アパートへ行こう
優希と夏希の愛の逃避行です。
10/30 感嘆符後のスペース追加、三点リーダーを偶数に変更、ルビ等その他追加修正
エレベータが開き、病院フロアへ到着。
逃げ子さんの案内で、第三診察室と書かれたドアプレートの前で立ち止まる。
「先生、実はボクもご相談したい事があるんだけど」
「ふ~ん、いいよ。可愛い甥っ子のハーレムの一員ならいくらでも診てあげるよ」
「いやいや冬美ちゃん、そのコはまだハーレムに入ってへんから」
「……、まだって?」
おっと失言、いや言い間違えですからそんな目で見ないで下さい夏希さん。
逃げ子さんもその無垢そうな瞳で見つめないで、あんた心は男なんでしょ!?
「優希もなかなかヤる男になったもんだな。一緒に寝てはオネショして私のパジャマを濡らしてたクセに。あ~可愛くない」
その情報今いりますか? ってかその話絶対牡丹にするなよ! 変なお姉さんステージにレベルアップされたら敵わん!!
「じゃあ先に君の話を聞こうか。隣の診察室も空いてるみたいだし、そちらに行こう。
お前達はここで待ってな。今までのやり取りを見た限り悪くはなさそうだし、私がする事もそう多くなさそうだ。
2人でじっくり話してればいいさ」
ニヤっ、と笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でる冬美ちゃん。あぁ~、どいつもこいつもエスパーかよ!?
分かったよ、ここまでされたら逆に開き直れるわ。堂々と抜け出してやろうじゃないか。
冬美ちゃんと逃げ子さんを見送り、夏希と2人きりになる。居心地悪そうにしている夏希の手を掴み、立ち上がらせる。
「ゆーちゃん、どしたん?」
「逃げるぞ」
「え!?」
手を握ったまま診察室を抜け、エレベーターを呼び出す。俺達が来たまま残っていたようで、すぐに扉が開いた。1階のボタンを押して閉じるを連打する。早くしないと誰か来そうだ。
「何であそこやったらアカンの?」
「プレイルームはほとんど監視カメラとマイクが設置されてる。全部筒抜けになる。瑠璃がニタニタしながらモニタリングしててもおかしないんや」
チンっ、プレイヤー用の出入り口に到着する。
そのまま外へと出て、すぐに来たタクシーに乗る。行き先を伝え、そのまま出してもらう。
「はぁ……、紗雪の事やから邪魔が入らんようしてくれるやろう。このまま俺のアパートに行こう。そこやったら紗雪しか知らんし、あいつは俺らがゆっくり話したらええと思ってるみたいやったし」
不安そうにしている夏希の手を優しく撫でる。
今日は本当に色んな事があり過ぎた。夏希も泣いて泣いての後のあの事件のリプレイで、精神的に結構消耗しているだろう。大丈夫だろうか。
体を近付けて肩を抱き寄せる。髪の毛を撫で、よしよしする。
「髪の毛、綺麗やな」
夏希の顔が赤くなる。照れた表情も愛おしく感じる。何で今まで俺は夏希なしでいられたんだろうか。
こんなにも大好きだと心臓が訴えているというのに。
ヤベェ、ちょっと下心がむくむくと起き上がって来てしまった。ただのお話で済むだろうか。
そうだ、念の為近くのコンビニで停めてもらおう。
あぁ、この匂い落ち着く……。
コンビニに到着し、支払いを済ませてタクシーを降りる。
ちょっと飲み物を買おうと夏希に伝え、コンビニへと入る。さりげなく必要な物をカゴに入れ、お菓子の下に隠しておく。
「腹減ったな、弁当でも買うか? それともオニギリとか軽めの方がええか?」
「あんまり食べる気せぇへんし、オニギリの方がええな」
俺もそんな感じだ、とにかく疲れた。オニギリやサンドウィッチなどを適当に入れ、レジへと進む。
さてどうしようか、どうしたら夏希の意識を逸らせるか。
「夏希、お前が出てる雑誌ないん? 何かないか探して来てくれへんか。実際に見てみたい」
「え~!? マジで……、うん、ちょっと見てくる」
トボトボと雑誌コーナーへと行く夏希。よし、これなら見られずにレジ袋に入れてもらえるだろう。
よし、バーコードを読み終えて店員がカウンターへ置き直す。早く袋に入れてくれ……。
「なかった」
うわっ!! ビックリしたぁ~、今足音殺してなかったか?
「そうか、残念」
バレてるか? いや分からん、とりあえずコンビニを出よう。ここからは歩いて5分。早やる気持ちを抑え、ゆっくりと歩く。左手で夏希の手を握り、ゆっくりと歩く。
「「…………」」
話したい事がいっぱいある。
聞いてほしい事がいっぱいある。
聞きたい事もいっぱいあるが、今はこのまま手を繋ぎ、歩いていたい。
今や人気女優となってしまった夏希は、今だけは俺の幼馴染でいてほしい。
そんな事を思っていると、アパートに着いてしまった。
「この部屋で一人暮らししてるんだ」
夏希がワンルームのこの部屋を見回して、そう呟く。
「ん~、最近は全く帰ってへんけどな。今はあのビルの最上階が俺の家や。スカウトされて、ハーレムの主になってくれ言われて、流されてそうなってしまったわ。
何でこんな事になったんやろな」
「今はその話よくない?」
そう言って、夏希が俺に抱き着いて来た。ちょっと意外だったが、すぐに抱き締め返す事が出来た。
お互いの温もりを感じ、そしてそっと離れる。見つめ合い、キスをする。ねっとりと、高校生の頃とは違う大人のキスをする。
「ふぅ……、こんな感じなんやな。めっちゃドキドキするわ……」
夏希が目を合わさず呟く。耳まで真っ赤にして、長く伸びた髪の毛を指先で弄る。
ちょっと意地悪したくて下から覗き込むと、顔を背けられてしまった。
「う、うちもそのうちキスシーンとかあるかも知れんやん? そん時でもこんなに顔真っ赤にしてたらNGになってまうな」
「今はその話よくないか?」
もう一度大人のキスをする。背中に手を回し撫でる。触った事のない幼馴染の柔らかい所に手をやり、弾力を楽しむ。夏希の息が荒くなるのを感じる。
呼吸するタイミングを逃しているのだろう。ゆっくりと顔を離す。目が合う、逸らされない。
ふふっ、とどちらともなく笑い合う。
「こんな日が来るなんて、いや思ってた。思ってたけど、こんなに早くこの日が来るとは思ってなかった」
そうだな、俺もまさか夏希と抱き合って笑い合う日が来るとは思ってなかった。思えなかった、か。
いつどこで心のストッパーが外れたのか、多分瑠璃達にハーレムの主になってくれと言われた日なんじゃないかと思うけど。
そう思うと案外流されるのも悪くないかも知れない。
「戻った、と言うよりも変わったな、優希。ええ男になった。もううちの幼馴染やないわ。
みんなの優希を見てる目、多分私も同じ目ぇしてると思う。すんごい嫉妬するんやろうし、今もしてる。優希の初めてがいっつも一緒におったうちやないって。
でも今の優希にしたんはあの3人やと思う。あの3人やから高校の時のトラウマも、事故の後の喪失感も埋められた。
そやし、今さらうちに優希を返してなんて言えへん……」
そう言って、俺の胸に顔を埋める。しっかりと両手で抱き着き、それでも離したくないと訴えるように。
俺からハーレムに入ってくれなんてとても言えん。それでも夏希と一緒にいたい。
だからと言ってあの3人とは今さら離れられない。もうそれぞれ好きになってしまっている。
俺は何というワガママな奴だったんだろう。全部手に入れたくて仕方がない。
「ゆーちゃん」
抱き着いたまま俺を呼ぶ夏希。呼び方が小さかった頃と一緒で何となく安心する。俺は夏希の幼馴染でいいんだ。
「ん?」
「私は結城エミル。カメラの向こうで沢山の人が応援してくれているの。もうあなただけの幼馴染じゃなくなったのよ?
そしてあなたも、夏希だけの幼馴染ではなくなった。
だから今日は、今日だけはエミルとして愛してほしい。今だけは優希だけのエミル、夏希だけの優希として……、愛し合いたいの」
もう止められない。理性が飛ぶ音が聞こえる。
優しく出来るだろうか? 欲望をぶつけるだけにならないだろうか。
おっと! その前に。そっとエミルを離し、買って来たレジ袋の中の必要な物を取り出す。
「ふふっ、今のタイミングで出すものなの?」
「いや分からん。いつも着けないから……」
おっとエミルの顔が変わりました、蕩けたような表情が驚きの表情に変わる。
雰囲気ぶち壊してしまったか!?
「だからこれ渡して来たんだ。びっくりしたけど今納得した」
「ん? 何それ」
「終わった後に飲んでって、紗雪ちゃんが」
ほう、そんな物を飲んでたんですね。お薬その後にってやかましいわ。
次話は次の日かな? それとも2人で出来るもんかな?
23時を待てっ!!
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9/22 誤字訂正。冬実になっていたのを冬美ちゃんに統一しました。
9/23 誤字修正。みんなの優希を見える目 → みんなの優希を見てる目




