居場所、帰る場所
10/31 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
昨日起こったエミルとの騒動で、瑠璃達の実家である宮坂家にはかなりのお力添えを頂いたそうだ。
テレビ局のスタジオにてメイド長に待機してもらい、そして起こった騒動の対応に宮坂家の持つコネや財力を使ってもらったと聞いた。
大勢の人に動いてもらい、何とか世間的には事なきを得たようだが、良かったネちゃんちゃんでは済まない。謝罪やお礼が必要であるだろう。
と言うならば、早速お邪魔すべきだ。
「夏希も一緒に行こう。こういう事はしっかりとしておきなさいとお前んとこのおばさんならそう言うだろうし」
「ええ、そうね。ご一緒させて下さい」
「で? やっぱりスーツとか来た方がいいかな? 持ってないけど」
冠婚葬祭用の礼服は実家に置きっぱなしだし、就活もしていないので普段使い出来るようなスーツは持っていない。
今からスーツ屋さんに行って用意出来るものだろうか。間に合わないのならスペックスの衣装フロアで借りようか。
「いえ、そこまでは必要ないわ。うちの父はそこまで形式に拘る人でもないし」
瑠璃が言う形式というのがどのラインなのかよくイメージ出来ないが、瑠璃がそう言うのならばそうなんだろう。
とにかく紗雪は大学があるので、授業が終わってからみんなで揃って行くという流れになった。
そのタイミングで白い膝下までのワンピースを着た紗雪が戻って来た。
「え? 実家に呼ばれたんだ。う~ん、あたしの授業が終わるのが昼の2時くらいだから、それ以降でいいか芹屋さんに確認するわ」
そう言ってスマホを手に取り、脱衣所の方へ歩いて行く。
「ここで電話すればいいのに」
その様子を見て牡丹が不思議そうな顔をしていた。
そうだな、不思議だよな。一体何があったのか。今となっては俺にも分からない。
紗雪が宮坂家メイド長に15時に帰る旨伝え、紗雪以外の俺達4人がどう過ごすかという話になった。
「先に私達の家に帰って夏希ちゃんに見てもらいましょう。家ならゆっくりとお話も出来るでしょうし」
時間はもう10時前だ。
紗雪の赤い高級車は4人乗りなので、アパート前で別れて俺達4人はタクシーを拾いスペックスビルへと戻る事となった。
スペックスビル最上階にある俺達の家へ戻り、夏希を案内する。
ハーレムの女性用の部屋はまだ空きがあるという事なので、紗雪の部屋の隣にするかと瑠璃は考えていたようだ。
「すごい家ですね……、この高層ビルの最上階がオーナーの家なんて……」
そうだな、俺も未だに信じられないもん。
前庭には小さいとは言え噴水があり、風呂には大都会のビル群を下に望める大きな窓がある。
部屋もいくつあるのか数えないと分からないし、何より俺の部屋が一番すごい。
「優希の部屋だけで十分生活出来そうなんですけど……」
さっきから驚きの声しか発さない夏希。その気持ち十分に分かります。
俺も夏希も割と裕福な家庭で育ったとは言え、ここまでの家にどうぞ住んで下さいと言われても尻込みしてしまう。
まぁ2週間もすると慣れるんだけど。
一通り夏希を案内をした後、リビングにあるソファーに各々座る。
長い脚を組んでいる瑠璃の短いスカートが気になるが、今は夏希の意志を確認する方が先だ。
「夏希がここで暮らす、というのは現実的じゃないと思うんだ」
何か言いかけた瑠璃に目で待てを掛け、俺の左に座る夏希に向けて続ける。
「エミルとして仕事をする以上、毎日この家へ帰って来るというのは難しい。俺としては毎日お前の顔を見たい気持ちはある。でも、そう簡単には行かないよ。
今やお前は人気女優だ、スペックスビルに毎日帰って来ていたらすぐにバレる。それは良くないと思うんだ。気にしないでいい事まで気になって、みんな疲れて行く。特に夏希が。
だから来れる時、来たい時に帰ってくればいい。ここにお前の部屋がある、みんないるし、俺もいる。
お前の居場所はここにあるから、安心して仕事をしてほしいんだ」
素直に思った事をそのまま伝える。変に飾る必要はない。
「そうね、私もそう思う。うちの社長にも思うところがあるんだろうけど、今は優希の勧めてくれた通りにしたいかな」
その答えを聞き、思わず夏希を抱き締める。
耳元で好きだと伝えると、コクンと頷いてくれた。今はそれだけでいい。気持ちを伝えるだけで、何でこうも幸せな気分になるんだろうか。
「それで、あのコの事はどうする気?」
この幼馴染は何で今その話を蒸し返すのか。
夏希はやはり俺が冬美ちゃんに言った『ハーレムにはまだ入ってない』発言が引っかかっているのだろう。
失言には気を付けよう。そしてその上でとぼける。
「あのコって?」
「姫子さん」
はい、姫子さんです。
「そうだな、とりあえず名前も知らなかったくらいだしな。次会ったらどんなコなのか話してみるよ」
そもそもあのコと話したのは昨日が初めてだ。
普段何をしているのか、あんな感じだけどどんな性格なのかも全く分からんからな。
そんなコを突然ハーレムに引き込むなんて無理だ。段階を踏まないとな。
「さてと、私はちょっとオフィスへ行きますね」
「私も部屋で休みますね、アナタ」
牡丹と瑠璃は気を遣ってか、それぞれリビングを離れて行った。
「どうしたんだろ、忙しいのかな」
「さぁ、どうだろうな。
それより夏希、このハーレムはまた人が増えるかも知れないし、増えないかも知れない。姫子さんだって入る可能性がある。
俺とお前のオフが重なるのはそう多くないと思うんだ。瑠璃がその日俺と誰が一緒に過ごすか、だいたいのスケジュール管理をしてくれてるみたいなんだが、俺達のオフが重なる日は優先して一緒にいられるように頼んどいた。
……、辛くなる前に言ってくれるか?」
「うん、さっき瑠璃さんからも聞いた。後から入った私を優先しても大丈夫なのか聞いたら、今の優希がいるのはあなたのお陰だからって。だから正ヒロインとして堂々としてればいいって言われて。
それでいいのかな?」
「ああ、今を楽しもう。一緒にいられる時間は少ないからな」
そう言って俺は立ち上がり、夏希の手を引いて自室へと向かった。
「昨日の今日で……?」
良く分かってらっしゃる。
いつもありがとうございます。
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