなんて思ったな。
「姐さん、ちょっとそのあんちゃんに話してもいいですか?」
親分が俺達を引き留める。俺が美代を連れて出て行くのが気に食わないのだろうか。
道子さんが無言で答えたのを確認し、親分が俺に向き直る。
「あんちゃん、うちの若いのが済まなかった。詫びと言っちゃあ何だが、今困ってる事とかあるか」
直接どうしたら許してくれるか? と聞かないのは隙に付け入れられるのを避ける為、そして困っている事に対して何とかしてやると言い切らないのは具体的に繋がりが出来るのを避ける為、だろうか。
道子さんが一般人に手を出すなと言う以上、司法から関係者と見られないよう立ち回らなければならないのだろう。
ではここで答えるのも工夫が必要だろう。
「……、そうですね。そう遠くないうちに、お断り屋業界全体で大きなイベントを開催するつもりなんですが、それまでに業界全体の顧客数が増えたらいいなと思ってるんですよ。
うちの店は毎日満員御礼なんですけどね、業界2位の店がちょっと客足が足りないんじゃないかなって思うんです。それくらいですかね」
意訳:組関係者を動員してTop Statusに通わせろ
「ふ~ん、じゃぁ女連中にそれとなくいい店があるぜって伝えとくわ」
意訳:黒塗りの車で乗り付けて、女達を店に乗り込ませるわ
「そうですか、トプステもさらに繁盛するでしょうね。ライバル店ながら頑張ってほしいものです。
では失礼します」
これで怖いお兄さんにエスコートされた怖いお姉さん達がトプステでエンジョイしてくれる事だろう。
一般客が遠ざかるかも知れないが、売り上げは伸びるんじゃね?
軽く会釈して事務所を出る。道子さんの後をついて行くと、通りにはすでにタクシーが待機していた。
美代を先に乗せ、道子さんに小声で話し掛ける。
「あの、借りはどのようにお返しすれば……」
「んふっ、またお店で話しましょう。しっかり返してもらうからね?
……、あの女の子の扱いに困ったら、また連絡してね」
うわぁ~、どっちの話も気が重いわぁ。
タクシーに乗り込み、行き先を告げようとすると美代がお願いだから一度家に帰らせてほしいと言って来た。
まぁいいだろう、俺もついて行けば問題ない。また怖いお兄さん達がいるお部屋に行くなんて事はないだろう。
美代が運転手に行き先を告げ、着いた場所は普通のマンションだった。
オートロックのエントランスからエレベーターで8階へ。終始無言の美代の後を歩く。
「どうぞ、入って」
部屋へと招き入れられる。
玄関にはブーツやヒールなどが雑然と並べられており、リビングもごちゃごちゃしている。キッチンのシンクには使った後の食器やコンビニ弁当などで溢れ返っている。
美代の部屋から本人のだらしなさを感じていると、こちらへと振り返り抱き着かれた。声を上げて泣き出す。
家に帰った安心感から堪えていたモノが込み上げて来たのだろう。ゆっくりと床へ座らせて、落ち着かせるように背中を撫でてやる。
「危なかったな」
俺の言葉を聞いてか、さらに大きな声を上げて泣く美代。俺の背中に手を回し、胸にぐりぐりと顔を押し付ける。子供か。
しばらくそのまま背中をぽんぽんし続けていると、泣き声が止みすぅすぅと寝息が聞こえて来た。マジで子供か。
一度絨毯の敷いてある床へと寝かせ、寝室を探す。
脱ぎ散らかされた衣類に埋もれたベッドを発見。衣類をサイドテーブルへ置き直し、美代を抱きかかえてベッドへと移動させた。
さて、これからどうするかな。
このまま寝かしておき、起きたコイツはどんな反応をするだろう。
怖かった、助かったと言われても結局は危機感の足りない女スパイのままのような気がする。
逆にさらに追い詰めるか、ポッキリ折れた心をさらに折るか、それとも都合の良い形に繋ぎ変えるか……。
あ、そう言えばスマホの電源が切られたままだ。そろそろ連絡をしておかないとマズいな。
電源を入れるとすぐに紗雪からの着信、すぐにスワイプして通話状態へとする。
「もしもし」
『ちょっとお義兄ちゃん! 誰にも行き先を言わないで外出するってどういうつもり!?
浮気? 浮気なの!!?』
誓って浮気はしていない、まだ。
そうだ、どうせなら頭の足りないうさぎの調教をみんなでやってしまおうか。
「紗雪、今から俺の現在地をメッセージで送るからみんなで来てくれ。到着したら事情を説明するから。
あっ、ひめは連れて来るな。教育上よろしくないからな」
紗雪との通話を切り、美代の鞄を探る。あったあった、手錠はかなり本格的なヤツだから手首を痛める可能性があるな。フェイスタオルの上から使うとしよう。
起きる前にさっさと拘束しておくか。
アイマスクを被せ、頭の上で両手を手錠で繋ぐ。
ベッドのヘッドボードにある柵を通してから繋いであるので、これで身動きが取れなくなる。
ギャグボールは不要かと思ったが、念の為に噛ませておく。どうせならうさ耳カチューシャもしておくか。
さて、準備が出来た。後は三姉妹の到着を待つだけだ。
っと、スマホにメッセージが。着いたらしい。部屋番号を教えると、すぐにインターホンが鳴る。
オートロックを解除するボタンを押すと、チャイムの音で気が付いたのか、美代がガチャガチャと手錠を鳴らす音が聞こえて来る。
寝室へと戻り、耳元で囁くように呟く。
「起きたか、これからたっぷりお前の身体に分からせてやるよ。
お前が今まで手玉に取って来た男ってヤツが、怒ったらどれだけ怖いのかってのをな」
「ん~! んん~~~!!」
いつもありがとうございます。
この後23時に悪役ヒーローの投稿予約をしております。
合わせてよろしくお願いします。




