2人だけの時間
次の日……、ではなく前話の続きです。
10/30 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
誰かの手のひらで踊らされていようが、今は関係ない。今この時が大事だ。全てだ。
この部屋には俺と、エミルの2人しかいない。誰にも邪魔はさせない。
後ろから抱き着き、長く綺麗な髪の毛に顔を埋める。大好きな匂い。落ち着くような、それでいてドキドキするような匂い。頭がくらくらする。
少し強引だがベッドへと移動し、2人で腰掛ける。
耳の後ろにキスをし、今まで触れた事のなかった幼馴染みの感触を味わう。
幼馴染みなのか、それとも今日初めて会った若手人気女優なのか。今の俺には判別が付かない。
小さい頃はよく2人で風呂に入ったりしていたが、それも小学校に上がる前の話だ。こんなにも柔らかく、少しでも力を入れれば壊れてしまうような感触。
「俺達制服来たままだな。高校の制服に良く似た格好で、あの日の続きか。
失くした時間を取り戻そうとしているみたいだな」
そっとエミルを横にして、上から覆い被さる。こんな顔、俺にしか見えないようにしておかないと。
「今は、エミルだから、何の事言ってるのか分からないよ……、キャッ!」
邪魔な物を1つ1つ取っ払って行く。
俺のトラウマ。
幼馴染みとしての距離感。
女優としての立場。
1人の男、1人の女として、1つ1つ……。
「手馴れてる感がちょっと嫌だな……」
キスをして口を塞ぐ。エミルが俺の顔を両手で掴み、離してくれない。
せっかく邪魔な物が無くなったのに、これじゃあエミルをちゃんと見れないじゃないか。
大丈夫、何も恥ずかしがる事なんてないんだ。ほら見えた。
「綺麗だ。あの時はじっくりと堪能する余裕がなかったからな」
両親が事故で亡くなった後、何とか俺を元気付けようと一緒に泣いたり、冗談を言ったり、学校の話を振ったりしてくれていた夏希。
その夏希に対し、俺は一切の反応をせずに無表情で黙ったままだった。
優奈の面会時間はずっと病院におり、面会時間が終われば家に帰ってぼーっとする生活を続けていた。
これではダメだと思ったんだろう、夏希は俺の目の前で着ていた服を全て脱ぎ、裸で抱き着いて来たんだ。
「これでも、アカンの……?」とても勇気が必要だったであろう。そこまでしても反応を見せない俺の目の前で、夏希は泣いていた。
女性として見られなかった事、ここまでしても俺が無反応な事、どちらにしてもショックだっただろう。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。自分が情けない。
「何の事か、分からないよ……」
シーツを握り顔に押し付けて隠す夏希。鼻水を啜る音、身体を震わせて泣いている。
この涙は、その時を思い出しての悲しみか、それともこんな日が来た事に対する喜びか……、それとも両方か。
「夏希、ありがとうな。エミルは知らん事かも知れんけど、夏希には本当に感謝してるんや。
大好きやで?」
声を上げて泣く夏希。ただ抱き締める事しか出来ない。横向けに寝転んで抱き締め、背中を撫でる。
耳元で、ありがとう、大好き、これからも一緒にいてほしい、そんな事を言い続けているうちに、夏希は寝てしまった。
寝てしまった夏希にタオルケットを掛けたはいいが、さぁこの衝動をどうしようか。
せっかく夏希も了承の元、事を運んでいたのにも関わらずこのお預け状態。
この行き場のない衝動を、昂ぶりを1人で処理するなんてとんでもない!
ここはひとまず落ち着こう。大丈夫、今は夜の8時。時間はまだ十分にある。
夏希も今日はとても疲れただろうから、このまま朝まで寝ている可能性はあるが、そうなったらそうなったで構わない。朝日の中で結ばれるってのもなかなかイイもんだ。
久しぶりに帰って来た部屋、少し掃除をする。物音で夏希が起きたら一石二鳥だ。でもあまり音を立て過ぎても無神経な奴になってしまう。加減が難しい。
全く起きる気配がない。あれから2時間が経った。
俺も疲れているはずだが、精神状態が最高にハイってヤツなので寝れる気がしない。
夏希が俺のベッドに寝ている。この状況で寝れる奴の気が知れない。さっきから何度も部屋を意味もなくウロウロしているが、もう限界かも知れない。
「ん~……」
夏希が寝返り、掛けていたタオルケットがハラリと落ちる。隠されていた胸元が露わになり、目が離せなくなってしまった。
ちょっとだけ、ちょっとだけ触る程度ならいいだろう。
夏希の横に寝転び、ピタっと身体を密着させる。まだ起きる気配はない。
後頭部に顔を埋める。反応なし、オールグリーン! いや俺の脳内はオールピンクだ!! ヒャッハー!!
掛けていたタオルケットをバサリと取り去り床へ捨てる。
さぁ、ショウタイムの始まりだ……!!
「んっ……」
夏希の顔が目の前にある。チュッ、キスをするとパチリと夏希の目が開いた。
「ゴメン、寝てた……?」
「いや大丈夫、寝ててくれてもいいよ。堪能させてもらってるし」
話す間も手を止めず、身体を起こして首筋に鼻を当て、深呼吸する。
「ちょっと!? アカンて、シャワーも浴びてへんのに……」
「今はエミルなんじゃなかったっけ?」
あれあれあれ? ニヤリと笑った俺の顔を見て、またシーツに顔を押し付けてしまう。
「じゃあシャワーを浴びに行こう。洗ってあげる。さぁ、腰を上げて」
シャワー浴びるなら服を脱がないとね。びちょびちょになってしまう。
「じ、自分で出来るから! 大丈夫だから!!」
慌てて起き上がり、俺の手を制する。分かりました、自分で脱ぐと言うのならそうしてもらいましょう。じ~っ。
「変態っ!」
むしろご褒美です。
俺が脱がすという提案を断らせ、自分で服を脱がせる事で一緒にシャワーを浴びるというより難を示しやすいであろう提案のハードルを下げる。
しかし、だからと言ってなかなかそう簡単に素っ裸になれるわけもなく。真っ赤になってモジモジしている夏希が愛おしく感じられる。
「夏希、ごめんな。もう我慢出来ん」
シャワーなんて浴びなくても、したい事は出来るのだ。
いつもありがとうございます。
また明日もお付き合いよろしくお願い致します。
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9/23 誤字修正
・あまり音を立て過ぎても無神経や奴になってしまう → あまり音を立て過ぎても無神経な奴になってしまう




